モノローグ 天羽天音
ようやく今日の農作業が終わり、私は部屋へと戻ってきた。
中に照明はなく狭い部屋でベットだけが置いてある。鍵はなくとも捕虜収容所。
毎日の仕事でヘロヘロになっているので、脱走する気など起きなかった。
それ以前にお腹が空いてたまらない。
肉体労働の割には食料配給が少なすぎる。じゃあ、敵の農務兵が多いのかと言われたら、量はあまり変わりなかった。
生産したほとんどの食料が各拠点へ運ばれていて残らない。生産性が悪いので、作っても作っても足りない。まるで私達は農奴のようだった。
仕方ないので味方の捕虜達と、水を飲んで我慢する毎日だ。
……ああ、いつまで生きてられるだろうか? そう長くはないだろう。
私は窓から★空を見て思う。
「隊長は逃げられただろうか? 無事でいるだろうか? あの凜々しいお顔を、もう見られないのが辛い。美しい唇をねっとりと舐めたかった。ああ、抱き合って愛を語りたかった」
コンコン
身もだえしてると、ノック音が聞こえてきて我に返る。ムカッ!
楽しい妄想が止められて、疲れてる私は不機嫌になる。
こんな時間に一体どこのドイツだ。バカは紅美だけでたくさんだ。
文句を言ってやろうと私はドアを開けたが誰もいない。イタズラかと思い、辺りを見回して見ると、
「こ、これは⁈」
置いてあったのは大きな段ボール箱。それよりも私の目を引いたのは上にあった手紙。
大きい字で、【天音へ】と書いてあった。私宛だ!
この美しい筆跡を忘れはしない、忘れるはずもない! 獅堂隊長の字だ!
私の下手な字とは比べものにならなかった。
驚いて思わず大声を出した私は、手で自分の口を塞いでから、急いで箱を中に入れた。
見張りがいないので気づかれなかったようだ。
「早く読まないと!」
喜びのあまり手が震えてしまう。
なんとか星明かりで手紙を読み進め、私は嬉しくて小躍りしてしまう。
隊長が生きていてくれたのも喜ばしいが、私を救いに来てくださったのが、何よりも嬉しい。
ああ、やっぱり私の王子様だ。ただ、
「この協力者というのが気になるが、他の仲間達も生きていたのは良かった……紅美はいらんが」
段ボール箱の中身は食料、干し肉や塩漬けの魚などでかなりの量があった。
これを味方に配って力をつけてもらい、隊長の作戦に協力してもらうのだ。
作戦は内部からの反乱で、決行は明日。
しかし今日は興奮して眠れそうもない。隊長を思って手○みしたいとこだが、ここは我慢だ。
疲れては本末転倒。静香様に早く会いたい!
――早朝、起きてからいつもの配給所へと向かう。
たった一杯のスープを飲んでから農作業をさせられる。やることは決まってるので、監視がつくこともない。
それでも慎重に私は動く。捕虜仲間とのミーティングの最中に隊長の計画を話した。
「助けが近くに来ている。みんな協力してくれ!」
「そんなの嘘だ! こんな敵地の奥深くまで来られるもんか!」
「証拠はある。みんな道具置き場まで来てくれ」
いつもの作業ルーティンなので怪しまれることはない。
そこで私は巧妙に隠されていた小銃と拳銃、そして弾薬を見せた。
どうやっていつ運ばれたのかは分からない。たぶん協力者とやらが用意したのだろう。
「凄い……マジだった」
「食料も寄越されたから、みんなで食べよう。今日は仕事をサボって夕方に備えてくれ」
「ありがたい!」
「分かった、やってやるぜ!」
焚き火で温まるふりをしながら、肉と魚を焼いて食べた。みんな腹を空かしていたので涙を流している。私も隊長に感謝しながら頂いた。
飢えるのは本当に辛い、久々にやる気と力がわいてくる。
銃だけあっても動けなかっただろう。全員の目つきが兵士に戻る。
あとは作業をサボリながら待っていた。
――ついにその時が来る。夕暮れ時に騒ぎが起きた。
「敵襲!」
の声と同時に爆撃が響き渡る。迫撃砲の攻撃で、これが合図だ。
「私達もいくぞ!」
「おう!」
「うおおおおおー!」
私達は隠しておいた銃を手に取って駆け出す。突撃開始だ!
このまま飢えて死ぬよりはマシで、誰もが恐れ知らずになっている。
機甲羽衣が相手だろうとかまわない。
生身の農務兵が相手なら、こっちが有利だ。敵が武装する前に攻撃する。
「な、な、なんで捕虜が武器を持ってるんだー!」
「うそだろ⁈」
案の上、農務兵はこちらを見た途端、驚いて逃げだしてしまう。
私達は威嚇射撃をしながら追い回した。
敵は反乱されるとは思ってもおらず、慌てふためいて逃げ回った末に、両手を上げてしまう。
「降参しまーす。どうか殺さないでー!」
切実な思いが伝わってきた。もともと戦闘が専門じゃないからな、それに虐められたわけではなかったので、殺すには忍びなかった。
味方の捕虜達も同じ気持ちだったので、投降した敵兵を広場に集めて監視することにした。
これで立場は逆転したが、
「問題は敵の機甲羽衣だ。確か格納庫に三十機はあったはず。押さえにいくぞ!」
「わかった!」
出てこられたら戦況は一気に覆る。私は焦りながら仲間達と格納庫へ向かう。
「くそっ! 遅かったか!」
待ち構えていたのは三機の機甲羽衣。万事休す……と思ったら、
『よう天音、悪運強く生きてやがったな』
一番聞きたくない声が耳に届く。乗っていたのは紅美の奴だった。
『天羽副隊長、御無事で何よりであります。今アラシ殿が格納庫を解放しますので、占拠してください。こちらは人が足りないので増援をお願いします』
「わかった、月城伍長」
そして後ろから声がかけられた。敵の軍服を着ていたが獅堂隊長と分かる。
嬉しがってる暇はなく、あとからじっくり語り合おう。
「天羽准尉、悪いがこっちにも人を回してくれ。降伏した者が一杯で手が足りん」
『……監視は大変、副隊長よろしく』
「了解だ!」
この間の抜けたような声は八雲だ。みんな変わってないな。
私は捕虜仲間に指示を出しながら思った。もしかして救出部隊は巴隊しかいないのか?
あと一人いるとしても、たった五人で基地を攻め落としたことになる。
信じられない戦果に私は驚くしかない。そして格納庫から歩いてくる少女がいた。
まさか彼女が協力者? と疑いはするものの、優秀な隊長でも不可能な作戦なのだ。
それと私の直感が告げてる……彼女は只者ではない。
一体何者なのか? 本当に少女なのか?
知りたいことは山ほどあるが、まずは挨拶をすることにした。
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