罠
道なき道の先頭を進むのは、氷花と静香の機甲羽衣だ。
本音はどうあれ、味方を救いたい思いは本心である。二人の後ろに救出部隊が続く。
行軍ペースはやや遅い。
「む、ここは開けてるな全隊停止。索敵班、鳥ドローンを飛ばせ」
「承知しました」
氷花も考えなしではなく、敵を警戒しながら慎重に進んでいた。
道路を使わないのも、発見されるのを避けたいからである。
ドローンを先行させれば、敵を避けて道筋を立てることができる。
ちなみに軍事衛星という物はなく、両軍の兵士は飛行機や気球しか知らず、それも教本で見ただけである。
ドローンも偵察のみで攻撃はできない。航空戦は一切行われておらず、空の兵器が全くなかった。
有れば良いが作るにしても維持するにしても、必要な材料と資源がなくては実現は困難。
ただ物資を乗せた航空船が見かけられるが、上官ですらどこから来てるのかは知らない。
なぜか彼女らは陸戦のみを強いられていた。
ここでは機甲羽衣だけが唯一の兵器だ。かなり高性能である。
機動強化外骨格、全高2㍍・全幅1㍍・基本重量約90㎏。
操縦者は舞衣姫と呼ばれ、トレースウェアを着ることで、思うがままに機体を動かすことができた。脳波や神経の電気信号を受け取って操作する。
体に装着することで、力は五倍以上になり大型武器を取り扱えるし、中にエアコンがあるので快適である。
腹部ハッチを開けて、両足を外に出して腰かけることもでき、自動運転も可能なので舞衣姫への負担は少なくなっている。
それでも生死をかけた戦場でのストレスは、並大抵のものではなかった。
今のとこ行軍は順調、敵に見つかってもいない。
ただ静香は胸騒ぎがしてならなかった。どこか不穏な気配を感じる。
(敗残兵の状況が分からない。ここまで敵に会わないのも妙だ……)
かと言って引き返すわけにもいかず、足を進めるしかなかった。
やがてある地点までくると、索敵班がドローン映像を全機に送った。
「味方を発見しました! 黒の機甲羽衣十機がこちらに向かってきてます。近くに敵影はなし」
「よく見つけてくれた。本来なら信号弾でこちらの位置を教えてやりたいとこだが、敵が隠れているかもしれん。静かに近づいて接触をはかろう。部隊を前衛と後衛に分ける。静香、前衛を任せていいか? 私は後方で警戒する」
明らかに危険な仕事を押し付けようとしてきて、巴隊は腹を立てるが、静香は冷静に引き受けた。
誰かがやるしかないのである。
「……分かった、後ろは任せた氷花。巴隊前進!」
「了解」
隊長が決めたからには従うだけ。あとで指揮官の氷室に文句を言えばいい。
五機がなるべく音を立てずに、ゆっくりと敗残兵へと近づいていく。
静香の不安は高まる一方だ。
「月城伍長、向こうからの連絡は?」
「無線応答が全くありません。妨害電波はされてませんし、無線機が故障してるとは思えません。妙であります」
「確かに反応がないのはおかしい」
静香は怪しいと感じ、部下に指示する。
「曹長・軍曹・伍長はこの場で待機。私と准尉が先行する」
「おいおい格好つけんな、下っ端のあたいらにやらせろよ」
「駄目だ、命令に従え! 久遠軍曹」
静香が怒鳴ったので紅美はおし黙るしかなかった。
それだけ真剣だった
「行くぞ、天羽准尉」
「はい、獅堂隊長!」
互いに視認できる距離まで近づくと歩くのを止めて、スピーカーから敗残兵に呼びかける。
『あー、私は巴隊隊長の獅堂だ。諸君らの救助にきた。まずは官姓名を聞かせてくれ』
友軍機に反応はなく、無視して前進してくるだけである。
「ああ、やはりこれは……」
「罠ですね」
とっくに二人は気づいていた。
だからこそ部下達を待機させ、危険から遠ざけたかった。
『それ以上、前進するなら攻撃する!』
言うやいなや二機は同時に発砲した。もう敵と見なして不意打ちをかけたのだ
機甲羽衣の重機関砲をまともに受ければ、ただでは済まないが狙ったのは足。
これで数機が倒れるが、残りは歩みを止めずに反撃もしてこない。
天音が援護する中、静香は倒した機体の後部ハッチを開けてみると、中は空っぽで人は乗っていなかった。
「くそっ! 自動操縦で動いてるだけの囮か」
「もう敗残兵はとっくに捕虜になってるでしょう」
「作戦は失敗だ! 全軍に通達! 友軍機は無人、周囲を警戒せよ!」
静香が警告を発したが遅かった。隠れていた敵が姿を現して襲ってきたのである。
紅蓮姫の機甲羽衣が100機、救助隊の3倍以上の数だった。
大部隊による奇襲である。
誘敵殲滅の戦法にまんまと引っかかってしまう。
敵軍の中に兵法に長けた者がいて、この差は大きい。
エサにかかった魚をみすみす逃がす気はなく、全包囲から攻撃してくる。
「ぜ、全軍密集隊形! 巴隊の後退を援護しつつ撤退だ」
「了解!」
氷花は指揮官らしく号令をかけるが、いかんせん数の差は埋めようがない。
巴隊の五人は奮戦するも、味方は劣勢に追い込まれていく。
「九番機、大破!」
「二番機、行動不能」
「敵に囲まれた! なんとかしてくれ! うわあああ!」
凶報だけが無線から聞こえてくる。絶対絶命の状況だ。
「うう……」
手の打ち用はなく全滅か敵に降伏するしか道はなかった。
しかし士官としての意地と誇りがあり、降伏だけはしたくない。
極限状態に置かれると人は本性を現す。氷花は死を異常に恐れる臆病者だった。
(こんなのは何かの間違いだ。そうだ、たまたま運が悪かっただけだ。あと敵が卑怯だっただけだ! 次こそは勝つ! 私はこんな所で終わっていい人間じゃない!)
心の中で責任転嫁し、氷花は非情な命令を下す。
「全機突撃せよ! 死に物狂いで敵と戦え!」
「えっ⁈」
「私は本部に救援要請をしてくる。各自任務を遂行せよ。以上!」
氷花は無線を切って、我先にと全速力で逃げだした。
味方を見捨てて……。
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ちなみに挿絵はZITの生成AIです。




