モノローグ 獅堂静香
「また敵に見つかってしまうとは情けない。いや敵地だから当然か……」
こんなところで、やられるわけにはいかなかった。
命をかけて部下達が私を逃がしてくれたのに、全てが無意味になってしまう。
約束も果たせずに、あの世に行ったら合わせる顔がない。
しかしこちらは生身、敵は機甲羽衣が三機だ。
こっちの武器は拳銃のみで端から勝負にならず、私は廃墟の奥へ逃げ込んだものの、対人センサーがあるので隠れても無駄だった。
撃ってはみたが敵は避けようともせず、命中した弾丸が跳ね返っただけ、ダメージにもなっていない。
「くっ! やはり機甲羽衣がなければ無理か」
追ってきた三機は散開して、じわじわと私に近寄ってくる。
逃がさないように確実に仕留める気だ。私は天を仰ぐ。
「ごめん、みんなごめ…………ん⁉」
大きな音がしたので、建物の隙間から覗いてみると敵の一機が倒れていた。
よく見てみると膝関節をやられたらしい。電気火花が散ってる。
すかさず二機が駆け寄ってきて、周りを見ながら大声で騒いでいた。
「くそ、仲間がいたのか⁉」
「どこだ、どこにいる⁉」
どうやら何者かの攻撃を受けたようで、実行犯を必死で探していた。
敵地なので私の味方ではないだろう。第一こんな所に友軍はいない。
息をひそめて見ていると、今度は敵の足下に穴が開いて土煙が舞う。
これで狙撃なのは分かったが、発砲音は全く聞こえなかった。
「ありえない……」
長距離射撃でも火薬を使ってるかぎり、少しは音がするはずなので、機甲羽衣なら音センサーが敵をみつけるはず。
一瞬の銃口閃光でも、AIが場所を感知するだろう。
「センサーに反応がないだと!」
「同じく……」
ところが敵は慌てふためいていて、狙撃手を発見できなかったようだ。
私も訳が分からない。ただ一つ分かったのは、二度目の射撃は警告だろう。
当てる気ならとっくに仕留めてるはずなので、この場を去れと言ってるのだ。
「警戒しつつ後退だ!」
「了解」
敵も理解したようで、仲間を抱えて撤退していく。状況不明で無駄死にはしたくないからな。
私はホッとした。
「ふぅ、ひとまず助かったけど……はっ!」
狙撃した者はまだ近くにいる。気配を感じて振り返ると、太陽を背にして立ってる者がいた。
「君は――――⁉」
「動くな、下手な真似をすれば撃つ」
そしていきなり拳銃を空に向けて撃った。銃声が辺りに響く。
これは威嚇だ。
「……分かった。言うとおりにする」
私は両手をゆっくりと上げて彼女を観察する。
逆光で見づらかったが目の前にいるのは少女で、体は小さく十二歳くらいだろうか。
ポンチョを羽織りボロボロの服を着て、ボサボサ髪。私は察する。
(これが民間人……孤児というものか? 教本でしか習ったことがないので、詳しいことは知らない。見たのは初めてだが、ここで生活してるのだろう。だとすれば廃墟は彼女の縄張りで、あちこちに罠の仕掛けがあるかもしれない。下手なことはしない方がいいな)
もっとも私は抵抗する気力もない。
これでさっきの戦闘も合点がいく。敵機は何かの罠にかかっただけだ。
たぶん彼女は自分の領域を荒らされたから攻撃したのだろう
ただ私を殺さないところをみると、何か聞きたいことがあるのかも知れない。
「それで何をすればいい?」
「質問に答えてもらう。まず、ココはどこだ?」
「えっ……」
予想外の質問に私はとまどう。誰でも知ってることだったからだ。
それでも少女の機嫌を損ねてはまずいので、私は正直に答えた。
「ここはヴァージン大陸の中央部、地名は知らないし正確な位置も分からないが、敵の支配地域だ」
「お前の名は? そしてどこの国同士が戦ってる?」
「私は鐵乙女団所属の獅堂静香、敵対してるのは紅蓮姫団だ。国というのは知らない……」
「いつから戦ってる? 戦争が始まって何年が経った?」
「私が生まれる前からで、たぶん二十年以上は経ってると思う。知ってるのはそれだけだ」
「お前は敗残兵か逃亡兵か?」
「逃亡兵……だろうな。部下を犠牲にしておめおめと生き残った隊長だ」
「…………」
彼女は黙り込んで考えているようだ。それにしても少女とは思えなかった。
有無を言わせない尋問や銃の扱いが手慣れていて、まるで歴戦の兵のようで気圧されてしまう。一体何者なのだろう?
場合によっては殺されてしまうかもしれないのに、私は好奇心が抑えられなかった。
「すまない。こちらから質問してもいいだろうか?」
「なんだ?」
「君の名前を知りたい。あと君の縄張りに入ってしまってすまなかった」
「……アラシ」
怒られるかと思ったが、意外にも彼女は教えてくれた。
妙な名前なのは気にしない。口調は変だし、たぶんまともな教育を受けたことがないのでろう。
それに、どちらの団にも所属していない子供は不思議だ。
そして彼女は質問を返してくる。
「お前はこれからどうしたい?」
「……分からない。味方基地に帰ろうにも道が分からないし、さっきのように敵に遭遇したら為す術もない……」
さっきの部隊が基地に戻れば、私のことは敵に知れ渡るだろう。そして大部隊を引き連れてやってくる。
だったら敵に突っ込んで死ぬまで暴れてやろうか、ふっ。
食料もなく何の当てもない私は、ヤケクソになっていた。
アラシと名乗った少女は、銃を下ろして提案してくる。
「ならば俺についてこい。助けてやるから協力しろ」
「はああああ⁉」
思わず私は叫んでしまう。彼女の言ってる意味が分からず混乱した。
ただ断ったら撃たれるかもしれないし、拾った命を無駄にしたくはないな。
だったら興味がつきない彼女について行こう。
命を助けてくれたのだからせめて恩返しをしたい。私は決めた。
「分かった。君に従う」
この時の私は大きな勘違いをしていて、あとから彼女の秘密を知って驚くことになる。
その前に色々と後悔する事になるが……。
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