陽動作戦 前編
次の日の早朝、俺は飯を食った後に切り出す。
「少し大事な話になるぞ、静香」
「はい」
「この通り地図を手に入れたから、静香は味方の陣地に帰ることができる。途中までは俺も一緒に行ってやるが、着いたらそこでお別れだ。これが一番いい選択だろう。だが一つ情報がある」
「それは?」
「駐屯地の中に捕虜が二人いた。静香のことを言ってたな、名前は確か……弥生と紅美だったか」
「本当かアラシ⁈ それは私の部下だ! 生きていたのか⁈」
「ああ確認した(超能力でだが)」
静香は大声を出して驚いた後、俺の体をゆすって抱きついて涙をこぼす。
嬉しくてかなり興奮したようだ。
「そうか……生きててくれたのか……良かった。はっ! すまないアラシ」
静香は強く体を掴んだことを謝り、やがて険しい顔になって考え込む。
これで部下思いなのは分かったし、基地に帰るという選択はしないだろう。
そして申し訳なさそうに俺に頼んできた。
「アラシ……虫の良い話だと分かってはいるが、何とか二人を助け出せないだろうか? 私が出来ることだったら何でもする! お願いだ、もう二度と部下を見捨てたくない‼」
静香はいきなり土下座をしてきた。おいおい、子供にそこまでするか。
部下を見捨てて逃げ帰ることもできるのに、上官としての責任を果たそうとしているので、俺は静香を見直す。立派な大人だ。
情に厚い性格で、部下に対しての罪悪感もあるのだろう。
何としてでも助けたい思いが伝わってきたので、俺は力を貸してやることにした。
ま、予想してた通りだ。だからこそ救出作戦の準備をしていたのだ。
俺は静香に言う。
「いいぞ、身の振り方は部下と一緒に後から決めればいい。いいかげん頭を上げろ」
「ありがとうアラシ。部下は帰るかもしれないが、私はズッとアラシについて行く。それで何をすればいい? なんでもやるぞ!」
「まずはコレの洗濯だな、着てもらうからしっかり洗えよ」
敵の軍服を静香に手渡す。
「くっさ! どうしてこう汚れ仕事ばかりなんだ⁈」
「軍人なんぞ、戦う時間より生活する時間の方が長いんだよ。雑務兵がいないんだから、自分でやるしかない。なんでもするんだろ⁈」
「……うう、分かった」
俺が窘めると静香は服を嫌々洗い始める。石鹸と水道は近くにあり、あとは棒で叩けば洗濯はできた。
俺もサボる気はなく物干し台を作っておく。念力で鉄棒をコの字に曲げて作り、地面に刺した。不格好だが安定性はある。
そして昼飯作りだ。調理に慣れてない静香の飯はマズいので、俺が作るしかなかった。
「ふー、洗い終わったぞ」
「よし、一緒に絞って干すぞ」
俺達は向かい合い、洗濯物を反対にねじり絞って物干しにかけた。共同作業だ。
あとは静香に気づかれないように、超能力で少し風を送って乾かす。
神風とは言えずそよ風……はあーため息。
できた昼食を食いながら、俺は作戦の説明をする。
「俺達は敵の軍服を着て、明日の朝に潜入する。静香には……をやってもらうぞ、出来るな? 敵の混乱に乗じて動く予定だが、場合によっては強行突破だ」
「分かった……今更だが上手くいくだろうか? 部下を助けられるだろうか? もちろんアラシを信じてるが……」
「俺を巻き込んだお前がビビッてどうする⁈ どうしても助けたいんだろ? なら失敗を恐れずに、死ぬつもりで動け!」
「すまん、弱気になってしまったようだ。そう言われて目が覚めた。私は頑張る‼」
「それでいい」
これで静香は気を取り直した。
叱咤・激励するのも俺の役目かよ。いつから上官になったんだ? たぶん俺の方が年上だと思うが……。
まあそれはいいとして、俺は地面に敵陣地の見取り図を描いて詳しく説明した。
「なるほど、そこでそう動くわけか」
「ここで一番大事なのは度胸だ。あとは最後までやり遂げる意志、なにがあってもな」
あとは二人で体を動かし仮想訓練をして過ごす。
脳内シミュレーションも寝るまで何度もやる。時間がないからな。
これでも不安材料はあり、イレギュラーが起きないよう祈りながら早めに寝た。
明朝、俺は日が昇らぬうちに起きて、静香を叩き起こした。今回は容赦しない。
消化の良いスープを飲ませ、目を覚まさせる。救出作戦開始だ!
◇◇◇
日が昇り始めた頃、駐屯地でガンガンという音が響き渡る。
「何事だ⁈」
やかましい騒音で紅蓮姫の兵士達は跳ね起きた。
アラシは警報装置を鳴らしてやりたかったが、そんな物はなかったので、仕方なく金物バケツを叩いていた。
これがアラシの作戦の第1段階、敵の注意を引く。
「むにゃむにゃ……なんだあ、飯かー?」
「違うぞ、何か起きたらしいぞ⁈ さっさと着替えろ!」
寝ぼけながらも、兵士達は宿舎から次々と飛び出してくる。
すると声が聞こえてきた。
「敵兵だ! 逃げてた奴がいたぞー!」
「機甲羽衣が奪われたー!」
「なんだってえええええ⁈」
これを聞いて兵士達はパニックになり、互いに顔を見合わせたまま固まってしまう。
朝飯を食っておらず寝ぼけたままなので、どう対処すれば良いか分からなかった。
本来なら上官が指示するとこだが、小隊長より上の者がおらず指揮官が不在、しかも危機マニュアルがないのでどうしようもない。
自陣に侵入されたのは前代未聞、誰もが混乱したまま時間だけが過ぎていく。
そこに一機の機甲羽衣が現れ、兵士達を見たら逃げて行った。あからさまな動きである。
「追いかけろー! 取り戻すんだー!」
「コッチも機甲羽衣で追えー!」
「そ、そうだ! そうすべきだ!」
と言われたら格納庫に向かうしかない。
聞こえてきた声を疑う者はいなかった。目の前で盗まれた機甲羽衣が動いてるのだから、怪しんでる暇はない。
奪還すべく紅蓮姫部隊は動き出す。
ここからが作戦の第二段階。
誰もがこの騒ぎに釘付けになる中、一台のトラックが捕虜のいる小屋へ移動してきた。
そして運転席から一人の兵士が駆け下りてくる。目深に帽子を被っていて顔は見えない。
「何事だ⁈」
二人の見張りが問うと、
「緊急事態だ! 捕虜を移送する!」
「わ、わかった」
陣内の騒ぎで見張りは動転していた。
頭が回らないので正常な判断できず、言われるままに小屋の鍵を開けてしまう。
そしてドアを開けると、
「どりゃあああああ!」
久遠紅美が勝手に暴れ出す。
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