南部の開拓
ガタンゴトン
俺は屋根も窓もないむき出しの列車に揺られ、風を受けながら外を眺めていた。
人工の建物は何一つなく、左右には果てしない草原が広がり、遠くには緩やかな山並みが連なっていた。
上を見上げれば青空が広がり、鳥がゆったりと旋回していた。
捕って食ったら美味いだろうか?
……やばいな、食うことばっかり考えてしまう。少しは風情を楽しもう。
周りにいる女達は笑っていた。どうやら口に出ていたらしい。
俺達は建設中の南の基地へと向かっていた。もともと視察に出向く予定だったが、不測の事態が起きたので、急ぎ向かうことにした。
ようやく単線が開通し、電気専用レールも引いたので、機関車を動かすには問題ない。
しかし客車や貨車がまだ製造中なので、平台車の上に格子柵をつけ椅子を乗せ、無理矢理走らせることにした。
強風が体を打ちつけてくるが、南へ進んでいるので寒さは感じなかった。
ただ風にあおられるため、食事は取りづらく、地図を広げることもできない。
快適な旅ではないにも関わらず、同行希望者は後を絶たなかった。
「絶対にイキます!」
仕事真面目なのは分かるが、女達からは鬼気迫るものが感じられた。なぜだろう?
志乃と静香は笑いながら言う。
「司令が出向くからには、お一人で行かせるわけにはいきません。万が一に備える必要があります。親衛隊メンバーならなおのこと」
「みんな少しでも、アラシの近くにいたいからな。色んな意味で」
「そうか……」
部隊管理は二人に任せてあるが……親衛隊はなかったはず。
たぶん有志が集まってできた、同好会のようなものだろう。気にしなくていいんだが、俺に恩を感じてる者は多い。
ファン倶楽部と思えば、気持ちも分からなくもない。ここは成り行きに任せよう。
しかしその活動目的はある意味で恐ろしく、俺はまだそれを知らなかった……。
こうして抽選と選抜によって七十名ほどが選ばれた。機甲羽衣と物資も乗せて基地へ運んでいく。
武器を持っていくのは身を守るためだ。
無線で報告を聞いたところ、攻撃を受けたらしく、詳しい話は南基地で聞くことになるだろう。
昼休憩した後、夕方には到着した。やはり列車は速い。
基地と言っても生活インフラが最低限あるだけで、あとはプレハブが並んでおり、今までの駐屯地と変わりなかった。
防衛面はまだ不十分だが、食料と水には困っていない。大型の冷蔵保管庫と浄水器があるからな。仮設トイレも問題ない。
「各員、テント設営にかかれ!」
「了解!」
大人数が泊まれる場所はなく野営となる。炊事班も動きだして、かまどと炊事場が組まれていく。
手慣れたもので、無駄なく飯の準備が進められていった。
この間に俺は現場指揮官から話を聞いていた。元は静香らの上官だが、今は小隊長格なので腰は低い。
本部を離れてから日が経ち、元部下とのわだかまりも薄れつつあった。
遺恨抜きにしても、集団だともめ事は必ず起きる。
怒りが再燃すると暴力沙汰になるので、やはり顔を合わせないのが一番だな。
「それで何が起きた」
「はっ! 我らは機甲羽衣で密林に入り、ゴム・香辛料・果物・鉱物などを発見しました。資源探索は順調で、収集部隊の増員をお願いするところでした。そして奥にまで足を運び、司令がお望みの稲を発見したとこで、何者かの襲撃を受けました」
「それで被害は?」
「攻撃で機甲羽衣がひしゃげたものの、怪我はありませんでした。敵は素早く森の中を移動し、その姿を捉えることはできませんでした。無駄な交戦はせず撤退にいたりました。敵の追撃はありませんでした」
「いい判断だ。地の利は向こうにあるからな、犠牲がでなくて何より」
「ありがとうございます」
「じゃあ、明日にでも現場に行ってみるとしよう」
「ご案内いたします」
あとは俺の歓迎を兼ねた夕食会となった。
採集されて食事に出されたトロピカルフルーツは、滅茶苦茶美味かった。
これで女達の目の色が変わる。
「これは美味いであります! もっと果実が欲しいであります! 他のみんなにもあげないと!」
「あたいが採ってきてやるぜ、月城。邪魔する奴は皆殺しだー!」
「……紅美は悪者、悪役軍曹。はむはむ」
「少し前までは草をむしり、木の皮をかじっていたのに、ずいぶん贅沢になったものだ。しかしこれは病みつきになりますね、静香様」
「ああそれも、全部アラシのおかげだ」
全員がフルーツをむしゃむしゃと食べて、夢中になっている。
士気は高まり、欲望に満ちた闘気が立ち上っているかのようだった。
女の方が美味さを感じやすいので、甘い物には目がなく、それが近くにあるとなれば我慢できるわけもない……これは抑えられんな。
次の日。
朝飯を食って訓示の後、俺達は出発する。
武器は対人用の短機関銃と自動拳銃で、足場も視界も悪いので、機動力を優先する。
最悪味方に誤射しても、機甲羽衣を着てるから被害はでないだろう。
敵は撃ってこなかったようで、銃はないと見た。人かどうかも怪しい。
ゴリラのような類人猿だったら、凄い力を発揮するからな。機甲羽衣を潰しても不思議ではない。
野生動物なら大した脅威ではないので、仲間達は気にも留めず、それよりもフルーツ集めに真剣になっていた。
全員大きな背嚢を持ってきていて、採る気満々。
各部隊は散会して密林を進み、行く手を阻む木々をチェーンソーで切り倒していく。
すでに開墾作業に入っている。自然破壊はしかたない。
「邪魔な毒蛇だ、えい!」
普段は怖がっているのに、物ともせずに踏み潰した。
機甲羽衣を着てるから蛭にビビることもない。食欲が恐怖を押しのけていた。
フルーツ採集を妨害するものは、何であろうと排除!
紅美のやばい台詞が体現されている。その当人は大蛇と格闘していた……。
果実を採ってる最中に、巻き付かれたらしい。
「邪魔しやがってこの野郎! 叩き殺してやる!」
「……いけいけ、ゴリラ」
尻尾を掴んで投げ飛ばし、何度も木に叩きつけて大蛇にダメージを与えた。
動かなくなったところで、巨体を踏みつけて電磁ナイフを頭に突き刺した。
これで大蛇は絶命し、紅美はドラミングしながら勝ち鬨を上げた。
「よっしゃあああ! ざまあみやがれ!」
「おー!」
周囲の兵達は巻き込まれたくなかったので、遠目から見ていた。俺も手は出さなかった。
笑い半分、冷やかし半分の拍手がパチパチとなる。
こうして紅美は、「蛇殺しの雌ゴリラ」と呼ばれることになる。体もでかいしな。
休憩を挟みながら探索するも、初日は何事もなく終わり、夕方には俺達は撤収した。
夜は流石に危険だからな。
その様子を密林の奥から見てる、何者かの気配に気づくことはなかった。
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