過酷な試練
そして次の日、朝飯を食った後で静香が二人に話す。
「はじめに言っておく。私は原隊には戻らず、アラシについて行くことにした。お前達が帰りたいなら境界線まで送っていこう。その後で鐵乙女団を裏切った、私を討ちにくるといい」
「なっ⁈」「…………」
本気の静香の目を見て二人は言葉を失う。
紅美は黙り込み、弥生がおずおずと手をあげて質問してくる。
「……どうして、そう決めたの隊長?」
「私はアラシと出会って、他の世界があるのを初めて知った。それで現状に疑問がわいたのだ。なぜ私達は紅蓮姫団と戦ってる? 何のために誰のために死ぬまで戦ってる? くだらない戦闘から逃げたらダメなのか⁈ なんで少ない食料で我慢しなくちゃならないんだ⁈ 無能な司令部は補給をよこしやがれ! ……ふぅ、ふぅ」
最後は大声で不満をぶちまけていた。ストレスが溜まりに溜まっていたのだろう。
腹が減るのは辛いからな、革命の最大の引き金になりやすい。
二人は静香の剣幕に絶句し、驚いて固まってしまう。
たぶん本音を聞いたのは初めてだろう。そして俺が話す。
「聞いたとおりで、俺からするとココはおかしい世界なんだ。傍から見ると無駄で無意味な戦いをしていて、占領政策すらなっていない。明らかに異常なので、俺は調べることにした。一人でもやるつもりだから、お前らは付いてこなくてもいい。ただ仕事はしてもらうぞ」
「……なにを、するの?」
「それはもちろん食い物集めだ。ここの倉庫を開けて見たが、あったのは燃料と武器弾薬だけで、缶詰め一つ残ってなかった。敵さんの食料事情も悪いようだしな。お前らが基地に帰るにしても旅の食料は必要だ。だから保存食作りを手伝ってもらうぞ」
「ちっ! しょうがねえな、お前に従ってやるよ」
これで一先ず話は終わり、後は行動するだけだ。
「紅美、覚悟しておけよ。食料集めは生やさしいものではないからな、アラシは甘くないぞ」
「なんのこっちゃ?」
「……なにか……不安」
静香は忠告し、二人を哀れみの目で見ていた。
あんな作業は大したことないんだがな、そんなにキツいものなのか?
まずは水くみをやらせた。
水道が使えなくなっていたので、近くの沢から運ばせて浄水器にかけさせる。
水がないと話にならん。トラックがあるのでさほど疲れはしない。
紅美は文句も言わずに働いたので、少しは懲りたのだろう。
その間、俺は狩りにでかける。
数時間後、俺はキジとヤマドリをたくさん獲ってきた。
神鉄砲の威力と命中率は上がっており、苦しませないよう頭を狙い一発で仕留めた。
まだまだだがな。
「うわっ!」
「……死骸が、いっぱい……」
獲物を担いできた俺を見て、紅美と弥生は目を丸くしていた。
静香は慣れており、すでに吊し台を用意してた。素早く鳥に紐をかけて吊り下げていく。
「突っ立ってないでお前達もやれ! 早く処理しないと獲物が痛む!」
「は、い」
どやされて慌てて二人は動き、見よう見まねで作業をしていく。
俺は吊された鳥に軽く水をかけて冷やし、下にタライを置く。
「次は血抜きだ。返り血には注意しろよ、首の付け根を少し切って排血させるんだ」
手本を見せてやると二人は肯く。ナイフを持った手は震えていたが、なんとかやっていた。
血がドンドン落ちてタライに溜まり血の池を作る。
「ひいいいいいい!」
「……………………」
それを見て紅美は真っ青になり、弥生は立ったまま気絶した。
血をみただけでコレか……うーむ、メンタルよえーな。
静香と同じで狩猟・解体作業をやったことがないのが分かった。
サバイバル訓練の基本なんだがなー、食用動物を扱ったことが一度もないから、嫌がってしまうのかもしれない。
まあ一般人でも加工業者まかせではあるが。
ただ戦場で生き延びるためにも、捌き方を徹底的に叩き込んでやろう。
俺って優しいな、うんうん。
血が抜けたところで弥生を叩き起こし、鳥の羽をむしらせる。
「うえーん!」「うわー! いやだー!」
泣こうが叫ぼうが許さない。強引にやらせる。細かい毛は火であぶって燃やした。
お待ちかねの内臓取り出しの時には、二人は逃げだしたので、直ぐさま静香がとっ捕まえて脅した。
「次に逃げたら撃つぞ!」
「……ひど、い」
「人の心がないんかー⁈」
静香は俺にされたことを、紅美と弥生に教えてるだけだ。厳しくて良い。
ただ二人は初めてだったので腸を傷つけて失敗し、辺りがう○こ臭くなったが、これも経験だ。
ダメにしたところで怒らない。
全羽の解体が終わった時には、紅美と弥生は死んだ目をしていた。
それでも夕飯はちゃんと食ったので大丈夫だろう。
明日は魚釣りだぞー、頑張れよー、俺は心の底から二人を応援する。
決して喜んではいません……ぷぷぷぷぷ。
そして次の日。
「「ぎゃあああああああああああああ!」」
二人は朝から晩まで悲鳴を上げていた。
少し大げさな反応にも見えるが、魚には生臭さやぬめりがあるからな、慣れないうちは仕方ないのかもしれない。
エサ付けは論外だ。
お前達ならできる、こんなのは乗り越えられるぞ! 俺は信じている‼
まあ、この試練を乗り越えた先には…………何もないが。
隊長である静香が細かく指導してるので、保存食作りは上手くいっていた。
毎日食うので沢山いる。二人にうっぷんを晴らしてるようにも見えるが……。
そして空いた時間には武器と車両の整備をする。移動には欠かせないからな。
……こうして数日が過ぎ、保存食が十分できたところで、改めて身の振り方を聞いた。
「……アラシに、ついてく」
「アタイもだ。基地に帰って氷花をぶちのめしてやりてーとこだが、大将の側にいりゃあ、食いぱっぐれはなさそうだしな。アタイに狩りはできん。それと上の奴らの命令なんぞ、もう聞きたくもねー!」
「そうか。なら今後の予定だが、敵拠点を巡って情報を仕入れていく。なるべく戦闘は避けるつもりだが覚悟はしてくれ」
「……了解」
「おう!」
二人はすっかり俺に従順になり、隊長の静香を呆れさせている。
……それは、あることを教えたからだった。
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