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34 [キア]悪魔


 聖獣達を私の勢力圏に迎えて一週間が過ぎた。

 あれからさらに二度、ルーシャと一緒に魔獣の群れを聖獣に変えた。現在、聖獣軍団は五千頭を超えるまでになっている。後はここで人との生活や連携した戦い方を覚えてもらうのだが、それも順調だった。


 私の目の前、駐屯地にしている草原では、聖獣達が思い思いの姿でくつろぐ光景が広がっていた。人を背中に乗せて駆け回ったり、人と仲良く鍋を突ついたり。


 ……本当に、想定以上にすんなり行ったな。普通の動物でももうちょっと大変だぞ。ルーシャの〈ヒール〉、治癒以外の効能もあるんじゃないか。


(まったく、驚くほど順調よね。意気込んでいたのに肩すかしを食らった気分だわ)


 私と共に駐屯地を眺めていたネネリーが同意を示す。それにフォルスも続いた。


(あの子のおかげというのも大きいよ。すごく頑張ってくれている)

「その通りだけど、あいつは下心があるからな……」


 私達の視線の先では、大型犬サイズのシマリスが悠々と歩いていた。最初に接触した群れでボスをやっていたあいつだ。戦士達との実戦訓練から戻ってきた聖獣の一団に近付いていく。


(皆さん、お疲れさまでした。話は聞いてますよ、大活躍だったそうじゃないですか! さすがです! ささ、こちらに鍋の支度ができていますのでゆっくりしてください。クリームシチューもありますよ)


 ……調子いいな、奴はああやって群れのボスになったらしい。さらに、ここでも成果を出してルーシャの傍に置いてもらおうと目論んでいる。あざといシマリスめ。

 とにかくルーシャに惚れこんだようで、私が名前を付けてやると言っても、(ルーシャ様に付けてもらうので結構です)と返してきた。ふざけるな、あの野郎。


 色々と思い出してイライラが募ってきた私に対し、フォルスが前脚で扇ぐような仕草を見せる。


(キア様、落ち着いて。動機がどうであれ、助かっているのは事実だから……)

「むぅ、そうだな。確かにあいつのおかげで聖獣達も気持ちよく過ごせている」


 フォルスは熱くなる私をいつもこうやっていさめてくれる、とても冷静な狼だ。もう私にとって欠かすことのできない側近になりつつあった。

 ちなみに、欠かすことができないのはネネリーの方も同様で、こちらは行動力があって的確な助言をくれたりする。その判断は私より正しい場合が多いかもしれない。

 と感心して目を向けると、ネネリーはどこか別の方角を見つめていた。


(オーゼスがこっちに来る。あれ、後ろにテルミラを乗せてない? それに一緒にいるのはヨルンシスとバロノーザかしら。ずいぶんと急いでいるみたいだけど)


 その言葉通り、三人が馬を飛ばしてこちらに駆けてくる。

 ヨルンシス達は勢力圏が隣接していることもあって頻繁に遊びにくるのだが、今日はいつもと様子が違って見えた。

 私達の前まで来るとまずオーゼスが馬から飛び下りる。


「緊急事態だ、キア」

「何だよ? それより、後ろに積んでいるテルミラは何だ。まさか嫁にするのか?」

「彼女はヨルンシスの所で酔い潰れていたから連れてきた。いざという時のための備えだ。いいから話を聞け」


 そう告げるとヨルンシスに引き継いだ。


「ナザネシア王国に放っている密偵達から急ぎの報せが届きました」


 ナザネシア王国はエルフィリス国の北に位置する隣国になる。互いに盛んに交易を行うなど良好な関係を築いているが、ヨルンシスは国内に何人ものスパイを潜伏させていた。彼女に言わせれば、どれほどの友好国だろうがそれが外交の基本らしい。


 私は「だからどういう話だよ」と国の情報管理担当に続きを促した。


「王国の第二都市、及び、その南に位置する四つの町が相次いで消滅したのです」

「消滅って……」

「いずれも一日と経たずに壊滅しているので、そう表現するのが妥当なんですよ」


 そこまで話すとヨルンシスはバロノーザに視線を送る。彼は取り出した地図を広げて、私に見るように言ってきた。


「バツ印が攻撃を受けた町で、横にその日付が書いてある」

「…………、魔獣じゃありえない侵攻速度だ。ここより南の町にはバツが付いてないが、無事なのか?」


 そう尋ねた後に改めて各日付を見て、答を聞くより先に予想がついた。案の定、ヨルンシスは表情を曇らせる。


「報告が届くのを待たずにこちらに向かったので、おそらく今頃は……」

「……で、これらの町を壊滅させた奴の正体は? それは何かしら報告を受けているんだろ?」


 今度はヨルンシスだけじゃなく、オーゼスとバロノーザも暗い表情で黙った。

 なかなか口を開かないので私の方から切り出す。


「黒い悪魔、だな?」


 沈黙で静かだった空気がさらに凍りつくのが分かった。

 ネネリーの背に乗った私はオーゼスに視線を飛ばす。


「このペースだと今日にもエルフィリスに入るな。今すぐ迎撃に向かう。牙の団の全員に召集をかけてくれ」

「……そう言うだろうと思った。すぐに出るなら集められるのはせいぜい半数だぞ」

「充分だ。オーゼスはフォルスの背に乗れ」


 私達の会話に、ようやくヨルンシスとバロノーザが口を開いた。


「キア、待ってください! 急いでここに来たのはあなたを突撃させるためではありません!」

「ここにいる聖獣達の力を借りれば国境近辺の民を全員避難させられる! そっちを優先すべきだ!」


 二人して何とか私を思い止まらせようと必死の口調だった。

 これに対して私は草原にいる一匹の聖獣を指差す。


「民の避難は二人に任せる。あのあざといシマリスを頼れ。あいつは口がよく回るから聖獣達を上手く指揮してくれるだろう」

「あざといシマリス……? とにかく一旦冷静になってください! 黒い悪魔がどれほどの力を持っているか未知数なのですよ!」


 なお説得を試みるヨルンシスを私は手を出して制した。


「どれほど強かろうが関係ない。私は、この日のために呼ばれたんだぞ」






キア編、一気にいきます。

また月末で日数がありません。

ところで、短編を書きました。

【妹が急に「私は異世界からの転生者です」とサバの味噌煮定食を作ってきた 】

この下にリンクを作りましたので、よろしればお読みください。


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