初めての体験2
釣り上げた静香の反応がいまいちだったので、俺の教え方が悪いのかもしれん。釣りは楽しいもんなんだが……。
ああそうか! 口で言うより食わせてやればいいのか。
焼き魚の美味しさを知ってもらうのが鮮血、じゃなくて先決だ。
何匹か釣ったところで止めて、俺は昼飯の準備をし、静香には火おこしと見学をしてもらう。
まずは、釣った魚の頭を叩いてしめ軽く洗った。
ナイフで鱗を落とし腹を裂いて内臓をとりだす。基本は獣と変わらないので、腐る前に素早く下処理をする。
「あうあうあう」
なぜか静香は魚のように口をパクパクさせていた。あー、そうかそうか早く食いたいんだな、待ってろ。
後は塩を満遍なく魚に塗って、串を刺して焼くだけ。
ほんとに塩がないと何もできんな、幸いなことに拾った物がたくさんある。
やがて香ばしい良い匂いがしてくる。焼き上がったところで静香に手渡した。
「まだ、熱いから気をつけてな。先に水を口に入れたほうがいい」
「……うあいぃぃ」
だんだん何を言ってるか分からなくなってきたが、肯いてるから大丈夫だろう。
静香は焼き魚を見て固まっていたが、
「はむ、はむ、はむ」
ガツガツと食べ始める。またもや半泣きしたのでこれも美味かったようだ。
まさかショックでヤケクソになってるわけではないよな?
食い終わって落ち着いたところで俺は言う。
「午後から俺は山に狩りに行ってくる。静香は釣りを続けてくれ、今日は訓練だから釣れなくても気にするな」
「…………えっ?」
なぜか静香は放心していて、話を聞いてなかったようだ。おいおい大丈夫か?
……待てよ、もしかすると部下のことを思い出していたのかもしれん。
まだ数日しか経ってないし、戦いに負けたショックから立ち直っていないのだろう。
これは俺が悪いな、か弱い女にもう少し気を使ってやるべきだった。
『隊長はデリカシーが足りません!』
誰かに叱られたのを思い出す。もう一度、優しく声をかけてから俺は山へむかった。
夕暮れ時に戻って見ると、静香はたくさんの魚を釣り上げていた。
何も考えず一心不乱で機械的に動いてるように見える。うーむ、目が魚のように死んでいた。
まあ初めての体験で混乱してるだけで、いずれは慣れる。
そうだ! 今日獲った物を見せて元気づけてやろう。
「大漁だな静香、偉い偉い。もう止めていいぞ」
「…………あいぃぃぃ」
「良くやった。今日はコレを食わせてやろう。美味いぞー」
俺は袋の中から、蛇を取り出す。
「ぎゃあああああああっ‼ やめてええええーーーーーーーーーーー‼」
静香は目を見開いて絶叫し、泡を吹いて卒倒した。なんでや?
意外と美味いもんなんだがな。
うーむ、女とのコミュニケーションは難しい。
「あはははははは……」
「…………」
そして次の日、俺と静香は干物と燻製作りに励んでいた。
静香は生気のない目で、乾いた笑いをしながら作業をしている。
ようやく死んだ獲物にも慣れてきたようだ。震えたり嫌がったりする様子はなく、もう大丈夫だろう。
まさかこのくらいで、頭がおかしくなったりしないよな?
仕事が一段落したところで、静香が不安そうに聞いてきた。
「……これからどうするの? ……アラシ」
「お前らが戦ってる敵、紅蓮姫団だっけか? 奴らがココに戻ってくるのを待つ。静香の捜索に来るはずだ。攻撃を受けてるから、二個小隊ほどがやってくると俺はみている」
「じゃあ、早く逃げなきゃ」
「いや隠れてやり過ごし、奴らの後をつけて陣地に行く。そして俺が忍び込んで情報を盗んでくるつもりだ。ああ、戦う気は一切ないぞ。二人しかいないしな。旅をするために食い物を集めてたんだ」
「……無茶じゃないのか? すぐに見つかるぞ」
静香は顔をしかめていた。確かに敵陣潜入ともなれば、命の危険をともなう。
しかしココから逃げるにしても、地理が分からなければ迷子になるだけなのだ。
なので最低でも地図は欲しい。GPSはないと聞いたので、なんとしても手に入れる必要があった。
余裕があれば他の備品も失敬するつもりだ。
「大丈夫だ、俺一人なら問題ない。静香は後方でサポートしてくれ」
「……分かった。どこまでも君についていこう。失敗しても恨みはしない」
静香は覚悟を決めたようで、ようやく軍人らしい一面が見えた。
――そして三日後、敵部隊がやってくる。
「来たな、思ったより数は少ないが。しかし敵が来る時間をどうやって知ったんだ? アラシ。助けてくれた時の攻撃手段も分からない」
「……秘密だ。今はまだな」
神聴耳と神里眼で敵を見つけ、ルートと到着時間を予想しただけだが、超能力に関しては静香に黙っていた。
他人を警戒してるのもあるが、俺の秘密を知ったことで、他の誰かに狙われる可能性もあったからだ。拷問されるとまずい。
現状では敵味方が分からないので、あらゆる情報は伏せておくべきだ。
状況次第で人は裏切るので誰も信用はしない。静香もしつこくは聞いてこなかった。
今は来た奴らを遠くから監視中、機甲羽衣の索敵範囲外に俺達はいた。
単眼鏡で見て見ると、
「たった12人か、30人は来ると思っていたがな。物資も少ししか持ってきてないし、これは最初から捜す気はないな、もう静香が逃げ去ったと思ってる」
「そうだな、普通の兵士なら発見された場所に留まったりはしない」
「まあその裏をかいてるわけだが」
実際、敵部隊は適当に動きまわるだけで、本気で捜索してるようにはみえなかった。
機甲羽衣に乗りもせずダベっていて、やる気のなさがうかがえる。
――そして二日後。敵部隊は撤収作業に入っていた。
明日の朝には発つだろう。俺達は追いかける準備をする。
大晦日は休みます。よいお年をお迎えください。




