決勝戦
双方ともに、出だしは中間地点の小競り合いになり、まずは様子見となる。
弥生も不用意に敵陣を攻めたりはしない。
天音は今回もトーチカを作り、更にバリケードまで作ったので、陣の突破はほぼ不可能となった。ペイント弾であれば鉄壁の防御と言える。
「実戦とは違い、迫撃砲やグレネードは使えんからな。こう守りを固められてしまうと打つ手がない」
「このまま消耗戦になるかな? アラシ」
「いや、天音も弥生も知恵者だ。まだ一波乱あるだろう」
そして塹壕からの撃ち合いが続いてるうちに、弾が命中して数人がリタイアする。
意外なことに紅美はまだやられておらず、自陣で待機していた。
初戦が無様だったので、弥生からは何か言われたようだ。少しは反省して自重してるのだろう。
いつ暴走かるかは分からんが。ここで弥生が攻勢にでる。
審判の俺達に双方の会話は筒抜けだ。
また機甲羽衣のセンサーは止めてあるので、敵は視認して見つけるしかない。
「……メンバーが減った。私達がやや不利、こうなったら全員で敵陣を攻めるしかない。ただし紅美は一人で旗の守り」
「了解!」
「あー、分かったよ」
紅美は命令に逆らわなかった。明日、雨でもふるんじゃないか?
弥生は他のメンバーと打って出る
「……突撃、のふり」
「クスクス、了解」
とは言え闇雲に突っ込んだわけではく、有効射程ギリギリのところで、踏みとどまっている。
集中攻撃されそうになると、すぐに別の場所に移動して攻撃をしかけた。
これはかく乱戦法だ。防御が崩れるのを狙ってるので、天音もうかつには動けなくなる。
だが、敵の動きを見て天音は決断した。
「……陣地に残ってるのは紅美だけだな。ならば裏を回って旗を取りに行く。私一人でいい、ここは任せた」
「了解、指揮官腕章あずかります」
サブリーダーが天音になりすまし、中にいるように見せかけて、天音はこっそり陣から出て行った。
「これもルール違反じゃない! 天音の発想には舌を巻く。私より指揮官の器かもしれない。参ったな」
「固定観念がないのは得がたい才能だ。一部隊を安心して任せる。だがな静香、小隊をあずかるのと、大隊を指揮するのは別物だからな。戦場を見渡す力がお前にはある」
「……そうだろうか?」
「自信を持て、それに天音の作戦が成功するとは限らない。くくくくく」
時をおかずして天音と紅美が対峙していた。遭うなり二人は罵り合う。
「てめえ一人で来るとはいい度胸だ。アタイが返り討ちにしてやるぜ!」
「丁度良い機会だから、徹底的に叩きのめしてやるぞ、紅美! 獅堂隊長に勝利を捧げてやる!」
二人の一騎打ちとなり、遮蔽物に隠れながらの撃ち合いが始まる。
「おお! 二人とも中々やるな。紅美は接近戦より射撃をさせた方がいいんじゃないか? 静香。撃つのが正確で上手いぞ」
「照準合わせはAIが補正してるはずなんだが、紅美の場合本能で撃ってるからなー……」
「そうか! 敵の動きを読んで勘で撃ってるわけか。これも非凡な才能だぞ、ランダムに動く的を当てるのは本来難しい」
俺は紅美を見直す。ただの脳筋じゃなかった……いやだからこそか。
短所が長所になる場合もある。人はやはり面白い。
「くっ! 考えなしの単細胞め!」
天音の腕も劣るものではなかったが、紅美は弾を避けるのも天才的で、まるで弾道そのものを読み切っているかのようだった。
天音はかなり不利。しかし紅美には最大の欠点がある。
……それは、すぐに調子に乗ってしまうことだ。
「弥生の予想通りだったぜ。『待ってれば、天音くる』と言われたからな、我慢した甲斐がある。さあ覚悟しろ天音! アタイが仕留めてやる!」
紅美は軽い機体を活かして一気に詰め寄っていく。
観戦者達はココまでかと思ったようだが、俺達は逆の予想していた。
「准尉は計算高いからな、最初から読み切っていたのだろう。これで勝負は決まった」
「ああ、一騎打ちは天音の勝ちだ」
天音は逃げるかと思いきや、旗に向かって突進していく。
「うおおおおお!」
近くに身を守る物はなく、紅美は勝ったと思っただろう。
「バカめ、くらえ! ――――なにい⁈」
引き金を引くものの、カチカチと音がするだけで弾はでなかった。
モニターをよく見れば、EMPTYの表示が点滅していた。
「馬鹿は貴様だ紅美! もうお前の銃は弾切れなんだよ! さて旗をいただくとするか」
「くそう! やらせるか!」
焦った紅美は遮蔽物から飛び出して、天音に突進していく。
あとはパルスナックルで殴るしか手はない。しかし無謀だった。
「出てくるのを待ってたぞ!」
「うがあー!」
天音は残りの弾丸を撃ちまくり、紅美の機甲羽衣をペンキまみれにする。
『紅美機、リタイア』
「ちくしょう!」
天音は撃ち合いをしながら残弾計算をして、紅美が撃てなくなるまで耐えていたのだ。
やはり駆け引きは天音が上だった。天音は旗に近づいて手を伸ばす……
「これで私達の勝ちだ! ――えっ⁈」
旗を取る直前で軽い衝撃を受け、天音の機甲羽衣が倒れていく。
『天音機、リタイア』
「ばかなああああああああ!」
機体にはパルスナックルのペンキ跡があり、殴り倒されたのだ。
やったのは紅美ではない。
「……准尉残念、私の勝ち」
「弥生いいいいいいいい!」
実は一騎打ちが始まる前に、弥生もこっそりと自陣に戻っていたのだ。
「紅美じゃ、准尉に勝てない」
そして紅美の後ろに隠れ、機会をうかがっていたのである。
これに天音は気づけなかった。目の前の敵に気を取られてるうちに、伏兵にやられるというパターンである。
またもや紅美を囮にしたわけだが、成功したので見事な作戦と言うほかない。
しかし、人としては問題だな……。
まだ模擬戦の決着はついていない。残ったチームメンバーが粘っていた。
お読みいただきありがとうございます。この作品がお気に召したら
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