黒くて太くて長ーい、アレ
俺は農園基地へ向かい、現場で指示を出すことにした。
補佐をするのは静香と志乃、優秀なので頼りになる。
まずは駐屯地からやってきた兵士達を集めて訓示し、超能力を見せて力を示した。
驚かせた後は、人事と仕事の割り振りを二人に任せた。
「アラシに従うことに反対する者はいない」
「司令には肉を頂いた御恩がありますから、我らは忠誠を尽くします」
「そうか」
食料はまだまだ足りない。鐵乙女団の本部へ殴り込みにいくには、たくさんの糧食が必要だった。
昔から戦をするより、兵に食わせる方が大変なのだ。だから戦争なんかやるもんじゃない!
作物の収穫には時間がかかるので、自生してる野草や木の実を探すことにする。
植物のデータは機甲羽衣に転送したので、大人数でやればかなりの量を集められた。
また付近の川辺や湖に足をのばし、釣りの他に罠をしかけた。
竹筒や筌という仕掛けをしておく。獣罠と違って成功率は高い。
――そして数日後。
「うわすごい、こんなに入ってる!」
「やったぜ大漁だ! こりゃ当分、食いっぱぐれはねえな」
「……全部元気、うまそう」
回収にきて魚が捕れたのを喜ぶ一方、ある魚で騒動が起きる。
「きゃああああ! 気持ち悪い、何これ⁈」
「黒くて太くて長ーい、恐いわ!」
「ぬるぬるしてる。蛇みたいでいやあああああ!」
女達は悲鳴を上げていたが、俺はそれを見て喜ぶ。
「おっ、ウナギじゃねーか。これは美味いぞ!」
「ま、まさかアラシ、それを食うのか?」
「もちろんだ。見た目はいまいちだが味は最高だ。ただこいつは滑るし暴れるので、調理が難しい。おれがさばこう」
農園に戻ってから、俺は外の獣解体所で作業を始める。近くで作業してた者らは、ウナギを見てギョッとしていた。
「うわあ! また司令が変なもの持ってきたー!」
「またですか――――!」
「もう勘弁してほしいわ……」
見た途端にげんなりしている。俺に蛇の前科があるから仕方ない。
なので今回は希望者だけに、さばき方を指南することにした。あえて無理強いはしない。
ふっふふふ、嫌がってるのも今のうちだけだ。すぐにウナギが食いたくなるだろう。
まずは、まな板に穴を開けて釘がさせるように加工した。
次に水おけに入ってるうなぎを取り出すのだが、暴れるので掴むだけでも大変だ。
そこで、
「神影縛」
念力で動きを止めてから、まな板の上にウナギを置いて目打ちした。
あとは包丁を頭に刺して〆る、合掌。
そして包丁を腹に入れてウナギを開き、背骨と一緒に内臓をとり、腹びれと背びれをとってから切り分けた。
大きいので一匹で三人分になるだろう。何匹か処理したあとで、静香と志乃達もやってみることになる。
ウナギをしめる作業は俺がやり、動かなくなったのをさばいてもらう。これなら簡単。
魚や獣は毎日のようにやってたので、ぬめる以外は問題なかったようだ。
あとは串に刺して炭火で焼く。
皮を下にして弱火でじっくりとあぶり、乾燥させないように酒も少量振った。
そして作ったタレを塗って強火で炙る。これを何度か繰り返す。
脂が落ちるので煙はすごいが、濃厚な甘辛の匂いが一面に広がった。
これは鼻から脳天を刺激し、誰もが食いたくなってしまう。
「なんだこれは⁈」
「食欲をそそる……美味そうな匂い。よだれがでちゃう」
「嘘でしょ⁈ これがさっきのアレ⁈」
焼き上がった鰻を俺が味見してから、さばいた者らにまず食ってもらう。これぞ役得。
最初はためらっていたが、匂いに負けてかぶりついてしまう。
「う、美味いぞおぉぉぉぉ‼」
これぞ魂の叫び。あっという間に鰻を平らげてしまった。
食った志乃達は感動していた。
「ほんとに美味しい。アラシ司令にはいつも頭が下がる思いです」
「鰻は惑星や国によっては高級食材だからな」
「そうだったんだアラシ。道理で美味いわけだ」
「香ばしくて、身がとろける。至福の味だわ……いっちゃいそう」
「大将が作るもんに不味いもんはねえ。あっ、弥生! こっそりとってんじゃねー!」
「……これは私が食べる」
「小官も、もっと頂くであります!」
これを見て仲間達が殺到してくる。
我慢できなくなったようで、口からヨダレを垂らしていた。
「私達にも鰻を食べさせてくださーい!」
「お願いしまーす! 是非一口!」
現金なものだ。
残った鰻の奪い合いになるが、全員分はないのでジャンケンで決めさせた。
食えなかった者らは、
「く、くそう! これは川で捕ってくるしかない!」
「そうね、罠をたくさん作ろう!」
竹をとってきて罠作りに勤しんでいた。こうしてしばらく鰻祭りが続く。
しめるやり方も狭い竹筒に誘い込んでから、頭を刺すことで解決した。これなら手が滑らないので扱いが楽になる。
うな丼を食いたいとこだが、米がないので残念。
その代わりに作った麦飯でも十分にうまい。あとはパンに挟んで、仲間達は頬張っていた。
狩りも続けて着実に糧食が集まっていく中、斥候部隊から連絡が入る。
『司令、鐵乙女団の部隊がこちらに向かってきてます』
「敵の様子はどうだ?」
『輸送トラックは少ないですね。兵数は百五十から二百人といったところでしょう』
「そうか、引き続き監視を頼む」
『了解しました』
むこうの管理AIが痺れを切らし、動かせる限界の戦力をかき集めて攻めてきたようだ。
これに勝ってしまえば、もう鐵乙女団は戦えまい。
情報によれば向こうの糧食は兵数が少ないため、まだ持ちこたえられるようだ。
それも無理な遠征で尽きるだろう。静香と志乃が言ってくる。
「私達はいつでも戦えるぞ、アラシ」
「戦闘準備は万端です。アラシ司令、ご命令を!」
誰もが張り切っていた。兵数もコッチが上回っているから、負けるわけもない。
ただ俺は意外なことを言った。
「あー、戦う気はねえぞ。念のために部隊は連れていくが、こっちは三百人くらいでいいだろ。作戦は……こうだ」
聞いた二人は笑い出してしまう。
「あはははは! 相変わらずだなアラシ。敵にも優しい」
「くくくくく! なるほど、そうやって基地を落としてきたわけですね? これは成功するでしょう。絶対に耐えられるわけがない。あー、可笑しい」
俺の作戦が全軍に伝えられると、仲間達は一斉に吹き出して、あちこちで笑い声が上がった。
「わははははははは!」
「ぶひゃひゃひゃ! 大将らしいぜ!」
ただ誰もがこの作戦に参加したがり、部隊を選ぶのに苦労した。
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