焼き肉作戦
俺は大部隊を引き連れ、敵部隊の元へ向かっていた。
例によって無線傍受できるので敵の位置は丸わかり、作戦に支障がなくて済む。
志乃はトラックの中で嘆いていた。
「私達もこうして裏をかかれたわけですね。通信に対する警戒が全くありませんでした。これからは、暗号通信をしなくてはいけませんね」
「ああ面倒だが、全軍の命に関わるからな。簡単な暗号文を作って、行動パターンを決めよう」
「ええ」
「話は変わるがアラシ、新しい軍団名はどうするんだ?」
「決まってはいるが、鐵乙女団の本部を制圧してから発表しよう」
「分かった」
敵部隊はこっちの基地を巡って、食料を確保する気だったようだが、何も得られず士気は下がったようだ。何も残してないからな。
進軍すればするほど減っていくだけ、同時にやる気も失っていく。
斥候部隊からの報告を受け、敵の糧食が尽きかけた頃に作戦を開始する。
まずはドローンによる放送攻撃だ。
上空より拡声器を通じて、真実を突きつける。これでかなり動揺するだろう。
次の日には、ドローンに肉を運ばせてくれてやった。
敵に塩を送ったわけではなく、仲間割れを誘うのと降伏させる狙いがある。
これに敵は引っかかり、少ない肉の奪い合いになったようだ。
次の日の朝には、脱走した兵士達が白旗を掲げて、こっちに向かってきていた。
すでに受け入れの準備はできており、大鍋にはスープがたくさんあり、焼き肉も作っていた。
天音がメガホンで勧告する。
「全員の降伏を受け入れる。ただし、武器は捨てて機甲羽衣からは降りてくれ。一緒に朝食を取ろうじゃないか」
「分かった! 飯を食わせてくれ!」
投降兵達は両手を挙げて一列に並び、食事場へと案内されていく。
防水布に座って渡された食事を口にすると、感極まって泣いてしまう。
「うう、生きてて良かった!」
「……美味しい、もう思い残すことはない」
毎度のことながら、空腹は死ぬより辛いかもしれん。
降伏した者らを、元捕虜達が慰めていた。ただ、
「これからは飢えることはないぞ。全てはアラシ指令のおかげだ」
「敵味方関係なく我らを救ってくださる、神のような御方だ」
「おおっ、そうなんだ⁈ 感謝を捧げる」
俺を持ち上げるのは止めてくれ、小っ恥ずかしい。
投降兵の数を数えて見ると、残った敵は半数にも満たず、勝負にすらならないだろう。
これで作戦目的の半分は達成した。俺は腕時計で時間を見る。
そろそろ志乃が率いる別働隊が、敵の野営地に到着した頃なので、俺も向かうことにする。これでトドメだ。
「ここは任せた天音。神影走」
「了解しました」
敵の野営地はさほど遠くないので、あっという間に着く。こっそり近づいていたからな。
すでに最終作戦は始まっていた。
ジュウジュウと鶏肉と鰻が焼かれ、良い匂いが敵陣に届くように、送風機で風が送られている。
これぞ焼き肉作戦。
本来は屋台の焼き鳥を買わせるために、香ばしい匂いで客を引き寄せるための方法だ。
焼き担当者は笑っていた。
「この匂い攻撃に耐えられるわけがない。食いたくて我慢できなくなる」
「うんまさに、焼き鳥一本もらっていい?」
「お前が食べてどうする⁈ これは降伏してくる者らの分だ!」
効果てきめん、残った鐵乙女団の兵士達が集まり、ヨダレを垂らしながらコッチを見ていた。
ここで志乃が最終勧告を行う。というか煽りに近いな。
「どうだ、この香り。腹が鳴ってるんじゃないか? 焼き鳥は柔らかくて美味いぞー! 鰻も最高だ。口に入れた途端に天にも昇る心地になる。どうだ、食べてみたくはないか?」
「ゴクリ……」
「ならば、武器を捨てて降伏せよ。我が軍はいかなる処罰もしない。こちらには元鐵乙女団の者もいるしな。降ってしまえば、もう飢えで苦しむことはなくな……」
言い終える前に兵士達は叫んでいた。
「もう我慢できない! 降伏する!」
「私もよ、何も持たずにそっちに行くわ! だから食べさせて‼」
「よーし、並んで歩いてこーい。順番に食わせてやるぞ」
雪崩を打つように、投降者が次々と増えていく。その中には指揮官らしい者もいた。
こうして敵部隊はいなくなり、涙を流しながら焼き鳥と鰻を食っていた。
ただ一人だけ残っていたので、静香が説得に向かう。どうやら知り合いのようだ。
震えてる女の前に、焼き鳥をそっと差し出す。
「食べろ、氷花。もう済んだことだ。お前に仕返しはしない」
「うううううー! ごめん、静香」
泣きながら女は食べ始めた。
これでこの作戦は完了……そして次の作戦に移る。
後続部隊と合流したところで、俺は全軍に号令をかける。
「これより我が軍は敵本部へと進軍する。作戦目的はAIの掌握、そして戦争を終わらせるぞ!」
「了解! 敵本部へ進軍します!」
「この戦いに終止符を打ちましょう!」
「おう!」
最初から引き返す気などなく、一気に決めるつもりでいたのだ。前もって通達済み。
敵本部に残ってるのは無人機だけで、この戦力があれば余裕で踏み潰せる。
しかし無駄な犠牲を出したくないので、俺は別の方法をとる気でいた。
補給に問題はないが、最短距離でも悪路を進むので時間はかかる。
移動中にも俺は獲物を狩って、皆に渡していた。また人数が増えたからな。
投降兵の大半は農園基地へと送ったが、恩義を感じた同行志願者もいたので、戦力として仕事をしてもらっている。
「よう氷花、静香は許したようだが、アタイらは容赦しねえぞ。くっくくく」
「うう、何をする気だ……?」
「それはもちろん、解体刑であります!」
「血まみれにしてやるぜ!」
ビビる氷花を紅美と椿が挟み込んで、獣のさばき方を教えていた。
暴力を振るったりはしないが、血だるま作業から逃がさなかった。
「いやああああああ!」
絶叫を上げる氷花を見て、二人は笑って満足していた。
過去の事情は聞いたが、敵前逃亡はよくあることなので、あんまり苛めるなよ。
残っている鐵乙女団の兵士達には、侵攻部隊が降伏したことを無線で伝え、我が軍に投降するよう呼びかけた。
もちろん食糧の配給を約束する、と無線での問い合わせが殺到する。
『本当に食い物をくれるのか? 嘘じゃないのか⁈』
「元鐵乙女団の巴隊隊長、獅堂静香が保証する」
「同じく元紅蓮姫団、東雲志乃が約束しよう」
二人が説得すると、鐵乙女団の本部で落ち合うことが決まる。
今までは立ち入り禁止区域だったが、そこで機械AIがいることを証明する。皆が見届け人になるだろう。
――数日が経ち、ついに俺達は本部へとやってきた。
そこにあったのは円蓋状の建物、巨大なドームだった。




