第8話:前進
『なんで私はここにいるんだろう?』辺りをぼーっと見渡していたら、母親が病室に入ってきた。
「あっ目覚めた?あなた車の前で倒れたらしいわよ。車にひかれなくてよかったわねー。」
「…倒れたの?」
「覚えてないの?医者が言うにはストレスとかが原因らしいわ。点滴うってもらったからもう帰れるって。」
「そっか…。わかった。」
病院をでてタクシーで家に帰り自分の部屋で寝ていたが、その間ずっとさっきの夢のような出来事について考えていた。
『ちよと昔捨てられて怪我をしていたクローバーは同じ?あの夢はなんだったのだろう…。
どうしてあんな夢をみたのだろう…。確か…私が倒れる直前に見たのも…』
「クローバーだ!」
私はふらふらの身体を起こし急いで部屋をでた。
「そんな身体でどこいくの!」
母の言葉に答えず家をでた。
さっき倒れた道まで走っていった。
確かに私が倒れる瞬間にクローバーを見たはず。
あれは幻だったのか。
あたりを見回すと道路の隅に猫が倒れていた。
その猫はしっぽがわかれていて、間違いなくクローバーだった。
昔とかわらない子猫のクローバーだった。
さっきの夢でちよが言っていたことを私は理解した。
「もう行かなくちゃって先に行っちゃったんだね…。」
その子猫はすでに動かなくなっていた。
ちよが私に最後に言いたかったこと、思い出したクローバーとの記憶、以前のままのクローバー、私は涙がとまらなくなった。
そして動かないクローバーを抱き上げそっと頭を撫でた。
クローバーと出会ったのは、私が6歳くらいの時だった。
今のマンションに引っ越す以前に住んでいた田舎町で、草むらに捨てられていた。
正確に言うと、捨てられてそこに住んでいたのかもしれない。
私はある日クローバーを見つけた。
その時のクローバーは身体が傷だらけで痩せていた。
私はミルクなどをクローバーに与えていた。
本当は家でこの猫を飼いたかったが、動物を飼うことを禁止されていたので毎日餌をやることしかできなかった。
私がクローバーの面倒を見ていたことは私だけの秘密だった。クローバーの姿がいつもの場所にいなくなって2日ほど経った後、私は餌のミルクを持っていった。
しかしまだクローバーの姿は見当たらず、辺り、車の下などを探していた。
子供だった私は探すのに夢中になっていて車が下がってくるのに気が付かなかった。
気付くと病院にいて母が心配そうに私を見つめていた。
自分が何をしていた覚えていなかった。
精密検査などしたが異常はなかったがぽっかりとクローバーに関する記憶がぬけていた。
クローバーのお墓を作りながら昔のことを思い出していた。
なんでクローバーが10年以上経った今も昔と変わらない姿だったのか、なんでちよとして現われたのか不思議ではあったが、それより私はクローバーとちよに対して感謝の気持ちでいっぱいだった。
私はこの出会いによって忘れてた記憶と何かを思い出した。
今までただ何となく生きていたがもっと大切なことがあった。
野良猫を探していた時の自分にあったような何かを…。
何かに執着し頑張る姿を。
いずれにせよ私の進むべき道は少しはっきりしたみたいだ。
ちよは私の中で今も生きていて、私が迷ったり投げ出したくなった時勇気をくれる。
この新しい記憶を忘れないようにノートに書き残して置こう。
「あっそーいえば、野良猫いなくなったみたいだから、明日の捜索は取り止めみたいよ。どこいったのかね?」
「…天国だよ。きっと。」
母の問いに私はぼそっと答えた。
『ありがとう。クローバーそしてちよ。今度こそ忘れないからね』
最後まで読んでいただきありがとうこざいます。初めての長編で難しかったです。終わりは予想できていたでしょうか?これからの奈々の成長が楽しみです。