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神力の少年兵  作者: 夢野楽人
第二章 動乱編

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モノローグ 氷室氷花

 ……私の名前は、氷室氷花。鐵乙女団の兵士で今は准尉。


 味方を見捨てて逃げて降格処分をうけた卑怯者。救出作戦が失敗し、逃げ帰ってきたのは私一人だけだった。

 私は事情聴取で事実を誤魔化そうとしたものの、機甲羽衣の通話記録を調べられて、敵前逃亡が明らかになってしまう。


 本来なら厳罰ものだが本部の指示により、なぜか降格処分だけで済む。人手不足のせいだろう


 もっとも戦友や部下を見捨てた私を誰も信用はしない。視線は冷たく、話しかけてくる者はいなくなる。

 後悔してももう遅い。居た堪れない空気の中、私は隠れるように毎日を過ごしていた。


 しばらくすると偵察任務の発令がされた。どうも紅蓮姫団が妙な動きをしてるらしい。

 前線行きは危険を伴うが、私は命令を受け入れるしかなかった。捨て石に拒否権はない。


 しかも規律違反者達を引き連れての偵察で、誰一人言うことなど聞くわけがなかった。

 出発前に私は言う。


「命令はしない。各自、死なないように動いてくれ」


「ああ、勝手にさせてもらうぜ。何かあったらお前を盾にしてやる」


「それで構わない」


 協調性はなく思い思いに前進して、情報のあった敵基地にたどり着く。

 誰もいないと思っていたのに、敵に見つかり大部隊に追いかけ回されて、私達は降伏するしかなかった。

 捕まった私達は機甲羽衣から下ろされ、敵の士官から尋問されることになる。


 拷問されるのは嫌だ!


 なので私は素直に答える気でいたら、その質問内容に驚いてしまう。

 静香の部下の名が挙げられ、「隊長は誰か?」と聞いてくる。

 私は名前を告げた後、恐くて震えだしてしまう。


 これで全てが分かった。静香が自分の部下を助けて回ってるのだろう。

 紅蓮姫団はそれに手を焼いている。


 静香は優秀なので、あの窮地を切り抜けていても不思議ではない。

 いずれ私に復讐しに来るだろう。そんな予感がしている。


 敵は捕虜にする気はなかったようで、尋問を終えて全員解放されたが、私は重い気持ちのまま帰投することになった。


 そして眠れぬ夜が続くことになる……。



 紅蓮姫団は全く攻めてこなくなり、しばらく平穏な日々が続い……いや、糧食が減ったせいで駐屯地内での争いが絶えなくなっていた。

 各小隊長が上官に陳情するも、聞き入れられることはなく、状況は悪化するばかりである。

 その上官も本部に問い合わせてるのだが、全く対応してもらえないようだった。

 軍は不穏な空気に包まれる。そんな中、本部からの命令が下された。


『進軍せよ』


 ただそれだけ。逆らう者はおらず、私達はただ命令に従うしかなかった。

 腹が減ってるせいで思考が停止している。ただ思惑もあった。


「紅蓮姫団の基地には、食料があるんじゃないか?」

「きっとある。奪いにいこう!」


 なけなしの装備をかき集め、私達は敵地へと踏み込んだ。

 しかし、待っていたのは更なる絶望だった。


「敵がいない……」

「食い物もない……」


 伏兵を警戒しながら進むも、敵基地は空っぽで何も残っていなかった。

 別の駐屯地へ向かっても変わりはなく、紅蓮姫団は影も形もなく、前線を引き払ったようだった。

 まるで戦争を止めたかのようだ。


 この状況に上官は本部に指示を仰ぐも、進軍命令は変わらない。


 兵糧が底をつくのも時間の問題だが、後退せずに前進することになる。このまま敵本部まで行ってしまうのか?


 ――しかし、事態は動き出す。


 朝食時、具のない水スープを飲んでいると、上空から声が聞こえてくる。

 ドローンの拡声器だろう。


『鐵乙女団の諸君に告げる。君たちは本部に騙されている。命令してるのは機械AIだ』


『そんなものに従う必要はない。なぜ命がけで戦争をしなくちゃいけないんだ? 血を流す理由はどこにある? 私達は人形ではない! 人は自由なんだ!』


『紅蓮姫団はもはやない。私達はアラシ総司令を迎えて、新たな旗のもとに再編されることとなった。鐵乙女団の諸君、戦争を止めて手を取り合おうではないか、一緒に平和を作ろう』


 ざわ…ざわ…


 これを聞いて誰もが動揺した。何度も続けて言われると、はたと思ってしまう。

 ただ、上官だけが騒いでいた。


「ええい、敵の戯れ言に耳を貸すな! ドローンを撃ち落とせ!」


「……ですが、敵の紅蓮姫団が存在しないのであれば、私達が戦う相手はもういませんよ? 敵以外(・・・)と戦う気はありません!」


「そうだそうだ、本部に説明させろ! 機械じゃないなら、指令官なり副司令を呼んでこい! 姿を見せろ!」


「どっちにしろ、補給なしでこれ以上動けるか!」


「うぐぐぐ……」


 指揮官の上官は非難されて、引き下がるしかなかった。もはや暴動寸前である。

 不満が溜まりに溜まっていたので、軍紀違反になろうがお構いなし、命令に従う者はいなくなる。

 もう野営地から出ようとはせず、帰り支度を始める者もいた。上官は止めようもない。

 

 次の日も事件が起きる。またもやドローンがやってきた。荷物を抱えて。

 

『鐵乙女団の諸君、空腹は辛いだろ? ほんのわずかだが肉を分けよう。もし飢えたくないのであれば、我が軍に降伏するといい。こちらには十分な糧食があり、腹一杯食べさせると約束しよう。白旗を掲げてくれれば、それでいい』


 そして、上から段ボール箱が落とされた。

 罠も警戒せず箱を開けてみると、


「干し肉が入ってたー! 燻製もある‼」

「本当か⁈ 私のもんだー!」


 奪い合いが始まってしまう。肉は数キロしかなかったので全員分はない。

 これは仲間割れを狙った作戦で、分かっていても争ってしまう。みんな腹が空いてるから、食べたいのだ。

 撃ち合いにはならなかったが、上官までもが殴り合いに加わって収拾がつかなくなり、食べられなかった者らは仲間へ恨みを募らせてしまう。


 これで、軍としての鐵乙女団は終わった……。


 その日の夜、野営地からの脱走が始まる。布を破って白旗を作り、敵陣へと向かったようだ。

 私も心を揺さぶられたが、向こうに静香がいると思うと、降伏へ踏み切ることはできなかった。報復が恐い。

 次の日、兵の半数以上が消えてしまい、残ったのは百人ほど。

 私のように迷った者が多くいたが、この人数ではもはや勝負にならない。


「撤退する……」


 上官はそう告げるしかなかった。


 人が減った分だけ食糧事情は改善したものの、基地に帰投するまで持ちそうにない。


 残った全員が絶望し暗い顔をする中、良い匂いがただよってくる。

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