サバイバルの始まり
「……」
「……」
残った静香と天音は、黙々と前進を続けていた。静香の頭の中には後悔の2文字。
(やはり敵地に入り込むべきではなかった。私の甘い考えのせいで、部下を置き去りにしてしまった。こうまでして生きる意味があるのだろうか……?)
自責の念が静香を苦しめるが、それに気づいた天音が気遣ってくれた。
「獅堂隊長、まずは基地に帰還して氷室隊長の責任を問いましょう。敵前逃亡で断罪すべきです! 巴隊はその巻き添えになっただけです。隊長はなにも悪くありません!」
「……そうだな准尉。氷花をぶん殴れと紅美に言われてるしな。約束を果たさねば、ふっ」
「ははははは――はっ! 隊長」
レーダーに反応があった瞬間、天音は静香の機甲羽衣を突き飛ばしていた。
直後に発砲音が聞こえる。機関砲をくらうところだったが、天音の機転のおかげで当たらずに済んだ。
追っ手ではなく敵の警邏隊に出くわしてしまったのだ。もちろん通報を受けての出動だ。
二人に武器はなく反撃はできない。もはやこれまでかと思われたが、
「准尉ー!」
「どうか生きてください、獅堂隊長……」
静香は川に突き落とされていたのである。天音のファインプレーだ。
機甲羽衣がどんどん流されて行くと、モニターから天音の笑顔が消える。
……やがて下流の川辺に静香はたどりついた。
敵はもういない……そして部下もいない……たった一人だ。
やがて稼働限界時間がきて、機甲羽衣は動かなくなってしまう。
機体の中で静香は号泣した。
「うう……こんな作戦に参加すべきじゃなかった! 部下達を止めるべきだった! みんなを犠牲にして何が隊長だ!」
静香は自分自身に腹が立って仕方なかった。部下のために体を張るつもりでいたのに、助けてくれたのは部下達の方だった。
ただただ悔しさがにじむ。
それでも精神訓練を受けた兵士なので、大声を出して落ち着くと冷静になる。
機甲羽衣からサバイバルバッグを取り出して外へ出た。静香は決意を新たにする。
「みんなに生かされた命、無駄にはできない。私にはまだやるべきことがある」
静香は歩きだし、やがて廃墟へとたどりつく……。
◇◇◇
「…………うっ」
俺は目を覚ました。真上には青い空と雲、横を見れば地面と木立。
そして俺は起き上がる。
「ここは一体どこなんだ…………いやちょっと待て、俺は誰なんだ――――⁈」
うーむ、記憶がない。名前すら思い出せん。あてっ!
少し歩いただけで転んでしまう。
体を見て見るとブカブカの服を着ていたので、これでは動きづらくて当たり前だ。
俺はボロボロになっていた服を脱いでポケットを調べてみる。
あったのはサバイバルナイフ一本と認識票、そして地面には非常用袋があった。
認識票を見て少し記憶が戻ってくる。
「データチップが内蔵されてるようだが、装置がなきゃ認識票の中身は見れない。刻印されてる名はアラシ、姓はテンマ。どうやら俺は軍人だったようだな、取りあえず名前は分かったが……」
これからどうしたらいいか途方にくれる。何か大事なことがあった気がするが、思いだせない。
そしてグーと腹が鳴る。
「考えるのはあとだ。今は生き延びよう。まずは水と食料を探す」
サバイバルの基本だ。記憶はなくとも体が覚えてるらしい。
しかしこのままでは動けないので、服を切って縫い合わせ何とか着れるようにした。
非常用袋には裁縫セットの他にも色々な物が入っていた。やはり軍用だな。
継ぎ接ぎだらけでダサい格好だが裸よりはマシだ。どこかで服を調達しよう。
「さてまずは水だ。近くに川はあるか…………なっ⁈」
「グルルルッ!」
いきなり目の前に獣が現れる。見た感じは猪で、体は大きく100㎏はありそうだった。
最悪だ。こんなのの突進を喰らったら一溜まりもないだろう。牙が体に刺されば致命傷で助からない。
そもそも何で俺の体は小さいんだ? 服は大きかったのに。
余計な事を考えてる暇はなく、猪は牙を俺に向けて唸り前足で土をかき始める。
いよいよ襲ってくる気だ。獣に話は通じないし、自分の縄張りに入ってきた者を許しはしないだろう。
「こっちはナイフ一本、非力な体では勝負にもならない。どうすりゃいいんだー!」
もはや絶望的だった。何も思いだせないまま死ぬのはいやだ!
逃げようにも体がすくんでいる。猪はお構いなしに突っ込んでくる!
――その時、俺の頭の中で何かが弾けた。
「折神……」
「プギイィィィ!」
ぶつかる寸前で猪は転んで叫び、のたうちまわっていた。
明らかに痛がっている。足の辺りか。
「……ああそうだ、念力が使えるんだった。俺はエスパーだ」
また記憶が少し蘇る。俺は猪の足の指を折ったのだ。
これで助かったのでホッとすると同時に、がっかりしてしまう。
「しょぼい! 威力がしょぼすぎる。もっとデカい物を曲げられたはずだ。これじゃー折り紙だ」
どうやら体が縮んだだけではなく、超能力も弱くなったらしい。
鏡がないので分からないが、今の俺は少年になっていた。
「ブヒィ……」
「おっと忘れてた。悪いが俺の糧になってもらう」
俺は服を脱いでナイフを構える。あえてスッポンポンになったのは、返り血で服を汚したくなかったからだ。あと臭くなるしな。
疲れて動きが止まった猪の心臓を一息に突いてから、手早く首筋を切った。
苦しめずには済んだだろう。そして俺は手を合わせて拝む。
「命の恵みは大事にいただく。今日からサバイバル生活だ」
俺は獲物の解体を始める。
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