出会い
猪の頸動脈を切ったので血が噴き出していた。血抜きしないと食えんからな。
ただこれだけでは足りない。まずは冷やさないと腐ってしまう。
「神聴耳」
俺は聴力を集中させて、雑音の中から水の音を探しだす。
すると小川のせせらぎが聞こえてくる
「……あった。以外と近い場所だ。しかし重いこれを運ぶのは大変だな――やってみるか」
俺は猪の足にロープをくくりつけてから、超能力を使ってみる。
「神風船」
ほんの少しだけ猪は浮いて軽くなる。これなら持っていけそうだ。
獲物を引いて行きながら、俺は愚痴をこぼす。
「……確か大岩とかを高く浮かせられたよなー。これじゃ紙風船だな、やれやれ」
かなり弱くなった念力をなげくしかない。いずれ復活することに期待しよう。
やがて小川にたどりつく。水はかなり澄んでいて魚がいたので、これなら飲めそうだ。
煮沸する必要はあるが、汚川じゃなくて良かった。
そして水に映った自分を見て見る。
「うーん、どう見ても十二歳くらいの子供だな。どうしてこうなった?」
どうせ思い出せないので俺は作業を進める。とにかく腹が減ってしかたない。
折り畳みウォータータンクに水を入れてから、ロープを木につないで猪を川にぶち込む。
まずは全体の血を洗い流して雑菌を少しおとす。
次に落ち葉や朽ち木を拾い集めた。非常用袋からファイヤースターターを取り出して火をおこす。
「炊事道具もあって助かったぜ。これで簡単な料理を作れる」
鍋に水を入れて焚き火で湯を沸かし、少し冷ましてから飲む。
「フーフー、どうやら大丈夫そうだ。今のとこ浄水剤はいらんな。まああとで、濾過器を作る必要はあるが」
これで少しは腹の足しになった。
それから猪の肉をナイフで切り取り、塩コショウをまぶして鉄串に刺して焼く。
有って良かった調味料、生臭さは消えんが多少はマシだ。
「うん、美味い。あとで燻製にしよう」
解体・塩漬け・塩抜き・乾燥・煙と手間はかかるが腐らせるよりマシだ。
氷や冷蔵庫がないからな。むしろこんな知識がある事に驚いている。やはり俺は軍人だったのだろう。
しかし肝心なところが思い出せない。人影にもやがかかっている。
まあ、きっかけがあれば記憶はいずれ戻るだろう。焦っても仕方ない。
「それよりも今日の寝床だ。どうするかな…………あれは!」
身を隠す場所がないと、また獣に襲われかねないので木の上で寝るしかないのだが、近くに廃墟が見えたのだ。これはラッキー。
俺はそこへと向かっていく。
――それから二日が過ぎる。俺はそのまま廃墟で暮らしていた。
建物に弾痕や爆発の跡があったので、ココは戦場らしい。
不発弾や地雷に注意しつつ、生活に必要な物を集めてまわった。
放棄された補給物資があったので、当分は暮らしていけるだろう。
「しかし、近くで戦争してるんじゃ巻き込まれかねないな。さて身の振り方をどうするか?」
人を探して保護を求めるのは論外だろう。奴隷として売られ、少年兵としてこき使われるかもしれないからだ。
戦時中ではよくあることで、人は信用できないし利用されるのは真っ平ごめんだ!
あれ? 感情が高ぶったな、恐らく過去になんかあったようだ。
「やはり何をするにしても、情報を集めるのが先決だな。うんうん」
情報は武器の一つだ。
味方の生死が関わってくるし何も知らないのは、濃霧の中を手探りで歩くようなものである。
何かに躓いて転んでからでは遅いのだ。
気づいたらあの世に行ってる場合もあり得る。まあ異世界とやらは信じてないが。
「ここを少しずつ探索していくしかないな。なるべく他人との接触は避けよ――――銃声だ!」
バンバン、と音が聞こえてくる。やれやれじっくり考えてる暇もない。
誰かが誰かと戦争してるのだから当然か。まずは巻き込まれないように隠れることにした。
俺は迷彩柄のポンチョを羽織り、走って茂みに飛び込んだ。
それから単眼鏡を取り出して様子を見てみる。
「女兵士とパワードスーツが戦ってるな、戦力比は1対3。拳銃一丁じゃ勝ち目はないな、武装に差がありすぎる。生身じゃ機械には勝てん」
じわじわと女兵士は包囲されつつあった。討ち取られるのは時間の問題だろう。
思わず俺は別な感想を漏らす。
「しっかし、なんなんだあのパワードスーツは⁉ 胸と尻が出まくりじゃねえか。あんなエロい物は見たことねえぞ。軽量化にはいいが完全に趣味だな、ホントに戦をやってんのか? ふざけてんのか?」
そんでもって女兵士の方も軍服ではなく、レオタードのような物を着ていたのである。
これは何かの撮影か? みだらな格好を見て俺は疑うが、女兵士の必死な顔を見て違うと分かった。
このままだと女は死ぬ。俺は決断した。
「仕方ない、助けてやるか」
思惑もあるが誰かの顔と被って見えたからだ。名前は思いだせないが、俺にとって大事な人なのだろう。
違う人間でも、むざむざと殺させるわけにはいかなかった。
俺は単眼鏡で狙いをつけ、拾っておいた弾丸を飛ばした。
「神鉄砲」
ドガン、という音とともに多数の弾丸が、赤いパワードスーツの膝関節に命中し、動作不良を起こして倒れる。
念力で弾丸をぶつけてやったのだ。念弾は一発も外さず、命中率は100%。
ただ攻撃に成功はしたものの、その威力には全く満足してない。
「これも水鉄砲がいいとこだ。ああ弱すぎる、弱すぎる、情けない」
これでパワードスーツ部隊は混乱し、三機が集まって周りを警戒していた。
すかさず俺は次弾を放つ、ただし当てる気はない。退却させるのが目的だ。
死傷者を出すと恨みを買い、ズッと付け狙われるようになるので、それだけは避けたかった。
弾丸は三機の足下に着弾する。これで狙撃されてることに気づいたろう。
もっとも銃声のない無音攻撃なので、どこから撃たれたかは分からないはずだ。
ただレンズの光反射は気づかれるので、弾丸を飛ばしたあとに単眼鏡は隠していた。
「後退だ!」
機体から大声が聞こえてくる。そして一機を支えながら、パワードスーツ部隊は後退していった。なんとか上手くいったな。
三機が遠く離れたのを確認し、俺は女兵士に後ろから近づいていった。
気づいて振り向いたので、
「動くな!」
俺は女に銃を向けた。
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