モノローグ 東雲志乃2
ツヴァイ基地の前にたどり着いた私は、辺りを警戒しながら部隊を動かす。
「鳥ドローンを飛ばせ、索敵班は基地内を探知しろ」
「動いてる者は見当たりません」
「対人・熱源センサーに反応なし。まるで無人のようです」
「そうか……偵察隊突入せよ」
「了解」
私の予想通りなら、もうココに敵はいないだろう。
鐵乙女団の逃亡兵が関わってるのは確かだが、その正体と目的は謎のままで、基地を落とした手段・方法も分かってはいない。
ただ兵の数は少ないと私は見ている。だったら、まともに大部隊とは戦わないだろう。
私でも逃げだす。
「中尉に報告。基地を探索したところ敵影なし、周辺は静穏で異常も認められません」
「そうかご苦労、その場で待機せよ。我らも基地に入り駐留する」
私は全軍を進軍させてツヴァイ基地に入る。これにて奪還任務は完了……全く意味はないがな、ふっ。
残念ながら私の悪い予感は当たってしまった。しかもまだ終わっていない。
まだ糧食があるうちに、早々に引き上げねばならない。
形だけ基地周囲を捜索し、部下を休ませてから明後日にもココを去ろう、と思っていたのだが……ああ人生はままならない。
「敵を発見しました」
「決して逃がすな、各隊連携して包囲しろ! ただし殺すな」
「了解」
哨戒任務中の部隊が、黒い機甲羽衣を発見してしまったのだ。この忙しい時に!
件の敵ではあるまい。奴らは我が軍の機甲羽衣を使ってるようだし。
それでも何かしらの情報が入ると思い、私は敵の確保を命じた。
敵は戦いもせず逃げ回ったが、我々の包囲からは逃れられず、ついに両手を上げて降参した。捕まえた兵士はたったの5人、ただの斥候だろう。
「今そっちに行く」
私が小型車に乗って現場へ向かうと、機甲羽衣から降ろされ、手を頭の後ろに組ませられた捕虜達がいた。
「隊長は前に出て名乗れ、これより尋問を行う。嘘偽りなく話せ、拷問してる時間がもったいないからな。あと手は下ろしていいぞ」
「わ、私だ。名は氷室氷花」
「お前達の任務は?」
「偵察だ。紅蓮姫団の動きがおかしいとの情報が入り、やってきた次第だ」
怯えてる隊長は嘘は言ってないように見える。
しかし、こちらの内情を話す気はない。
「質問を変える。我が軍の捕虜の中に、八雲弥生・久遠紅美・月城椿という者がいるが、この名に聞き覚えがある者はいるか?」
名前を上げると、氷室と名乗った女が驚く。
「静香の部下! 生きていたのか⁈」
「ほう、知ってるようだな。隊長の名を言え!」
「巴隊隊長……獅堂静香」
なにかやましいことがあるのだろう。氷室は真っ青な顔をして、ガタガタと震えていた。
これ以上聞くのは無理だな、それに肝心なことは知らないだろう。
少しは情報が入ったのでよしとする。これで一つハッキリした。
恐らく獅堂とやらが侵入してきた逃亡兵で、部下達を助けて回っている。
しかし1人だけで基地攻略などやれるはずもなく、強力な協力者がいるのは間違いない。
その者こそが真の敵だろう。
影は見えたがまだ尻尾さえ掴んではおらず、これは至急対策チームを作って、事に当たらねばならない。
でなければ我が軍は敗北する。
部下が聞いてくる。
「この者達はどうしましょうか? 中尉」
「解放してやれ、もう用は済んだ。今捕虜に食わせる飯はない」
「了解しました。ほら行け!」
「はぃいいい!」
捕虜達は慌てて機体に乗って逃げていく。雑魚に構ってる暇はないのだ。
これは早く戻らねばならない。
私は全軍に撤収命令を出し、明日にはツヴァイ基地を去ることにした。
防衛任務は命令されておらず、ココを守る気など欠片もなかった。上層部がやればいい。
中継基地へ帰還中、またもや凶報が入る。
「農園基地が落とされた……」
「食料が入らなくなる」
これは由々しき事態で我々の存亡に関わってくる。
タダでさえ食料不足なのに、食事もままならなくなるのでは、士気は駄々下がりする一方だ。
しかも中継基地へ帰ってきた我々が見た物は、敵の手で徹底的に荒らされ、見る影もなくなった基地の惨状だった。
物資は根こそぎ奪われており、トラックや機甲羽衣には細工をされ、すぐには動かせない状況だ。
これでは移動すら出来ず、明日の食べ物にも事欠く有様だ。
「そんな……」
「嘘でしょ……」
兵士達は膝をついて呆然となり、固まってしまう。もはや絶望しかない。
そんな中、本部からの通信が入り、農園基地かドライ基地へ向かうように指示がなされた。
無理無茶な命令に、私は怒りが抑えられず喧嘩腰で話す。
「私は中継基地に防衛隊を置くよう進言したはずです。その結果、敵に蹂躙されて何も残っておりません。これは本部の判断ミスでしょう。責任の所在を明らかにして頂きたい!」
『結果論での批判は受け付けかねる。貴官は新たな任務を遂行せよ』
「ほうほう、それでは任務遂行のために、補給物資をコチラへ送っていただきたい、今すぐになっ!」
『本部に物資はなく要請は拒否する。想定外の事態の対応も、貴官がすべきことだろう』
これで私は完全にキレた。後のことなど知ったことではない!
「ふざけんじゃねえぞ、テメエ! 食いもんもなしにどうやって戦えってんだ! ぶっ殺してやる!」
『本部に対する暴言を確認。沙汰は追って下すものとし、貴官は任務を遂行せよ、遂行せよ、遂行せよ…………』
「テメエは壊れた機械か⁈ ボケ! 待ってろ、今からぶちのめしに行ってヤる!」
『すいこ…………』
不快な声は聞こえなくなる。私が通信機をぶん投げて叩き壊したからだ。
「ふー……ふー……」
私は興奮が収まらず、しばらく荒い息をしていた。落ち着いたところで各小隊長を呼ぶ。
「本部は補給要請を拒否した。私はこれから本部へ殴り込みにいく、反乱だ! だがこれは私個人の判断だ。君らは一切関係ない」
「なんと⁈」
「ただ異議のある者は、私を銃で撃つがいい」
部下達は黙って聞いていたが、顔を見合わせて言った。
「私達も中尉についていきます」
「本部の頭はイかれてる。もはや命令に従う気はありません」
「一緒に行きましょう、中尉!」
意外なことに、皆が反乱に賛同してしまう。
私に対する敬愛もあるだろうが、本部には誰もが腹を据えかねていたようだ。
「しかし、武器はともかく燃料と食料がありません。移動は厳しいかと……」
「大丈夫だ。わずかだが密かに隠しておいた物資がある。これで3個小隊なら出動できる」
「おお、予測しておられたのですね? 流石です!」
「外れてほしかったがな、さあ準備をしよう」
「了解!」
私と部下達は生き生きとして、もはや恐い物などない。食い物の恨みを晴らしてやる!
もっとも、私が着く前に本部は残っていまい……そんな予感がしていた。
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