初めての体験1
静香と名乗った女から情報を聞いて、俺は困惑した。
国がなくて軍隊だけが存在するなど絶対にありえない。俺は嫌なことを思い出す。
帝国では思想教育が当たり前で、国家への忠誠心を子供の頃から教え込み、敵対心を植えつける。
連合にしても帝国を悪にして、正義の戦いだと言い含め、国民に生活の不便や増税を我慢させている。
理由をこじつけて戦争をし、一部の人間だけが得をしているのが現実の国家だ。
人が集まって国になって、人口が増えると奪い合いになり、侵略と防衛に作られるのが軍隊なのだ。
蟻の勢力争いと何ら変わりはない。
国家がなければ兵士を養うことはできず、国を知らないと言った静香を俺は疑ったが、嘘を言ってるようには見えなかった。
あるいは洗脳されて何も教えられてないのかもしれない。謎は深まった。
これはこの世界を調べてみないとな。さて静香をどうするか?
このまま解放してやってもいいが、敵の支配地域から逃げるのは無理だし、なんの当てもないようだった。
放り出す=見殺しだ。それは気が引けるし、助けてやった意味もなくなる。
だったら俺の部下にしよう。情報を集めるにしろ一人じゃ手が足りない。
その代わり命を守ってやれば文句はないだろう。
俺の提案に静香は途惑っていたが、腹を決めたようだ。
「君に従おう。何をすればいい」
「それはもちろん……サバイバルの基本で水と食料集めだが、野外生存訓練をやったことがないのか?」
「野宿訓練をしたことはあるが、テントはあったし水と食料は配給されたし、寝ずの番をすることもなかった」
「……それは、ただのキャンプだな。まあいい俺が教えてやる。作業を繰り返すうちに、嫌でも覚えるだろう。撤退した奴らが戻ってくる間に、できる限り食い物を集めるぞ」
「なるほど、分かった」
静香には廃墟から缶詰めやらを集めさせて、川から水を汲ませた。
その間に俺は森に入って兎や鳥を狩って回った。神鉄砲なら外すことはないし、念力の使い方を思い出すにはちょうどいい。
それでも大型の獣は危険なので避けた。まだ威力が弱いので、一発で仕留める自信がなかったからだ。
仕留めた獲物を紐に繋いで引っ張っていく。いつものように念力で浮かせて。
川で水汲みをしていた静香に声をかけると、
「ひぃいいいいいい!」
たくさんの獲物を見て驚いていた。初めて見たようだから無理もない。
しかし生きるためにも屍には慣れてもらわんとな……そう言えばアイツらも最初は怖がって……だれだっけ? うーん、思い出せん。
まあ軍人なら大丈夫だろう。メンタル訓練は受けたと静香に聞いてたし、手本を見せてから手伝ってもらおう。
さあ、楽しい解体ショーの時間だ。狩りに出る前に準備はしておいた。
血だるまになるので、まずは防水エプロンの代わりに雨具を着てビニール手袋をはめる。
テーブルの上に獲物を乗せて、針のついた放血用チューブを刺して血を抜き、下のバケツに入れる。
血が出にくいので念力も使っている。静香は気づいた様子もなく、それどころではなかった。
「あわわわわわ!」
大量の血を見て大騒ぎしていた。まあ声が出せるうちはまだ大丈夫だ、問題ない。
そしてナイフで毛皮を剥いで内臓を慎重に取り出す。胃や腸を傷つけるとヤバいので注意が必要だ。
それからロープを括りつけて川で洗い流し、獲物の数だけ放り込んだ。
ああ最初の猪はとっくに腹の中だ。
最後は部位分けと保存。ビニール袋に入れた肉を別のバケツに入れて、それを水を張ったタライにいれた。冷蔵庫代わりで日が当たらない場所に置けばかなり持つ。
あとで干し肉と燻製もつくらんとな。さて静香の様子は、
「逃げちゃだめ、逃げちゃだめよ……やらないと……出来る、私ならできる……」
自分に言い聞かせるように小さな声でつぶやき、真っ青な顔で眉をひそめながらも、震える手でナイフを動かしていた。
初めてなのにやるじゃないか、俺は感心する。
夕方になって片付けと道具の殺菌を行い、今日の作業は終了。
お疲れ様でしたー!
静香は慣れない仕事でヘロヘロになったので、俺が飯を作ることにする。
まあ肉料理しかないから野草を少し入れよう。あとは不味いレーション。
ただ味見して見るとまあまあだった。
キワモノ料理には自信があるし、ココは自然環境が良いのだろう。これなら安心して食える。
俺は焼いた肉をアルミ皿に山盛りにして静香に手渡した。
「…………」
しばらく固まっていたが、ナイフとフォークを使って食べ始めた。
空腹には勝てんからな、半泣きしてたのでよっぽど美味かったのだろう。
初めて自分で精肉したから感動してるのかもしれない。命の恵みに感謝してるようだ。
喜んでくれて俺も嬉しい。教えた甲斐もある。
よしっ! 明日は魚釣りだ。カルシウムは必要で焼き魚と干物を作ろう。
ああそうだ! アレもとってこよう。俺は楽しくてワクワクしてきた。
次の日は、静香に釣りを教えることにした。仕掛けはすでに作ってある。
釣り針などはサバイバルキットの中にあったが、竿はないので適当に棒でつくった。
エサのミミズをとって缶にいれ、川へとやってくる。魚がいるのは確認済み。
これも俺が手本を見せることにする。
針にエサをつけたら川に放り込み、あとは魚がかかるのを待つだけ。
すると浮子がピクピクと動く。
「おっ、早いな。警戒心がないのかも」
焦らずに待ってから、浮子が沈みこんだ瞬間に竿を引いて合わせた。魚は上手くかかって暴れ回る。
無理には引っ張らず糸をゆるめるように竿を動かし、魚が弱ったところで釣り上げた。
「まあまあだな、身があるから食い出はありそうだ」
俺は釣り針を外して、バケツに魚を放り込んだ。
そして竿を静香に手渡す。
「こんな感じだ。そんなに難しくないから、やってみい。なんでも慣れだ」
「うう、冷たくてヌルヌルしてる。目も恐いよー」
静香は魚を目にして嫌そうな顔をしていた。
出血は少ないから獣よりはマシだと思うんだがな、臭さはどうしようもないが。
「これも生きるためには必要な糧だ。頑張って釣るんだぞ」
「……はい」
震えながら静香は竿を受け取る。まさか恐いわけじゃないよな? 仮にも軍人だし。
そしてミミズを手にとるが、
「ひっ、ひぃっ……いやっ、うねうねしてる……やだやだやだ!」
すぐに手放してしまった。
やっぱり気持ち悪いらしいが、餌つけ程度で騒いでいたら、この先やってはいけない。
とはいえ初めての事だし、少しだけフォローしてやる。
「ほれ、ビニール手袋だ。これをつけて我慢しろ」
「ううっ」
静香はべそをかいていた。それでも何とか針にエサをつけて釣りを始める。
最初は合わせに失敗するものの、やがて魚がかかった。
「あわてずに、ゆっくりな」
「ふぁい……」
そして大物を釣り上げた。やるじゃないか。
ただ釣り針を外すのに手間取り、魚が暴れたので静香は下に落としてしまう。
おっかなびっくりでちゃんと掴んでなかったようだが、いちいち責めたりはしない。
「あっ!」
「大丈夫だ」
川に逃げられそうになったので、俺は念力を使って魚を引き寄せる。
真っ青な顔の静香が魚を拾ってバケツにいれた。
「初ミッション成功、おめでとう。褒めてやろう」
「しくしく……」
次は釣った魚のさばき方だな、教えることはまだまだある。
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うーんやはり、小生は重い展開を書けないようです。




