格闘訓練
整備と食い物集めだけだと飽きるので、俺は全員に格闘術を教えていた。
きっかけは紅美が暇さえあれば、負けてもこりずに勝負を挑んでくるので、受け身から始まって基礎を教えるようになった。
「もう一丁!」
「まだまだ動きが荒いぞ、まずは型をしっかり覚えろ! 応用は後だ」
「やっぱりアラシは強い」
「……これは、使える技」
こうして静香と弥生も一緒に習うようになる。
組み手は相手が変わるだけでも、まったく別の戦いになるから面白い。
良い気晴らしになる。
俺一人で三人と戦い軽く圧勝してみせたので、紅美は逆らわなくなり、俺を「大将」と呼ぶようになった。
静香達は銃火器とパワードスーツの扱い以外は教えられなかったようだ。
武器がない近接戦闘において、格闘技は有効なのに訓練しないのはおかしい。どうして教えん?
まあ誰も答えてくれないので考えるだけ無駄だが、次から次と俺の常識が否定されて頭が痛くなってくる
これで三人は軍人としてまともになってきた。
弥生と紅美は解体作業に慣れ一皮むけたようだった。最初はげんなりして小食だったのが、今では焼き肉の奪い合いになっている。
「あっ、そいつはアタイが食う気だったのに!」
「早い者、勝ち……」
甘さが消えた兵士になったと言えよう。やはり場数は大事だな。
俺は全員に言う。
「よし、もう水と食料は十分だ。明日にはココを去って、次の敵拠点ツヴァイへ向かう。前に比べたら規模は大きい。戦闘になるのは覚悟しておけよ」
「おう!」
「了解」
今日は移動の準備、全員でトラックに荷物を積み込む。
食料の他に燃料と武器があってかさばったが、奪ったのは大型車なので問題はない。
それと倉庫には小型車両があったのでこれも使う。小回りのきくオープンカーなので、偵察にはもってこいだ。
皆がテキパキと動いていた。悲しい事は一つだけ、俺が運転できないことだった。
ああ乗り回してー。
こうして次の日、俺達は出発した。
ハッキリ言って車の乗り心地は悪く、激しく揺れて酔いそうになる。
これは車両のせいではなく、道が舗装されてないからで、土道と砂利道の悪路しかないのだ。
常識的にはありえんが全部の道がそうなっている。
「……道路工事って、なに?」
「基地の近くには、コンクリート道路があるな」
「そうだな」
「……マジか」
俺は驚くが静香達に聞くとこれが当たり前で、アスファルトは知らんらしい。ガソリンはあっても原油はないな。どっから燃料を持ってきてるんだ?
あっても工兵がいないので作れないだろう。俺は揺れを我慢するしかなかった。
二日ほど進むと敵拠点が見えてくる。あそこがツヴァイだろう。
手に入れた地図には数字が振られていた。名前を付ける気がないのだろう。
あまり拠点には近づかずトラックを止めて、俺と静香は小型車で静香と偵察にでた。
見晴らしの良い場所から双眼鏡で見渡す。静香が見ている間に、俺は超能力で内部を探知する。
「……うーん、一個中隊で百人ほどいるかしら」
「ああ、数は圧倒的だな。だが見張りがほとんどいないぞ。相変わらず警戒心が足りない。俺達が捕虜を奪ったことが伝わってないのか?」
「失敗を隠しているか、あるいは連絡が届いていないのかも。それと拠点が攻められるとは思ってないのよ。鐡軍も全く想定してないわ。だから隙だらけね」
「やれやれパルチザン対策は0かよ、これじゃ破壊工作しほうだいだな。まあいい、俺が今夜中に忍び込んで仕掛けをしてくる。明朝にはココを攻め落とす」
「了解」
俺達は引き返して全員に作戦を伝えた。
俺が一人で敵陣地に忍び込むと言ったら、紅美と弥生は驚いて止めにくるが、静香に説得される。
普通の兵士なら死にに行くようなもんだからな。だがエスパーは違う。
「二人を助けた時もアラシが一人で敵陣に潜入している。私達は邪魔なので待ってればいい。それだけの力があるんだ」
「大丈夫なんだろな……」
「……心配」
二人は納得しなかったが、俺の格闘能力を知ってるので押し黙った。
心配してくれるのは嬉しいが。
「俺なら問題ない。朝には奇襲をかけるから、早めに寝ろよ。起きなかったら叩き起こすぞ!」
「うっ! 了解」
寝起きの悪い静香はビビったようだ。
そして敵が寝静まる頃、前と同じく神影走を使って、俺は敵陣に侵入した。
見張りがいないとゲンナリしてくる。敵だろうと「最低限の軍務をしろ」と言いたくなってくる。警報器もないので張り合いがない。
愚痴りながら、俺は格納庫に近づいて鍵を開けて入る。中にはたくさんの赤い機甲羽衣が並べられていた。
今回は機体に手をつけない。その代わり格納庫全体を見回って細工しておく。
「これでよし」
仕事が終わって俺は上階の窓から外にでた。紙……神風船で体を浮かせて着地する。
前のように指令所に忍びこむ必要はない。情報収集はこの拠点を落としてからやればいい。
戦略的にはもう勝っているのだから。戻ってくると三人は起きて待っていた。
「おいおい、侵入して2時間も経ってねえぞ! 信じらんねー!」
「……おかえり、なさい」
「怪我はないか? アラシ」
「ただいま……つうか、お前ら起きてないでサッサと寝ろ! 作戦はもう始まってるんだからな!」
叱ってもなぜか女達は笑顔だった。気持ちがよく分からん。
この夜は全員で雑魚寝。
全員が抱きついてきたので、寝苦しかったが。
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