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33 波乗


 私同様にシマリスの思念を拾ったキアが背中の槍をスッと抜いた。


「邪悪なシマリスめ……、成敗してくれる」

「魔獣は皆あんな感じでしょ、元から討伐する予定だし。……ん? キアがやってくれるの?」


 私の問いに、彼女は分かりやすく胸を叩いて請け負った。


「任せろ! ……実はオーゼスから、ルーシャはまだ幼児なんだからあまり負担をかけすぎないようにとこっぴどく言われた」


 私のこと、気遣ってくれているんだ。いいお兄さんがいていいな……。


 槍を構えたキアは抑えていた魔力を一気に解き放つ。これによって魔獣の群れも上空にいる私達の存在に気付いた。ボスのシマリスが険しい表情でこちらを睨む。


(おのれ人間! これでも食らうがいいです!〈ストーンアタック〉!)


 魔法っぽく言ったが、実際には頬袋から取り出した石を投げてきただけだった。それも私達がいる高度には届かず、シマリスは乗っている牛の上で地団太を踏む。


「頬っぺに入れていたのは凶器か。どこまでも邪悪なシマリスだ。次は私の番だぞ。秘技〈地獄突き〉を見せてやろう」


 とキアは槍を握る手に力を込めた。

 ……いったいどんな技なんだろう。名前から察するにこれも魔法じゃなく、セレノアさんみたいに高速で動き回って槍で突きまくる感じかな。


「とくと味わえ!〈地獄突き〉!」


 キアが勢いよく槍を突き出すのと同時に、魔獣の群れがいる大地に変化が。全個体がいる広範囲に渡って金属性の杭が無数に生え、ザザザザザザン! と魔獣達をことごとく貫いた。


 う、本当に地獄みたいな光景……。まるで針地獄だ……。

 というより、これは地霊魔法だよね。槍は使ってないじゃない。

 規模から推定するに、テルミラお母さんの〈トルネード〉に匹敵する上位魔法。やっぱりキアの力はこの国の戦士達の中でも突出している。


 眼下では千頭を超える魔獣が杭に穿たれ、一頭残らず息絶えているのは明らかだった。


「〈地獄突き〉は〈グラウンドニードル〉をめちゃ拡張させた私のオリジナル魔法だ。槍はポーズだけで実は全く必要ない。さ、ここからはルーシャの出番だぞ」


 そう解説しながらキアは地上の針地獄を引っこめる。


「もう準備はできてるよ。じゃあ行ってくる」


 彼女の攻撃の合間に私の方も魔力を高めておいた。力尽きた群れの上を旋回しながら〈ヒールワイド〉を発動。

 聖霊の光が注がれた場所から順に獣達が起き上がる。もちろんいずれも人間への憎悪が完全に取り払われ、聖獣に生まれ変わって、だ。


「一気にこの数を治療するのはさすがにこたえる……。キア、どうしたの?」


 仕事を終えて帰還した私の顔を、彼女はじーっと凝視してきていた。


「……ルーシャが蘇生させるところ、私は初めて見たからな」

「そういえばそうだね」

「改めてすごいと思った。人でこれをやるんだから、誰もが信者になるはずだよ。やっぱりルーシャは逸材中の逸材だな」

「いやいや、キアだって魔法一つで千頭以上を全滅させたじゃない」

「私は十七歳だぞ。そっちはまだ二歳だろうが」


 年齢ってそんなに重要だろうか。長く生きていればそれだけ修練できるし、そりゃ重要か。でも、私はここ最近修練を積んでないんだよね。日々の仕事がそれと言えなくもないけど、積極的に魔力を錬ったり一番頑張っていたのはゼロ歳児の頃だったかな。

 特に不便も感じないから魔法も二つから増やしてないし……、そろそろ何か自分を高めることをした方が……。


 そんな思いが芽生えはじめた直後、眼下で魔獣達、いや、聖獣達が動き回っているのに気付く。

 まず熊や牛などの大型が一箇所に集まり、その上に狼や兎などの中型が乗っていく。このもこもこした感じはどこかで見た記憶が、と思っているうちに私達の所に届きそうなほど巨大な獣の塔が完成。

 先端に登ったのはあのボスのシマリスだった。後脚で立ち上がると、私に向かって大きく前脚を広げる。


(あなたのことが大好きです!)


 すっかり邪気が消えた魔力思念で力いっぱいそう訴えてきた。さらに、潤んだ瞳で求めるように前脚をバタバタさせる。

 う、可愛いしけなげだし、ちょっとくらい応えてあげるか……。


 目の前まで降下した私に対し、シマリスは突然抱きついてきた。


(皆さん! 今です!)


 しまった! これは罠だ! あざといシマリスめ! わわ、引きずりこまれる……!

 獣の塔が崩れ、私は聖獣の群れの中にダイブすることになった。

 次から次へと体をすり寄せてくる聖獣達によって、まるで波乗りでもするかのように私はもふもふの海を漂う。

 空を見上げるとキアがこちらに手を振っていた。


「楽しんでいるとこ悪いけど、とりあえず駐屯地に皆で移動するように伝えてくれ」

「ああ、うん、分かった……」





次話から1巻の佳境に入ります。


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