バイク旅
「予定通りバイクで後を追うから、運転は静香に任せた。ただ無理には接近するな、轍を追っていけばいい。とにかく気づかれないようにな、敵を見失っても大丈夫だ。俺が見つけてやる」
「分かった、アラシ」
俺は狩りだけしてたわけではなく、ミリタリーバイクを見つけて、密かにレストアしていたのだ。
軍用は頑丈なので、あまり壊れてはおらず直すのは簡単。
整備してるといろいろと記憶が蘇ってくるが、子供になった理由と、肝心要な部分が思い出せないのがもどかしい。
「アラシは何でもやれるんだな」
「たまたまだ。そうしなければ、生きてこれなかったようだ」
「……そうか」
整備を手伝いながら、静香はしきりに感心していた。
サイドバックに保存食を入れて走れるようにはなったが、ただ問題が一つ。
「……足がつかん。スロットルにも手が届かない。体が小さすぎて俺に運転は無理だな、直したのに転がせないのが哀しい」
「任せてくれ。訓練でオートバイの操縦はしたことがある」
こうして静香がライダーになり、俺はリュックを背負って後部座席に座る。
次の日、敵部隊はトラックに乗り込んで移動を開始した。
俺達もコッソリと後をつけ始める。まだ気づかれてはいない。
ただ、運転してる静香の様子が何かおかしかった。
「大丈夫か? 強く抱きつきすぎたか? それとも体が臭うか?」
「いや、そんなことはない。振り落とされないよう、しっかりと私の腰に抱きついてくれ。なぜか妙な気分なんだが、別に気持ち悪いわけではない……むしろ心地よい」
「そうか」
ほんのりと紅潮してるので、加速に酔っているのかもしれない。
風と一体になる感覚はスカッとするからな。これは運転した者でないと分からない……冬は寒いが。
スピードに注意しろ、とだけ言って後は黙る。
ゴチャゴチャ言うと返って事故るので、気分良く走らせよう。
……ただこれが勘違いだと気づくのは、まだ先のことだった。
やがて夕方になると敵部隊はトラックを止めて、夕飯を食い始める。
流石に夜間行軍まではしないらしい。理由は分かる。
道は悪いし道路灯が全くないからで、真っ暗闇の中で運転するのは超危険だ。
俺でも夜の移動はなるべく避ける。敵の奇襲があるからな。
敵は食い終わると焚き火の前で過ごし、テントやトラックの中に入って寝てしまう。
見張りはいない。
……なんて警戒心がないんだろ、軍人としては有り得ないが、近くに敵がいるとは思っていないのだろう。
ここにいるぞ! と思わずツッコミたくなってしまう。まあ無警戒なのは、コッチにとって都合がいいが。
「俺達も飯にしよう」
「ああ」
ただ焚き火をして煙を立てるようなことはしない。明かりは目立つし臭いで気づかれる可能性があるからだ。へっぽこ軍人が相手でも油断はしない。
そこでアルコールストーブを使う。そして風向きにも考慮する。
念には念を入れて、布を広げて仕切り板代わりにし火が見えないように肉を焼き、湯を沸かして飲む。
食ったら休むだけだ。旅は続くので体力は温存せねばならない。
「俺は少し見張っている。静香は寝てろ」
「……たぶん大丈夫だろ? 気づかれてないし、夜に移動することはないだろう。腕時計のアラームをセットしたから朝には鳴る。夜は寒いから……その、一緒に寝ないか?」
ああ、そう言うことか。風邪でもひいたら追うどころではない。
朝方は特に冷えるので暖を取るには有効だ。焚き火を起こせないからな。
「……わかった」
持ってきたサバイバルブランケットを一緒にかぶって座り、静香は俺を後ろから抱くような形になる。
不本意だが小さい子供だからしかたない。静香は安心したのか、すぐに眠ってしまう。
人肌は暖くて心地良く俺も眠くなってくる、やはり気を張って疲れていたのだろう。
静香の言うとおりにして正解だった。
……そう言えば…………誰かと同じことをしたような………………Zzzz。
ピピピピピピピ
時計のアラーム音で目が覚める。しかし静香はグッスリと寝たままだ……おいおい。
俺は起こさないように離れて様子を見てみた。敵に動きはなく向こうも寝たままのようだ。
……たるんでるなー。
「貴様らーそれでも軍人か⁈」と言いたくもなってくる。どうやら鬼軍曹はいないようだ。
俺のいた世界とはやはり違う。
それとも既に俺は死んでいて、あの世にきて子供になったのだろうか?
それは無いな、まだ五感があるし超能力が使えるのは現実である証拠だ。
いずれにせよ情報を手に入れてやる。
それから2時間ほど過ぎてから、静香と敵部隊は目を同時に覚ます。
「…………むにゃ、むにゃ、軍曹それは私のパンツだ! ……はっ⁈ しまった、寝過ごした! アラシ――――⁈」
「落ち着け静香、向こうさんも起きたばかりだ。朝飯を作ったからまずは食え」
「す…………すまない」
寝言がかなり恥ずかしかったようで、真っ赤になった静香はしばらくうつむいたままだった。
起きると言って寝過ごしたから、かなり気まずいのだろう。
穴があったら入りたいだろうが、生憎とそんな物はないし暇もない。
朝食を終えてトラックは走り出す。俺達もバイクでの追跡を再開する。
敵は昼食は取らずに進んだので、どうやら目的地まで強行するらしい。
速度を上げたので夜になる前に着きたかったのだろう。あと燃料や食料が残ってないのかもしれない。
やがて小さな集落が見えてくる。
「どうやら着いたようだな、あそこが敵の駐屯地だろう」
「ええ」
俺達は慎重に近づいて、見晴らしのよい丘で陣取ることにした。
井戸も近くにあってちょうどいい。水がなければ生きられんからな。
「他に使える物がないか探してくる」
「ああ、気をつけてな」
朝起きられなかったので、少しでも名誉挽回したいのだろう。
あと用足しだな……そこは察してやらんと。
俺としても静香が離れてくれるのは有り難かった。超能力を見せたくないからな。
双眼鏡で見る事もできるが、駐屯地全体を把握しづらいので、詳しく探知する必要があった。
誰もいないのを確認し、俺は精神を集中させる。
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。




