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神力の少年兵  作者: 夢野楽人


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3/43

敗走

所変わって、とある惑星。

『くっ! このままでは!』

『ほーら、言わんこっちゃない』

『文句はあとあと、さっさと逃げるわよ!』


 機甲羽衣はごろもという名の、兵装をまとった女性達が戦っていた。


 高機動・高火力を兼ね備え、装甲が厚く身を守る鎧である。

 一方は黒色、もう一方は赤色の機体で、黒の兵士達が圧倒的に不利で押し込まれていた。


 赤軍はいいように撃ちまくってる。やがて黒軍に退却命令がくだり、これで負けが決まる……。


挿絵(By みてみん)


『全軍、第二防衛線まで後退せよ。繰り返す、全隊速やかに撤退……』


「簡単に言いやがる!」


 正に言うは易し、敵からの追撃を受けることになり各部隊はかなりの損害を出す。

 殿しんがりを出す間もなく戦線が崩壊したのだ。それでも退かねば黒軍は全滅していただろう。


 ……しばらくして、辛うじて生き残った部隊が後方陣地に集まってくる。


 最前線から命からがら逃げられたともえ小隊は、テントの中でぶっ倒れていた。

 精根尽き果てて一歩も動けず寝転がっている。女がTシャツとパンツ一丁では問題だが、男は一人もいない。

 そもそも敵方にも男性はいないので、知識として知ってる者がいるだけだった。

 

 鐵乙女くろがねおとめ団と紅蓮姫ぐれんき


 異様な環境の中、女だけの軍隊が何度も戦っていた。会戦は数え切れない。

 少なくとも十数年間、戦いが続いている……戦争の理由すら知らずに。

 それを疑問に思う兵士はいない。


 なぜなら彼女らが物心つく頃には、徹底的に思想教育されて、命令に服従するように叩き込まれるからだ。

 そして戦争が日常になり、生き残ることしか考えられなくなる。

 今回の戦いの被害は大きかった。鐵乙女団はボロ負けと言って良い。

 部隊の士官達は重い足取りで指令所に入っていく。



「巴隊、全員帰還しました。負傷者なし戦果なし、機体の損耗軽微」


「ご苦労。他の部隊が戻るまでそのまま待機せよ、獅堂少尉」


「了解です」


 帰還報告をした獅堂静香しどうしずかは、上官に敬礼して指令所を後にする。

 軍の立て直しには時間がかかるので、それまではしばしの休息がとれるはず。

 巴隊のテントに向かう途中、華隊隊長の氷室氷花に声をかけられる。同期でライバルだった。


「そっちは全員無事だったようだな、静香。うちは一人やられた……」


「そうか……でも、運が良ければ生きてるだろう。機甲羽衣は頑丈だ」


「捕虜の方が死ぬよりきついかもしれんがな。そもそも、この作戦に無理があったんだ! あんな見え見えの奇襲なんて通用するはずがない!」


「よせ! 総司令部への批判は許されない。憲兵につかまるぞ!」


 静香は憤った氷花をたしなめる。大切な部下を失い、やりきれない気持ちは良く分かった。

 それでも不満をぶちまけたせいで、戦友がいなくなるのは嫌だった。

 上に目を付けられたら謹慎で済めばいいが、最悪の場合、降格処分されて軍刑務所送りもあり得る。


「……そうだな悪かった。文句を言う前に昇進してやる! そうすれば無駄な犠牲も減るだろう」


「優秀な氷花なら良い幹部になれるさ」


「ふっ、主席卒業のお前に言われると嫌みに聞こえるな」


 二人は笑って別れた。友人との楽しい時間は束の間、静香の足取りは重くなり途中でため息をつく。

 部下達に会うのが嫌で、この上なく億劫おっくうだった。

 獅堂静香は隊長として着任したばかりで、部下と対話をしてないのは仕方ないとして、前隊長がやらかしたのが問題だった。

 部下達は上に不信感を募らせており、関係は悪化したままである。


 それでもテントの前までくると、腹をくくって中に入る。


「総員、敬礼」

「…………」


 副隊長が号令をかけるが誰一人従う者はいない。寝転がったままの者もいる。

 この態度に副隊長は腹を立てるが、


「貴様らー! 少尉殿に挨拶せんかー!」


「よい、天羽准尉。いつもすまないな」


「いえ当然の任務です」


 唯一の味方は士官の天羽天音あまはあまねだけだった。残りの三人は下士官。

 もともと士官学校出のエリートを嫌っている。後ろから危険な命令を出すだけで、威張ってれば腹も立つ。静香はそれとは違うが、口で言っても信用はされない。


 静香は怒りもせずに、司令部からの連絡を伝える。


「全員そのままで聞いてくれ。味方が戻ってくるまでココで待機だ。ただ緊急出動もありえるので、皆そのつもりでいてくれ。以上」

「はっ、了解しました」


 副隊長の天音だけが返事をすると、一人の部下が声を荒らげる。


「けっ! 敗残兵待ちかよ。どうせ負け戦なんだから、さっさと基地に逃げ戻りゃあいいんだよ」

「口が過ぎるぞ、久遠軍曹!」

「ああん、文句あんのか天音ー! 相手してやんぞ!」


 赤い長髪の久遠紅美くおんくみは立ち上がって、ショートヘアの天音に突っかかる。

 上官批判の常習犯で何度も処分を受けている。本来なら軍刑務所送りだが、兵員不足のせいで叱責だけで済んでいた。

 一触即発の二人の間に静香が割って入る。


「よせ、二人とも! 軍曹、不満があるなら私に言え!」


 紅美は静香の方を向いて大声を出す。


「たった五人でどう戦えってんだ! いつまでたっても補充要員はこねー! あたいらは使い捨ての駒じゃねえぞ! どうせ、お前もいざとなったら逃げるんだろ⁉」

「…………」


 巴隊には8名の兵士がいたが前隊長が任務に失敗し、部下を見捨てて逃げようとした所、真っ先にやられてしまう事件があったのだ。

 その結果四人が戦死。戦友を失った下士官達は、軍上層部と上官を恨むようになる。


「どいつもこいつも信用ならねー!」


 仲間思いの紅美は特に不信感が強く、新隊長の静香を最初から敵視している。

 静香もその気持ちが分かっているので、頭ごなしに命令する気はなく、時間をかけて信頼されるように努力するしかなかった。


 大声を張り上げて紅美の興奮は収まった。静香はさらに聞く。


「他に意見がある者はいるか? 暴言でも構わん、決して上に報告しない」


「では、私から質問を」


 三つ編みの若い隊員が手を挙げた。ただ顔は笑ってはいない。


「月城伍長か、話を聞こう」


「補充員はともかく、兵站は足りず機甲羽衣はごろもの整備すら満足にできてません。食料・武器・弾薬がなくては戦いようがないであります! 隊長はいかがお考えなのですか?」


 静香は黙って聞いた後、全員に頭を下げた。

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