揺れる共和国
しばらくしてから、外交官のナマクラは首星のワイロニアに戻り、評議長代理に交渉の報告をしていた。
気まずそうな表情で、冷や汗を流しながら嘘をつく。
「て、天馬団の方々とはお会いできましたが、今回は条件が折り合わず、時期を改めて話し合うことになりました……」
執務席に座っていた女性は、冷ややかな視線を外交官に向けた。
アカスリの代わりに最高評議長代理に選ばれたのは、元妻のスベーナだった。
夫が逃げた時点で離縁していた。
元議員だったが既に引退したので、上に立つ立場ではなく、彼女も要請された時点で断っている。
しかし政治家達が責任をとらずに雲隠れしたせいで、政府は完全に機能不全に陥り、怒った国民が新たな臨時政府を立ち上げてしまう。
軍部も賛同しスベーナは何度も懇願されて、議長代理を引き受けるしかなかった。
愛人を連れて逃げた元夫の後始末をするのは業腹だが、彼女にも願いがあったからだ。
外交官の話を聞き終えると、スベーナは端末のスイッチを入れる。
すると空中にモニターが現れ、サラと外交官の声が聞こえてきた。
「こ、これは!」
『……地方の軍閥を片付けたら、首星に殴り込んで中央軍を叩き潰す!』
交渉の様子はローカルネットに動画が流れていて、外交官の嘘はバレていた。
動画はルナが投稿しており、攻撃した場面はカットされ、ナマクラが悪者に見えるように編集されていた。
無断で録画するように指示したのはサラである。
これを見た国民は、姉妹を恐れて首星から逃げ出し始めてしまう。
軍閥を潰してる天馬団の噂は宇宙中に広まっていて、軍が勝てるとは誰も思っていなかった。
「こ、これは陰謀です! そもそも録画するなんて聞いてない! 殺されそうになったし、私は何も悪くない!」
「お黙り! 見苦しい言い訳はもう聞き飽きました! 相手を怒らせて交渉は大失敗! もはや取り返しはつかないんですよ‼ あなたに任せた私が愚かでした……」
尚も騒ぐナマクラを、ボディガードが執務室から連れ出す。彼は更迭された。
本来であれば凄腕の交渉人に頼むはずだったのに、あらゆるコネでナマクラが強引に割り込んできたのだ。
「傭兵くずれなんかより、私が交渉して丸く収めてみせます!」
結局は口だけの能なし、すべてが後の祭りだった。
人選ミスを後悔してる暇はなく、スベーナは総司令官に連絡して命令する。
「首星に駐留する全艦隊を出撃させ、地方の軍閥を討伐しなさい。降伏するならよし、さもなくば武力をもって鎮圧するように。なお首星の防衛は無用」
『……任務了解しました。議長代理のお計らいに感謝します』
「何か勘違いしてるようですが、軍のあなた方を厄介払いしたいだけですよ。このままだと首星が危険ですからね」
『分かりました。直ちに準備にかかります』
総司令官は笑いながら通信を終える。スベーナはこう言ったが、見方によっては軍を逃がしたとも言える。
また今までは帝国に備えるため、野蛮な軍閥を見過ごしてきたが、自分達で退治したとなれば、民衆も少しは見直すだろう。
そして総司令官は嵐と戦った女性を司令室に呼んだ。名をレイカと言い階級は少佐。
総司令官の遠縁でもある。
「議長代理の命により、我らは首星を出て行くことになった。そこで少佐には軍を辞めてもらう。そしてどこか遠い惑星に行くといい」
「えっ⁈」
そして総司令官は謝ってくる。
「辛い役目をさせてすまなかったな、レイカ。文民統制ゆえにアカスリの命令に従うしかなかったが、あのエスパーと戦うべきではなかった。あれは軍でどうにかできる相手ではなく、その結果がこの有様だ。三姉妹は儂の首を取るまで収まるまい。だがお前に責任はない。だから逃げろ、レイカ」
少し考えた後でレイカは言った。
「それは違いますよ、伯父様。彼と交戦した私にも責任はありますし、全ての部下を犠牲にしておいて、逃げるわけにはいきません。それにまだ微かな望みはあります」
「なにっ⁈」
「和睦の条件を彼女が言っていたではありませんか? アカスリの身柄か、もしくは天馬嵐の捜索。私を二人の捜索任務に当たらせてください、総司令官」
「うーむ……しかしだな、砂漠の中から針を探すようなものだぞ? 宇宙は広く未知の惑星も多い。この状況下では手掛かりは無いに等しく、捜すのはほぼ不可能だ。危険な旅で、生きて戻って来られる保証はない……」
「構いません。どうせ死ぬのが早いか遅いかの違いです。だったら私は部下の仇を討ちたい。その前に天馬嵐に見つかって殺されるかも。大艦隊の猛攻をものともしなかったので、彼は恐らく生きています。やはり宇宙最強のエスパーでした」
「……そうか、すまんなレイカ」
「謝らないでください、伯父様」
総司令官は少佐に極秘任務を与え、レイカは密かに姿を消す。
スパイのように名前を変えて、偽の経歴で身分を偽り、捜索任務を開始した。
大伯父としては、そのまま逃げてくれと思っている。
ただレイカは闇雲に二人を捜すつもりはなかった。わずかだが勝算があったのだ。
「さて、あそこに行きますか。彼女に会いに……」
そしてスベーナは激務に追われながらも、最高評議長代理として各部署に指示を出し、事態の収拾に当たっていた。
真面目に働くスベーナを見て、官僚達も気を引き締めて仕事に取り組む。
そのお陰で共和国はどうにか国の体制を維持していた。もし彼女がいなくなれば、たちまち崩壊してしまうだろう。
政務を終えたスベーナは公邸へと帰ってきた。居間に入ると、ハウスメイドと男の子が遊んでいた。
母親に気づくと、すぐに駆け寄っていく。
「ママ、お帰りなさい!」
「ただいま、ジョージ」
幼い息子の笑顔を見れば疲れも吹き飛ぶ。スベーナはジョージを抱きしめながら思う。
(共和国は間もなく滅びるでしょう。そして民衆の怒りは、アカスリの子であるジョージへと向かう。ですが息子を決して殺させはしません! たとえ悪魔に魂を売ろうとも、私が守る!)
息子を愛する母親は強かった。
そして最悪の事態に備えて、必要な準備を一つずつ進めていた。
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