精霊ら
「戦力が、圧倒的に...足らない...」
明るい談笑が起こる部屋のさらに奥、リオの背後の扉の奥のとある部屋。閉じきった暗い部屋のベッドの上で踞ってる私。何をすれば、どうすれば、世界を救えるのだろうか。わからない、故に動けない。わからない、わからない、わからない、泣きたい、逃げたい、喚いて役目を託したい、放棄したい、殺したくない。
「なんで私がこんな役目負わなくちゃ駄目なの...嫌だよ...」
臨むのは取捨選択、ロールプレイングの連続。人の命を天秤にかけた究極のトロッコ問題。
しかしいくら足掻いても結果は一緒、結局は誰も生き残らない終焉に収束する。
見知らぬ誰かを救えば親しい誰かが傷つき、無視して先に進むと無人の荒野が広がる。
何をしても誰かを救っても誰かに恨まれる。できる限りを尽くしても結果は対して変わらず結局は皆死んでしまう。
そんなこと連続でもう、もう既に私の精神は病んでしまった。
「あははは」と口角上げて息を吐くが、それは乾いた笑い。それは作った笑顔に過ぎなかった。
(誰の為に笑ってんだろ私)
あ...気づいちゃった。そうだそうだ、私が笑う必要なんて...
「やあやあヴィア、そんな暗い顔してどうしたんだい?辛いことがあったのなら何時でもお兄ちゃんに言いなさい、リオでも聖女ちゃんでもポコポコの刑に処してやるよ」
「そうだよヴィアちゃん、一人で抱え込まないで。私たち同じ四大精霊の間に隠し事は無し‼お姉ちゃんたち信用して任せて」
(マルティウスにアルテミス?)
腕から顔を上げると扉についてる丸ガラスを蓋をするカーテンが退けられて、暖色系の逆光が二人の顔を影で覆い隠すように差し込んできていて、私の視界を焼いている。
精霊という仲間、というか兄姉がいるのにようやく気が付いた。
「しかししかししかし、まあったくお前は昔からそうだ。もっと『俺たちを使ったら』いい」
二人の深紅と深藍の瞳が現実を焦がし幻想へと沈めかかってくる。
実に甘美で安い舞台で踊り狂いたくなりつつ選択は縛られている。
あいつを殺せるなら手段は問わない、己の命さえも投げ捨ててやるという強い覚悟がひしひしと伝わってくる。
でも、(その責任の重みは背負いきれないよ)
「離れ離れは嫌。ハッピーエンドまで私が連れてくから、だから...だから...」
「違うぞヴィア、俺たちは不滅だ。再開まで十年、百年、いや千年単位かかることになるかもだけど、いつかは俺ら精霊皆揃うことができる」
「っつ......」
私の崩れた顔を抱き締める二人。
「あぁあ...ああ...」
涙なんか流れない。リオたちとは違う精霊の特徴。
遮られた顔は観測出来ず、泣いてる緑玉色の髪の少女なんておらず、割ってはいれるモノはおらず。
「私はそんなの耐えられない。ずっと...一緒がいいよ...リオも皆も、一緒がいい‼」
重ねていうが精霊は泣けないのである。人間とは悲しみを分かち合えない。その理由は......お母様だけが知っている。
「嫌だよ、やだよ。どうにか出来ないの?マルティ‼」
酷いよお母様。こんな風に創ってしまうなんて......。
「‼」
マルティ?今なんていったの!?確か、今「そうか、ヴィアは優しいな」と言った!?しかし宥めるような雰囲気ではなかった。もしかして、あのことを伝える気じゃっっ。
「リオも皆も一緒にいられるようにする手段はあるぞヴィア」
「マルティ...?それを言ってはいけな...――」
「良く聞け」
マルティは言ってしまった。ヴィアをさらに縛ることになる希望の言葉を。
「うん」
「その方法は 」
私は耳を塞ぐ。何故ならばそれを聞いてしまったらもう心のブレーキが外れてしまう気がしたから。
◇ ◇ ◇
私とマルティウスことマルティはあの後、ヴィアの契約者の所へ来ていた。
「取り敢えず寝かし付けてきた、けど契約者である貴方が行くべきだったのでは、リオ」
「そうか...?そうなのかもな」
「ちゃんと聞けよ」
「聞いてる」
マルティの語気が強く荒い。相当苛立ってますねこれ。
橙色の照明をその背に受け、ただ淡々と大剣を研ぐ大柄な金髪の男、リオ・エルヴィオ。隻腕で研ぐ姿は見た目とは裏腹な器用さ、されども会話には華は無く、空気に影を差す覇気なき言葉を吐いていた。
「「.........」」
「俺の責任をアイツが背負っちまってる。しないといけない事としてはいけない事、両立してるものを簡単に選べる程ハイテクな天秤は持ち合わせてない」
「はっあああああぁ??‼」
あっ、やってしまった。さっきの無責任な言葉につい苛立って大きな溜め息をついてしまった。
それにさっきは威圧的な態度だったマルティが驚いて目を丸くしてこちらを見ている。
ああもう仕方がない、やるしかない。
コホンと咳払いをして一言。
「...そんなの私たちもそうですよ」
先の少しピリついた荒い雰囲気は一転し気だるげな感情が蔓延した、気がした。
「『人生はロールプレイング』なんて本当笑ってしまいます。それでも『なにもしない選択は『勿体無い』から行動する』のでしょう?ヴィアが言っていました。それに『リオは諦めない』とも。でも貴方は今立ち止まってしまってる。失敗するのが怖いのでしょう、ヴィアの事を思ってるからその選択をしたのでしょう。しかしこのままではあの子は潰れてしまう。だからせめてあの子だけでもを助けてあげて」
うん、やってしまいました。一言喋るつもりが次から次へと言葉が出てきて折檻みたくなってしまいましたぁ。
これは?明確に失敗でしょうかああああ。
「ありがとう...後は俺ら契約者組に任せて寝ておけ」
「あっっ...あり...うちのヴィアを任せてましたよ‼」




