すれ違い作戦
無線を傍受してたから、どのルートから敵が来るかは分かっていた。
もちろん戦う気はなく、間違っても真正面に出たりはしないが、俺達は敵のかなり近くにいたのだ。
敵部隊は街道を進軍してきて、俺達は林のある脇道を進んでいたから、絶対にぶつかることはない。
離れてるから索敵しない限り、発見されないだろう。
しかし物音で気づかれる可能性もある。すれ違う前に俺は全車両を止めた。
「全隊停止、エンジンを止めろ! 息を潜めろ! 決して外を見るな!」
「了解!」
近くにいるのがバレたら作戦が水の泡だ。機甲羽衣の対人センサーに、引っかかるわけにはいかない。
俺達がジッとしていると、地鳴りがゆっくりと近づいて、輸送トラックの走行音が大きくなっていく。
地面は揺れ続け振動はこっちにも届いてくる。やがて車列音が遠ざかっていった。
俺は神聴耳を使い、敵がいないのを確認した。どうやら気づかれなかったようだ。
戻ってくるトラックはない。
「よーしみんな、もう大丈夫だ。敵は去った」
「ふー、緊張した」
「ぶひゃひゃひゃ! いやー痛快、痛快。あいつらアタイらに気づきもせずに、ツヴァイに進んでいきやがった。バカめ!」
「クスクス……もう誰も、いないのに」
「あとで、吠え面をかくのであります!」
巴隊の面々は大いに笑う。してやったりという顔をしていた。
これは戦わない勝利と言える。「すれ違い作戦」の第1段階は成功。
俺達は敵部隊と逆方向へ進軍する。そして荒らし回るのだ。
「ココからは街道に出て全速力だ! 敵のパトロールに見つかっても気にすることはない。敬礼してやれば味方と思われるだろう。がら空きになってる拠点を襲いに行くぞ!」
「了解であります! アラシ殿」
「……ワクワクする」
「腕がなるぜー! 暴れ回ってやるぞ!」
「紅美、周りを見て戦いなさいよ!」
丸一日かけて、敵の中継地点に着いたが誰もいなかった。
予想通りで殆どの戦力をツヴァイに送ったらしく、守備隊すらいなかった。
しかし物資は山のように残っていた。
補給基地でもあるので、自分達の拠点へ帰る時に使う予定なのだろう。
もちろん全ていただく……我ながらひどいな。
「これは凄いな、めずらしく食料もある」
「ヒャッハー! 全部アタイらのもんだー!」
「奪って、奪い尽くして、何も残さないであります!」
「……まるで、野盗。でも楽しい」
手当たり次第にみんなで物資をかき集めることにする。これぞ強奪だ。
女達は嬉々として動いていた。やりたい放題してるので、気持ちいいのだろう。
やばい愉悦だ。
物資を奪われたのは敵にとって大打撃、会戦で勝つより大きい戦果だ。
日が暮れた夕方には、敵の食料で豪華なパーティを開く。今日くらいはいいだろう。
ストレス解消だ。
「かんぱーい!」
作戦は大成功、酒があったので静香達は勝利の美酒に酔う。子供の俺は飲めんが……。
女達は酒癖が悪く俺は絡まれて大変だった。そして翌日には二日酔い、世話がかかる。
「うー、水をくれえ……」
「私も……お願い……」
「……ヘルプ、ミー」
「待ってろ、今行く」
部下達の面倒を見るのも、俺の仕事なのだろう。やれやれ。
俺達は中継地点で数日を過ごす。敵部隊はツヴァイに着いた頃かな?
どうも無線封鎖をしてるらしく、敵の状況が分からなくなっていた。
たぶん敵に切れ者がいて、聞かれてるのに気づいたのかもしれない。これは舐めてはかかれんな。
物資はトラックに積めるだけ積みこんで、残りは隠すことにした。
「面倒くせーな、ココを焼き払えばいいじゃん」
「……おバカ、そんなことをしたら私達の行動が敵にバレる」
「燃料を隠しておくのは後で使うためか? アラシ」
「ああ廃棄するのはもったいないし、自然発火する恐れもあるから、念のためとっておく」
「アラシ殿には先見の明があります!」
そして残っていたトラックには細工をして、エンジンが動かないようにしておいた。
鍵も隠しておき、機甲羽衣も同様にする。
「これで部隊が戻ってきても、簡単には移動はできまい」
「私達を追ってこれなくなるわけだ」
「……完璧」
「さあ、次の敵拠点に行こうぜ」
紅美は脳筋だが良いムードメーカーだった。少しくらい騒ぎを起こす奴がいた方が、場が明るくなっていい。
気が強く恐れを知らないから、前線では頼りになる。
……似た性格の女がいた気もするが、やはり思いだせなかった。
――進軍を再開して数日後。
「かなり広い場所だ。ここで兵糧生産をしてるのだろう」
「しかし、雑草だらけで畑が荒れ果てている。これでは大して収穫は見込めない。これっぽっちで兵士を養うのは不可能だ」
「だから食料不足なんだろうよ。鐡もあんまし変わらん」
「……人が少ない、捕虜も働いてる」
「農務兵ですね。非戦闘員と変わりないであります」
俺達は敵の軍営農地にやってきた。今回のターゲットである。
食料生産をしてるココを落とせば、紅蓮姫団にとって大打撃になるだろう。
さすれば敵本部を攻めやすくなる。しかし問題点があるので一先ず先送り。
俺達は山から偵察をしていた。思い思いに感想を述べて意見交換をする。
敵を知ることによって、見えてくる物があるからだ。
見ていた俺はイラついて、我慢できずにぶちまけてしまう。
「ああ、それにしても効率が悪すぎる。農機具もなしに手作業だとー! ここは原始時代か⁈ 使ってるのは鋤・鍬・鎌! そんでもって牛が働いてる!」
「……これが普通の農業なんだが。アラシがいた世界とは違うのか?」
「ああ、AI農業機械と多数のロボットが広い農場を動き回って、耕し・肥料・種まき・水まき・害虫駆除・収穫まで全自動でやってるわ。もしくは手動で古い機械を動かして、ドローンを使って農業をしてる。まあ、天候だけはどうしようもないが」
「そんなものがあるんだな、あれば楽だろうなー」
「……それは凄い、見て見たい」
静香達はかなり興味を持ったようだ。いずれ話してやることにしよう。
俺は文化的衝撃を振り払い、ココを攻略する作戦を考え始めた。
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