模擬戦3
「突撃ー!」
「うおおおおおっ!」
モブキャラチームは果敢に天音の陣地を攻めていた。自陣の守りは2人だけで、他8人は攻撃に回っている。
攻め主体の戦法に天音は防戦一方に見えるが、敵を陣地までは近寄らせず、まだ五分五分の戦いをしていた。
「敵チームは動き回って的を絞らせず、一点突破を狙っているが天音は鉄壁の守りだ。陣内の遮蔽物を動かし、塹壕と組み合わせて小さなトーチカを作ってる。ただ薄いので実弾なら意味はないが、ペイント弾なら十分に防げる」
「旗の移動は禁止だが、陣内の物を動かしてはダメとは言ってないからな。これは創意工夫をさせる訓練でもあるんだろ? アラシ」
「ああ軍事教本を覚えたからと言って、生き残れるわけがないからな。最悪の状況では、手近にある物なら何でも利用するしかない。武器・弾薬がなくても知恵を絞ればなんとかなるものだ」
「ただ糧食だけは必要だがな、ふふ」
「まったくだ。飢えた兵しかいないのでは、戦う以前の問題だ」
俺達はしみじみ語る。
今まで敵拠点を攻め落としてきたが、作戦だけでなく紅蓮姫団の兵達が飢えていて、やる気を失っていたから勝てたのだと思う。
常に空腹では体も頭も動かなくなるわ。セルフ兵糧攻めかよ……。
まあいい、それも含めて俺が全部終わらせてやる。
「おっ! 天音側が有利になってきたな」
「勝負はついたな」
モブキャラチームは攻めあぐねてるうちに、一人二人と倒されていく。
天音は敵一人に対し、味方数人で弾幕を浴びせる戦法を用いたので、これは躱しきれるものではない。
作ったトーチカのお陰で防御を考えなくていいので、一点集中攻撃ができる。
地形も上手く利用した堅実な戦い方である。
天音は確かに有能で、静香が頼りにしてるのも分かる……性癖は知らんが。
「後退だー!」
「追撃だー!」
敵が態勢を立て直そうと後退したところで、天音は反撃に出る。これぞ機を見るに敏。
ビビリの指揮官だったら、陣に籠もったままだったろう。
天音チームは敵を猛追して、モブキャラメンバーを仕留めていく。
そのまま一気に敵陣に攻め込み、旗を奪ってしまう。
見事な勝利だった。
『勝者、天音チーム』
「強ええー!」
「圧倒的じゃないか!」
観戦してた者達は、天音の鮮やかな戦術に驚嘆していた。
なかなかやれる事ではないからな。そして当の本人はというと……
「獅堂隊長、見ててくれましたかー⁈ 私やりましたー! 勝ちましたよー! 褒めて褒めてー‼」
「あ、ああ…………良くやった」
コッチを見上げて奪った旗を振り回し、大声で叫んで静香に猛アピールしていた。
良い所を見せられたと思って、嬉しくてたまらないようだった。
これには静香もドン引きになる。好意を向けるのはまだ良いとして、度を超しているので周囲の視線が痛い。
「ヒソヒソ……」
「そういう関係なのね……」
隊内で噂が広まるのはあっと言う間。ただそれが静香の耳に入ることはなかった。
二人の事は触れずにおくのが、暗黙のルールとなったからだ……俺も言わない。
試合が終わり退場していく両チームに、盛大な拍手が送られた。
残るは決勝戦。
「ちっ、調子に乗ってられるのも今のうちだ。アタイが天音をぶっ飛ばしてやるぜ!」
「……たぶん、返り討ち」
紅美はライバルに闘志を燃やしていたが、弥生は冷や水を浴びせる。
無情ではあるが、下手に取り繕うよりは良い。残念ながら事実なのだ。
俺の見たところ紅美より天音の方が数段強い。
これは機甲羽衣の操縦能力ではなく、思考力の差だけどな……ハッキリ言えば頭のデキ。
そこを埋めることができれば紅美にも勝機がある。かなり難しいが。
そして弥生は紅美に、何かアドバイスをしてるようだった。
決勝戦は昼食後の午後から行われる。
みんなで食事をしながら、どっちのチームが勝つかで盛り上がっていた。
「やっぱり弥生チームだろ、あの抜け目のなさは真似できない」
「いやいや勝つのは天音チームだ。隙のない戦いをされたら、手も足もでないぞ」
「まあ、勝負は時の運だからな。やってみないとな」
それぞれが意見を出し合って良い雰囲気だった。
元巴隊も集まって、憎まれ口を叩きながら食卓を囲んでいた。
結局、仲の良い者同士で集まってしまうものだ。知らん奴がくると白けてしまう。
「あー負けて悔しいであります。やけ食いであります、ガツガツ」
「伍長は良くやった。大丈夫だ、私が曹長にやり返してやるからな」
「言ってくれるな天音、アタイがいることを忘れんな!」
「猪突兵など知らん。と言うわけで勝たせてもらうぞ、八雲曹長。獅堂隊長のためにも!」
「……准尉には負けない、欲しい物がある」
笑いながら双方がにらみ合う。
互いに一歩も譲る気はなく、勝負を前にして本気だった。
舌戦はここまで、いよいよ決勝戦が始まる。
勝った方が優勝だ。
「元巴隊同士の決勝か。二人とも優秀だから見応えのある戦いになるだろう。これは目が離せんな、静香はどっちを応援する?」
「意地悪だなアラシ。私としては天音と言いたいが、弥生にも頑張ってほしい。それよりも、この模擬戦の本当の意味が分からないと駄目だ。アラシの意図を読めた者が優勝だと思う。肉に釣られてるようではいかん」
「ははははは、それは言えるかもしれないな。ただ俺は完全無欠な軍人になって欲しいわけじゃない。少しでも経験を積んで成長してくれればそれでいい。生き残るためにも」
「やっぱりアラシは優しいな」
俺は静香に褒められて照れてしまい、顔をそらして試合を見ることにした。
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