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5 教団 前編


 昼食の席にて、一向に食が進まない私にレイエルが視線を投げかけてきた。


「……ですから、早く食べてくださらないと片付かないのですが」

「あ、ごめん、だよね。すぐに食べるから」


 と言いつつもやはり手が止まる私。見かねたレイエルはため息をつきながら向かいの椅子に座る。


「関係ないと言い放っても、気になって仕方ないんじゃないですか? あの王国のことが」

「……うん、やっぱり神殿の皆がちょっと心配で」


 私達がいた王国は即座に滅亡したわけではなく、一年ほどかけて徐々に衰退し荒廃していった。その間に国民の多くは周辺国に逃れていったんだけど、中にはギリギリまで粘っていた人達もいる。


 私を育ててくれた神殿の神官達がそうだ。彼らは何かの神に王国を救ってくれるように祈っていて、脱出したのは王都に魔獣の群れが押し寄せる寸前だったみたい。次の行き先を確保している時間もなかったことから、今は隣国の外れで集団生活を送っているのだとか。

 様子を見にいってくれたテルミラお母さんによれば、国の外れだけに魔獣の出没頻度も高くて日々の暮らしも大変という話だ。

 どういうわけか、神官達の魔力も揃って低下してしまったらしいし。


 侍女達を始め、神殿の皆は私にとても優しく、純粋に何かの神を信じているいい人達ばかりだった。そんな皆が苦労しているかと思うと……。


 私の話を聞いていたレイエルは椅子から立ち上がると、リュックに手近な食料などを詰め出す。そのまま私に向けて。


「答はもう出ているじゃないですか。行ってください、ルーシャ様。僕もそうやってあなたに命を救われたのですから」

「レイエル……。ありがとう、私、神官の皆を助けにいくよ。あ、確か今日お母さんが帰ってくる予定だっけ。うまく言っておいて」


 決断するなりすぐに私は昼食を口に詰めこみ、レイエルからリュックを受け取った。

 そして魔力で宙に浮き上がると開け放った扉から外へと飛び出す。


 私達がいた王国は遥か遠くにあり、テルミラお母さんのように高速で飛行できない私は優に片道半日はかかった。

 どうやって助ければいいかなんて分からないけど、まず行動あるのみだ!



 ――翌日、私が帰宅すると、出迎えに現れたレイエルとテルミラお母さんは絶句した。

 お母さんが私の背後に視線をやり、何とか声を絞り出す。


「……ルーシャ、それ、いったい何人いるの?」

「えーと……、百五十四人だって」


 何も考えずに神官達の所に駆けつけたはいいものの、その場でよい解決策が思い浮かぶはずもなく……。

 ……とりあえず全員を連れ帰ってきてしまった。


 テルミラお母さんは一度頭を抱えた後に目を見開いて叫んだ。


「連れ帰ってきてどうするつもりなの! あんたのそれは病気か! 気になった人間はことごとく拾ってきてしまう病気か! 子犬王子の次は迷える信徒百五十四人!」

「ちゃんと私が面倒見るから!」

「無理でしょ! 何か司教っぽいおじいちゃんまでいるわよ!」


 た、確かに、この老若男女バラエティ豊かな大人数を二歳児が一人で面倒見るというのは無理があるかも……。

 私は助けを求めるように、昨日背中を押して送り出してくれたレイエルに視線を向けた。が、彼はふいっと顔を背ける。


「……いえ、僕も、まさか全員を連れ帰ってくるとは」


 くっ、裏切ったな。


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