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ディレクターの苦悩

熱気に溢れるドラマ収録スタジオ。


院長が倒れた後はサアッ~と潮が引いてしまった。


「なっなんなんだ」


台本を片手に腕組みをするディレクター


あれだけドラマ進行に夢中であったはずがあっけに取られてしまう。


プロダクションの関係者が平謝りをする。


「すいません。聞けば主役の身内の方が倒れたらしいんです」


身内だろうがなかろうが


「主役なしでドラマ進行ができないじゃあないか」


局の体面を重視したドラマ制作は注目度がよりいっそう高いのである。


若いAD(アシスタント)は病人の様子を医務室へ確かめた。


「たった今救急車が呼ばれました」


ハァハァ息を切らし駆け足で戻ってきた。


「…ではなにかっ」


担当ディレクターは苦虫を噛み潰す。


祖父だか身内だか


「じいさんに(主役の)俳優は付き添ってしまいスタジオ収録をすっぽかしなのか」


冗談じゃあないぜ!


曲がりなにりもプロの役者だろう!


「小学校の学芸会じゃあないんだぜ」


ディレクターは憤懣やる方ない


怒り顔をみせた。


「俳優の我が儘は今に始まったことではありませんけども」


アシスタントは余計な一言をこぼす。


「我が儘なあっ~」


これからのテイク(収録)は一端中止にし延期としても

端役の役者さんのスケジュールは延期はできないではないか。


「端役はあくまでも端役であり脇役というが」


軽い演技の役者さんでもちょい役のタレントとは限らなかった


「このドラマのためにどれだけ役者のスケジュールをおさえていると思っているんだ」


主役の身勝手のために収録の延期


プロダクションからの損害賠償が発生する可能性がある。


ディレクターは統括責任者として最悪を恐れた。


「ちくしょうめ」


我が儘な主役を降板させたいぜ


「脚本(台本)の書き直しを先生に頼むか」


主役のテイク(場面)を後回し


今できるテイク収録を工夫したい。


ブツブツ


「あの脚本の先生はまたまた堅物だからな」


考えを巡らせたディレクターはどうにも八方塞がりに陥る。


「ああっ~俺はこのドラマを担当したばかりに」


編成局長からダメ押しされるのか


"汚点"を残す!


局長にできの悪いディレクターという烙印を


パァ~ン


制作部門の順調な出世をこの歳で諦めねばならぬのか。


「仕方ない」


収録の延期を2~3日とし役者さんに切り出そうかとする。


役者からの愚痴や嘆きは聞きたくない。


トントン


ディレクター控えのドアだった。


「やあっ忙しいところ恐縮さまディレクターさん」


のっそりと大御所が顔を出した。


芸能界に多大なる影響力をもつ首領(ドン)


若いディレクターの悩みをつぶさに感じとる。


「と言うとだなっ…。ドラマ収録は主役不在になるわけだ」


雑誌と新聞で乱雑な控え室に偉大な先輩大御所が来られ恐縮しきりだった。


「はっはい」


収録は


「どうやって進行するんだね」


核心部から切り出した。


「はあっ~それがそのぉ」

困った姿は想定の範囲である。


大御所は台本をディレクターの前に突き出した。


「この本だが…台本を書き換えたまえ」


私の役どころ"院長"を主役にしなさい。


「あの院長先生には恩義があるんだよ」


脚本家に台本を書き直して貰いなさい。


「私は改めてギャラはいらないよ」


この歳になって金には固執しない


「孫のような若い俳優の伸びやかな演技を見ることが楽しくてね」


大御所は


その場で進言する。


「脚本家に連絡を取りなさい」


このままで収録はままならない。


「ディレクターさんはまだまだ若いからな」


困った顔つきはすべてを物語る。


鶴の一声!


完成した台本である。


脚本家への気まずい指示など出せる立場にはない。


「アハハ~大丈夫だよ。私の意見なら彼も喜んで聞いてくれる」


ハリウッドスターからの要望を日本のテレビ脚本家風情が拒否できるわけがないじゃあないか。


大御所はその場で気さくに携帯を取り出した。

 

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