モノローグ 獅堂静香2
アラシと天音が狩りに出かけたところで、私はみんなに言う。
「諸君らを鐵乙女団の本部へ送ってやりたいとこだが、ここからでは距離が離れ過ぎていて無理だ。我ら巴隊はアラシについていくが、諸君らにも来てほしい。もちろん無理強いはしないし、一緒に戦わなくてもいいぞ」
「えええええええ⁈」
元捕虜達は、ますます混乱してしまった。
幼少から戦争だけを教えられてきたから、それ以外の生き方を知らないのだ。
私もアラシに出会わなかったら、考えが変わることはなかっただろう。
上の命令に従い、敵と戦って死ぬ――実にくだらない! やってられるか!
……自由。
アラシに聞いたこの言葉で目覚めた。もう誰も私を縛れはしない。
ただアラシのためならこの命をかける。
元捕虜達もじっくりと考えてほしい。今はやるべきことがある。
「考えるのは暇な時でいい。それよりも食料だ。収穫できる物があったら集めてくれ。毎日食べるし、人数が増えたからたくさん必要になってくる。それとアラシが獲ってくる獣の解体方法をレクチャーしておく。これは絶対に覚えてくれ」
「あ、ああ……」
生返事なので、何をするか分かった者は誰一人いないだろう。
血や肉が飛び散るとは思ってもみまい。
私と部下達も最初はエラい目にあったが、今では肉の奪い合いだ。
彼女らもそうなるだろう。まあ、慣れるまでが大変だが……ふふふふふふ。
いかんな、思わず口元がゆがんでしまう。
私は同じ目に遭う仲間が増えるのを喜んでいる。やはり人は度し難いな。
そして昼過ぎにアラシと天音が戻ってくる。トラックの荷台には数頭の鹿と猪、そして山鳥が積んであった。
「流石だぜ大将!」
「解体を急ぐであります!」
「冗談だろ……これ全部一人で獲ってきたのか⁈」
「これは夢か……そうだそうに違いない。ここに獣の山が有るわけがない!」
これを見て巴隊の連中は大喜びし、元捕虜達は仰天していた。
鹿一頭だけでも百食以上になるだろう。相変わらずアラシは凄いとしか言い様がなく、糧を与えてくれるので感謝だ。
私は天音と一緒に獲物を降ろしながら話を聞く。
「私はトラックで待機してたのですが、彼女は数十分もしないうちに獲物を仕留めてきては、また狩ってくるのです。異常としか言いようがありません。しかも銃声はなく獣には弾痕があるだけ。これも『力』とやらなのでしょうか? 隊長」
「たぶんな。私も獲物の運搬をさせられたが、狩りを直に見たことはない。アラシが言うには、獣は人の臭い・気配・足音に敏感で、近づいたら逃げられてしまうらしい。だから彼女は一人で狩りをしている。存在を隠せるから敵基地にも潜入できるのだろう」
「……なるほど、只者ではないということですね」
「ああ、ただ彼女の詮索はしない方がいい。一部しか記憶は戻ってないと言ってるし、アラシは他人を信用してないようだ。過去に何かあったのかもしれないから、刺激しないようにしている。いずれ打ち解けてくれるのを待とう」
「はいそうします。ですが、私の上官は獅堂隊長だけです!」
私は思わず笑みをこぼす。
天音の心酔ぶりは嬉しいような恐いような……そこに悲鳴が聞こえてきた。
「血いやああああああ!」
元捕虜達は、初めて月経血を見た乙女のように叫んでいた。生理を知らないと死ぬかと思うからね。
解体作業は一種の洗礼でサバイバル訓練なのだ。生きるには食わねばならない。
そのためにも、手を汚すことを恐れてはいけない。
ちゃんと処理をしないと食中毒や病気になってしまうから、巴隊の連中は厳しくしごいていた。
「へへへ、泣いても叫んでも許しはしないぜ!」
「いやー! 誰か助けて――――!」
逃げる者らを紅美が片っ端からとっ捕まえて、血抜き作業をさせている。
台詞だけ聞くとやばい感じもするが……。
ただ意外だったのは、天音が一言も叫ばなかったことである。初めてのはずだが。
「ちっ、面白くねえな。悲鳴を上げるのを楽しみにしてたのに」
「私は衛生兵でもあるからな、治療は何度もしてきたし、血なんか見慣れたものだ。こ、こんなものは屁でもない」
……多少、やせ我慢はしてるようだ。
なんやかんや作業が進んだところで私は言う。
「内臓の取り出しは私達がする。失敗するとウン……こ、困ったことになるからな。獲物をダメにしたくないから、まずは見学して覚えてくれ」
「……はい」
もう歯向かう者はおらず心が折れていた。誰もがげんなりしている。
ただ獣の内臓を見た途端に卒倒、あるいは逃亡者が続出する。
初めて見たらキツいからね。すかさず巴隊が確保に動く。
「……おらおら、ジダバタ、すんじゃねえ」
「目をそらしてはダメであります!」
「いやあああ! そんな、大きくてグロいものは見たくない‼」
「もう堪忍してえ!」
決してイジめてるわけではありません。巴隊はからかって遊んではいません。
彼女らを思って心を鬼にして、一生懸命に指導してるだけです! 邪推はしないでね♡
阿鼻叫喚の中、初めての体験会は終わる。
そして楽しい夕食の時間がきた。
「さあ、今日も焼き肉パーティだぜ。獲ってきてくれた大将に感謝しな。あたいらと一緒にいれば、お前らも食いっぱぐれはないぞ」
「もう二度と飢えるのは嫌であります。あー、鹿肉美味しい!」
「……はむ、はむ、はむ」
「紅美がまともな事を言うとはな。確かに基地に帰還したところで、また少ない配給で過ごすことになる。空腹はしんどいなー、ガツガツ」
巴隊の連中は肉を美味そうに食べながら、元捕虜達を仲間に誘っていた。
上手いやり方で、これで大きく心が傾くだろう。私だって原隊に復帰する気はない。
元捕虜達は解体ショックがまだ抜けてはいなかったが、思い出さないように目をつぶって肉を食べていた。
当たり前だが人は食わねば生きられないので、これは我慢できない欲求なのだ。
味方も敵も食わせてくれないとなれば、腹を満たしてくれるアラシにつくだろう。
夕食の後で彼女らは言った。
「私達もついていきます」
「ああ、これからよろしく。歓迎するよ」
こうして全員が新たな仲間となる。戦力が大幅アップしたので嬉しい。
まとめるのは大変かもしれないが、アラシがいれば大丈夫だろう。
彼女に勝てる者はいないのだから。
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