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弱き勇者の最強譚(旧題:心のカタチ)  作者: 二本狐
第一章 別れと出会いの召喚
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これから……


 トルトーナとの会談が終わり連れられてやってきた場所は、ひとりひとりに割り振られた部屋だった。その部屋一つ一つの広さは、教室よりも一回り大きく、家具も見るからに高級品といわんばかりに輝いている。つい先ほどまで一般人だった彼らには非常に使いづらいものばかりだ。



「では、夕刻にお呼びいたしますのでそれまでごゆっくりしてください」



 そう言ってあっという間にどこかに言ってしまった。いきなり不安な環境に投げ出され、精神的にまいるということは考えていないのだろうかと、健翔は思わずため息を吐く。地球でもそうだが、自身が住み慣れた場所じゃない他の土地だと、暫くどんな快適な生活を営んでも、体力を無駄に消費するし、精神的にも弱くなってしまう。



 ただ、それは、今回で言えば現地人であるトルトーナがいたとしても、それはあまり変わらない。結局のところ、いてもいなくても精神的に不安になる要素が違うだけだったので、どちらにしろ同じだった。



 そうなると、誰が言い出したわけでもなく、彼らは一番頼りになる健翔の部屋に集まった。

 健翔はなんとなくそうなるだろうとは考えていなかったので、なにから話そうかと悩み、とりあえずこれからの振る舞いについて話すことにした。というか、考えてなかったのか。



「とりあえず、だ。さっきは俺がリーダーとなって会話をしたが、これからはお前ら自身もここの奴らと話す機会が出てくるはずだ。そうなったらびくつかずに堂々と話せ。そうだな、俺ほどじゃなくていい。好印象が残る程度だな。あとは、これもさっきは俺が勝手に決めたが、戦いたくないってやつは、いるか?」



 勝手に決めたことを少し後悔し全員に問いかける。流石に女性陣は戦うのが嫌だという予想を立てたが、驚くことに誰一人手を挙げることはなかった。



「……ならこのまま戦闘訓練を受けることにしてもらう」



 健翔は嬉しい誤算だと少し頬を緩ませながらそう言った。

 そこでふと思ったことを颯太は口に出した。



「戦闘って、やっぱり魔物が主になるのかな?」

「……どうだろうな」

「……どういう、こと?」



 柚希が眉を(ひそ)める。乃乃や瑠璃は虚を突かれたような顔をし、説明を要求するような視線を健翔に送る。が、健翔がそのことに口を開くことはなかった。



 健翔が少し考えを巡らせた中には、魔王出現時の討伐。それは確かにあるかもしれない。が、その裏はこの国が召喚した勇者が魔王を討伐したという実績。そのことで世界を牛耳ろうとしているのではないだろうか。



 前回勇者を召喚した国は勇者を倒し切れていないのだから、うちの勇者が倒したら私の方が偉くなる、といった考えなのだろう。



 健翔はリーダーシップをとってる手前、そのことは口を避けても言うことはできなかった。



 代わりに違うことを口にする。



「じゃあ、もう一つ。お前らはこれからどうしたい?」



 健翔の問いに、皆がきょとんとし、健翔の質問の意味を測りかね、瑠璃が質問した。



「どういうこと健翔さん。どうしたいって……」

「少し説明が足りなかったな。つまりだ、これは例だが、この城に閉じこもりたいとか、地球に帰りたいとか、世界を見て回りたいだとかだなぁ……」

「僕はまず様子見かな」

「……私も」



 真っ先に颯太と柚希が先延ばしを宣言した。良し悪しで決める二人らしい回答だった。



「瑠璃ちゃんどうだ?」

「私は……強くなる。あの時、お兄ちゃんは守ってくれるって言ったけど、今この場にお兄ちゃんはいない。だったらそれまでは自分で身の安全を守るしかないもんね!」



 あの時、透明な壁に阻まれて会話をしたときのことを思い出す。

 煉が瑠璃に言った言葉は今でも鮮明に記憶に焼き付いている。兄の表情、兄の声、そして妹へとかけられる優しい言葉を。



 その時瑠璃は、兄を逞しく感じた。が、だが少しだけ悲しい気持ちにもなった。その気持ちの正体がわからずじまいだが、きっと守ってばかりいるのが恥ずかしいと感じたのだろうと思い込むことにした。それが、兄離れ宣言となったのだ。



 そのことを知ってか知らずか、健翔は「わかった」と頷き、最後に乃乃を見た。



「乃乃、お前はどうしたい?」

「私は……」



 逡巡する。回らない頭を一生懸命回す。

 旅は無理。強くなるのは絶対。生き残りたい。



「私は……どうしたらいいのかな…………」

「別に、やっぱり戦闘は嫌だって言ってもいいんだぞ? それならおれが取り計らって──」

「ッ! 戦うよ!!」



 声を思わず張り上げる。全員の視線が乃乃に向けられたが、それに構わず自身の思いを爆発させた。



「確かに戦うのは嫌だよ。でも、私はみんなのお荷物にはなりたくない。命の危険も身近で、さっきまで平和な日本にいたのに、どうして危険な目に合わないといけないのか私にはわからないよ! でも、だからって怯えているだけじゃ私、変わらない。あの時と同じで……」



 いつの間にか涙が溢れ出していることに気付いた乃乃は涙を拭く。しかし止まらない涙を何度もハンカチで拭い、言葉を発した。


「私は、戦う。皆と、頑張って一緒に戦うよっ!」

「……よく言った乃乃。でも、無理はするなよ?」

「もし危なくなったら私が守ってあげるからねっ!」

「私も、守る」

「頑張ろう、乃乃さん!」

「うんっ!」



 瑠璃と柚季と颯太に元気をもらい、乃乃は先ほどとは違う、嬉し涙を流しながら惚れ惚れするような笑顔が咲かせた。


お読みいただきありがとうございます。

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