追放作戦
そして夜明け前。
「ぐおおおおおお!」
「うーん……むにゃ、むにゃ……」
「……おは、よう」
目を覚ましたのは弥生だけで、やっぱり静香と紅美は起きられなかった。
もともと朝が弱いのだろう。いびきをかいたまま。
「おはよう……起きろー! と言ってもダメか……」
大声にも反応せず、これくらいで二人は目覚めないのだ。これは図太い。
こうなると叩き起こすしかないが……そうだ、少し趣向を変えてみるか。
「弥生、少し手伝ってくれ。ある物を作る」
「……分かった」
俺は大きな張り紙を持ってきて二人で折り紙を始める。
三角の形になったところで完成し、やり方を弥生に教えた。
そして静香と紅美の側にきて、端を持って振り下ろす。
パン! パン!
とかなり大きな音が響くと、
「なんだ、なんだ⁈ いてえー!」
「しまった、寝過ごしたー! ぐわっ!」
二人は驚いて跳ね起き、互いにぶつかってしまう。
弥生は無邪気に笑って喜んでいた。
「きゃははははは! ……これは面白い!」
「これが本当の紙鉄砲だ。驚かすにはいいが、イタズラはやり過ぎるな」
謝る二人を無視して、仕込んでおいたスープを温めて配る。
最後にもう一度段取りを確認してから、俺は再度敵陣に忍び込む。
「神影走!」
見張りはもちろん起きてる敵もいない。
なら前回と同じく、バケツを叩いて起こしてやるだけだ。そして騒ぎ立てる。
「敵襲だー! 敵が責めてきたぞー!」
「大部隊の襲撃だー!」
もちろん大嘘。
これと同時にドゴーンという爆音が中で轟いた。静香達による迫撃砲の攻撃だ。
ただし、宿舎から離れた場所に着弾している。あえて兵士のいる場所は狙わない。
轟音に驚いた紅蓮姫の兵達は、着替えも中途半端のまま飛び出してくる。
「敵襲だー! 迎撃しろー! 格納庫へ向かえ!」
と俺が叫んで誘導してやる。
頭が回ってないので、言われるままに動いてしまう……罠とも知らずに。
そして格納庫の前で慌て出す。
「あ、開かない。鍵を開けたのに扉が開かない!」
「そんな馬鹿な⁈ 誰か中にいるのか?」
「他の出入り口もダメだ。一体どうなってるんだ?」
重要施設である格納庫は頑丈にできていて、いざという時には立て籠もれるようになっていた。
それが仇となる。窓は防弾ガラス仕様なので、鉄パイプで叩いたくらいでは割れない。
俺が昨晩やったのは正門に閂をかけて、他の扉も取っ手が回らないようにして、外からは絶対に入れないようにしておいたのだ。
これを破るとなるとロケット弾か戦車砲が必要になる。もちろんそんなことをすれば、中の機甲羽衣が壊れてしまうのでやれない。
「ど、どうすりゃあいいんだー!」
中に入れないので機体に搭乗することはできず、武器もないので戦うこともできない。
敵兵達は半裸の状態で困り果てていた。
「オラオラオラ! 紅美様のお通りだー!」
紅美の大声がスピーカーから聞こえてきた。
敵兵の前に現れたのは見慣れた赤い機甲羽衣。
しかし、撃ってきてるし声が聞こえてくるので、機体を奪われたのは一目瞭然。
前の拠点にあった物を奪い、整備して使っている。
「うわー! 逃げろー!」
もう一機が現れて生身の敵兵は逃げだす。勝負にならないからな。
これに乗っているのは弥生で、威嚇射撃で当てないように厳命している。
小型車両の無線で指示を出してるのは静香だ。
二機しかなかったので誰が乗るかで揉めたが、俺が仲裁した。
「俺は単独行動するから、現場の指揮官は静香がやれ。隊長として戦況を見極めて指示を出すんだ。これも訓練だからな、それと紅美は命令に従うように。とにかく敵を殺すな!」
「へいへい、分かったよ」
「……逆らったら、わたしが撃つ」
「そりゃあ、ねーだろ!」
弥生が釘を刺してくれたので助かる。命令違反は本当にマズいからな、作戦が破綻する。
敵は逃げ惑うしかなく、俺は更に虚報を叫んだ。
「拠点が囲まれたぞー! こうなったら逃げるしかない! みんな撤退だー! トラックだ、トラックに向かえ!」
「あわわわわわわわ!」
これに合わせて催涙弾と煙幕弾が撃ち込まれて視界が悪くなり、敵兵達は見える場所へと追い立てられていく。
武器はないしパニックになってるので、反撃するどころではなかった。
ただ死傷者が出てしまうと、怒りで我に返って反撃され、まずいことになるかもしれない。
だから俺は殺さないのだ。人の恨みは恐ろしい。
夜討ち朝駆けは基本中の基本、そして撹乱戦術はかなり効いた。
作戦目的は敵を倒すことではなく、拠点から追い払うことだった。
「トラックに乗り込めー!」
前もってエンジンはかけてある。慌ててると上手くいかないからな。
誰が車を準備してたかなど気にする者はいない。
「恐い、死にたくない!」
「早くだせー!」
恐怖が先にきてるからな。俺の言葉に惑わされ、敵兵達はトラックに乗り込んで次々と逃げだしていく。命からがらだ。
敵に落伍者が出ないように、ゆっくりと確実に追い出したので、陣地には誰も残ってはいないだろう。
まあ誰かのような寝ぼすけが、部屋にいるかもしれないが。
『……それは言わないでくれアラシ。とりあえず作戦終了、全員集合の後、残兵がいないか確認する』
『了解した。やったぜ!』
『……すごい、無血開城』
無線で紅美は喜び、弥生は驚いていた。
確かに拠点の攻略ともなれば、大戦力を集めて攻撃し、多数の犠牲と損害を出して奪うものだろう。
しかし歴史上では、寡兵で難攻不落の城を奪った例がかなりあった。
記憶にあったので俺が学んだことだろう。
たいていは守備側の油断によるもので、今回も紅蓮姫側の防衛体制に隙があったから成功しただけだ。
チートのエスパーだからやれた? …………か、関係ないと思う。
これはみんなで勝ち取った勝利だ! うんうん。
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