模擬戦1
ガチ喧嘩になる前に俺は肉を取り上げて、冷凍庫に入れるように言った。
このまま闘えば格闘技を覚えた紅美が有利で、相手が怪我する恐れがあったからだ。
まずは大声で全員に諭す。
「力こそ正義で何をしても良いとなれば、規律はなくなって、終わりのない報復だけになる。寝てる時やトイレの間に殺されるか、恨みを持った仲間から後ろから撃たれるぞ。以後、仲間同士の争いは禁止する。文句があるなら俺が相手になろう」
「了解しました」
「うー、分かった。大将には従う」
紅美も俺には逆らえない。
しかし、争いの種は残ったままなので静香が聞いてくる。
「でも肉の分配はどうしよう? アラシ。少ないから全員で分けるわけにもいかないし……」
「そこでだ、訓練を兼ねた競技をやろうと思う。それで勝った者達に肉をやろう。負けても活躍した者には与える。競技は機甲羽衣を使った模擬戦だ」
「おおっ!」
「……具体的には、どうするの?」
「部隊を8名ずつの4チームに分けてトーナメントを行う。内容は陣地に立てた敵旗を奪うか、ペイント弾で相手を全機倒すか、で勝敗を決める。当たり判定はAIにさせるから公平だ。ただしチーム分けはランダムとするので誰と組むかは分からない。そして各チームは1時間で相談して、リーダーと作戦を決めねばならない」
「これは厳しいであります!」
「好きな奴とは組めないわけか……」
この条件に皆が騒ぎだすが、あえて理由はいわない。教えるのは簡単だが自分達で考えてもらいたいのだ。
「今日は模擬戦の準備をするとしよう。敵が使っていた演習場があるので、そこを整備する。あと機体が赤一色では分かりにくいから、機甲羽衣の頭と肩をパートラッピングして色を一部変える。もしくはスプレー塗装なら時間はかかるまい」
「なるほど」
「あと、弾数は制限するが武器は自由だ。近接戦で殴ってもかまわない。それと俺と静香は不参加で審判だ。全体の動きを上から見て、ドローンも使って録画する」
「了解した、アラシ」
「それでは準備開始だ」
「「「了解!」」」
そうと決まれば全員が動き出す。俺の指示通りに模擬戦場をテキパキと作り、自機の整備に余念がない。
「これはテンションが上がるな」
「敵になっても恨みっこなしだぜ」
「肉は私のもんだ!」
敵から奪った機体を自分用にカスタマイズしてたから、ようやく使う機会がやってきたので、楽しくて仕方ないのだろう。
人が死なない戦闘だからこそ本気でやれる。兵士の娯楽だ。
商品つきとなればやる気もでるし、模擬戦は始まる前から盛り上がっていく。
次の日。
朝食のあとにチーム分けを発表する。これもAIにさせたので手心はくわえてない。
元巴隊はバラバラになったが、
「……ああ紅美と、同じチームだなんて」
「おう! よろしくな弥生」
弥生は心底嫌そうな顔をして、喜んでる紅美とは対象的だった。
気持ちは分かるが頑張れ。あとは機甲羽衣の頭と肩の塗装をしてもらう。
赤のほかに青・黄・緑の明るい色を使うのは、敵味方をハッキリさせるためだ。
ただ黒もそうだが、実際の戦場では目立つので使えない。いずれ機甲羽衣の全機を迷彩色に変えようと思っている。
そもそも原色を使ってるのが変なんだよなー、発見してくださいと言わんばかりじゃないか。
金色とか白色は論外で、そんな派手な機体はないよな?
そして、各チームごとに分かれてのミーティング。
「いやいや、お前がリーダーをしろよ」
「負けたら責任とれんわ!」
円陣を組んで遠くで話してるのだが、大声なので会話が聞こえてくる。
予想通り揉めているので狙いどおりだ。静香が話しかけてくる。
「私も隊長だから分かる。部下をまとめるのは大変だからな、命をあずかるから責任も重大だし。アラシの意図がだんだん読めてきた」
「そうか。戦場でまず大切なことは生き残ることだ。そのためにはどうするか? 常に考えねばならない。敵は待ってはくれないからな」
「ああ」
リーダーがあっさり決まったチームもあれば、時間ギリギリに決まったところもある。
作戦を考えてる暇はなかっただろう。ちなみに、そのチーム・リーダーは椿だった。
「伍長の私がリーダーなんて、おかしいであります!」
月城は嘆いていた。嵐隊では少し先輩なので、多数決で押しつけられたようだ。
まあよくあることだ。
俺はみんなに経験を積んでほしいので、失敗してもかまわないのだ。そこから何かを学んでくれればいい。
早速一回戦だ。模擬戦場に二つのチームが自陣の配置につく。
「試合開始!」
「うおおおおお!」
号砲を合図に試合が始まり、歓声と怒号がそこら中に響く。
「ガンバレー!」
「おらおら、根性をみせろ!」
次の試合をするチームは応援と見学だ。目の前の戦いを参考にしてもらう。
誰もが興奮して本気で叫んでるから、かなりやかましい……野次も多いな。
俺と静香は演習場を見渡せる高台で見ていた。
「うー、戦いを見てるとウズウズする。次は参加させてくれアラシ」
「そうだな、前線指揮をする場合もあるからな。何でもこなしてもらおう」
そして俺達は白熱する模擬戦を見ていた。
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