再会と洗礼
迫撃砲を使ったが施設に当てないようにしたので、大量の物資を手に入れることはできた。吹っ飛ばしたら意味がないからな。
しかし、
「ちっ! やっぱり食いもんがねえー」
「……雀の涙」
俺達はツヴァイ陣地を漁って回ったが、食料は残っていなかった。
これは予想してたから落ち込むほどではない。
だから保存食をたくさん作っており、四人で食べる分はまだまだある。
俺は一人で指令所に入り、中の端末をいじっていた。パソコン内のデータをじっくり見ていく。
「光ケーブルも通信衛星もないのかよ。ネット環境がなくては、敵司令部にハッキングをかけられんな。スタンドアローンPCとも言えるが、電話すらなく無線だけ。機甲羽衣の技術はかなりの物なのに、他が時代遅れなのは変だ。いや、そもそもパワードスーツを何処で作ってんだ?」
隅から隅までデータを見て見たが、めぼしい情報は何もなかった。
駐屯してる部隊には無線連絡で指示がされてるようで、通話記録にも大したことは書かれてなかった。
情報収集は空振りし俺は少しガッカリしたが、新たな武器が入ったのでよしとしよう。
もし情報統制されてるのだとすれば、兵士達は何も知らないし、重要資料はないのかもしれない。さてどうするか……⁈
俺が今後の方針を考えていると、遠くで大きな音が聞こえてきたので行ってみる。
そこは小さな倉庫で、中から扉を何かで叩く音と小さな声が聞こえてくる。何を喋っているかは分からない。
先に来ていた静香達は俺に指示を仰ぐ。
「鍵がなくて開けられないんだ、アラシ。鍵を探すか? それとも壊すか?」
「いや俺がドアを開ける。閉じ込められていた敵兵だったら、直ぐに取り押さえるぞ」
「ああ、逃げたらアタイが追いかけて捕まえてやるよ」
「……了解」
俺はドアノブを握って念力を使う。
認証がやっかいな電子錠ならともかく、シリンダーキーなら一発だ。
ガチャリと鍵が外れるとドアが前に開き、三つ編みで怒り顔の女が文句を言ってくる。
「あんたねー、飯くらい食わせなさいよ! 水も飲ませなさいよ! 捕虜だからって放置しないで!」
まるで家主に文句を言いに来た住人のようだ。俺は大家じゃないんだが。
面食らっていると、静香達は女の顔を見て驚いていた。
「えっ、椿⁈」
「……伍長」
「はっはははは! 月城も悪運が強かったようだな」
「うそっ! なんでみんないるんですか⁈」
どうやら巴隊の仲間だったようだ。みんな再会を喜んでいる。
なんでも、自ら囮になって部隊を守ろうとしたから偉い。
ここは祝って飯にしよう。
「はむ、はむ、はむ!」
「飯は逃げないぞ、ゆっくり食え月城」
「……はい、お水」
とにかく椿は腹が減っていたようで、もの凄い勢いで肉を食べていた。
紅美と弥生も最初会った時は飢えてたからな、今は暖かい目で椿の世話をしていた。
「ふー、満腹であります。糧に感謝します」
たくさん肉を平らげると、椿は穏やかな顔になって落ち着く。
空腹だと人はイラつくからな、それを過ぎると何も言えなくなって、やがて動けなくなる。
元気があるのが一番だ。前と同じく静香が俺を紹介する。
「彼女の名はアラシ。私達がこうしていられるのも、彼女が助けてくれたからだ」
「大将はアタイより強いぞ」
「……物知り、別世界の人」
「そうでしたか……小官も助けられたわけですね。ありがとうございます」
「気にするな。助けたのは偶然だしな」
「いえ、あのままでは飢えて死ぬとこでしたので、本当に助かりました」
椿は頭を下げたので紅美とは真逆の性格だ。礼儀正しく真面目である。
あとは今後のことを説明したが、椿は即断してしまう。
「小官も皆さんについて行くであります! よろしくお願いします」
「いいのか? これから敵拠点を巡って進軍するんだぞ。最終的には敵の本拠地まで俺は行くつもりだ」
「はい、どうせ戻っても戦わせられるだけですし、どうせ死ぬならみんなと一緒がいいです。それに暴れん坊の久遠曹長を、手なずけたのは凄いであります。小官も餌付けしてください!」
「おい月城、アタイは犬じゃないぞ」
「はははははははは!」
皆が笑って良い雰囲気だった。
前に似たような事があったような……誰かと焚き火を囲んで……くそ、思い出せん。
大切な楽しい思い出が、像にならないのが悔しい。
俺はあきらめて、全員に今後の計画を話す。
「俺の予想だと、敵がココを奪還しにくるのは十日後。それまでに食い物集めと、兵器の整備をする。まあ、いつもの仕事だ。もうココに用はなく戦う気は一切ないから、敵が来る前にトンズラするぞ」
「了解」
「分かりました、アラシ殿!」
大きな声で敬礼した椿に、紅美と弥生はニヤニヤと笑っていた。
「くくく、血湧きミミズ躍る世界へようこそ」
「ふふふ……犠牲、いや仲間が増える」
異様な雰囲気に椿はビビる。大丈夫だ、たいしたことはない。
「な、なんなんですか皆さん?」
「なーに、獣を解体するだけのことだ。すぐに慣れる」
「……そうそう、魚を捌くだけの簡単なお仕事」
翌日。
いつものように俺が獲物を狩ってくると、二人が手取り足取り椿にやり方を教え始めた。
実に丁寧で分かりやすく怒鳴ったりもしない。面倒身が良い先輩で、俺は感心する。
もっとも両脇を固めて逃げ場を塞いでいるが。
「いやあああああああああああああああ!」
作業を嫌がってる椿は絶叫を上げていた。洗礼ならぬ鮮血を浴びてる。
これは定番イベントになりつつあるな。
静香から始まって、秘伝の俺の解体技が伝わるのは嬉しいものだ。
痛いのは最初だけだ……心が。いずれ気持ち良くなるだろう……切り刻むのが。
そして夕食。
「私、汚れちゃった…………汚されちゃった、しくしく」
と言いつつ、椿はガツガツと肉をかっこんでいた。もうヤケクソなのかもしれない。
大食漢なので、他の三人に比べるとかなりタフだった。
食い気が何よりも優先し、それと椿には料理の才能もあり、俺は知ってるレシピを教えることにする。
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