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31 鍋会


 やがて鍋が炊き上がっていい匂いを醸しはじめると、誘われるように住民達も続々と集まってきた。目移りしながらもそれぞれが好みの鍋の前に並ぶ。

 聖獣達もすでに大きなお椀によそってもらって食べはじめている。


(私はやっぱり豚団子と大根の塩スープ鍋が外せませんね。美味しいです!)


 メイリムが早々に器を空にする隣では、ジェシカがライスとセットで食事中。


(私はすきやきだな。こってりしていて米にも合う)


 このように聖獣達にも各自好みがあった。とりわけ人気の鍋をキアにも食べてもらうことに。


「うま。これ、何鍋?」


 箸が止まらない彼女に私は笑みが抑えられなかった。


「ふふふふふ、味噌もつ鍋だよ。もつ鍋は聖獣達も大好きなんだ」


 本来、植物を食べない普通の肉食動物もミネラルなどは獲物の内臓から摂取する。そのせいかどうかは定かではないけど、もつ料理は聖獣達にも大人気だった。テルミラお母さんが好きな鶏肝煮込みとかもね。

 そのお母さんはといえば、本性が露呈したのでもう諦めたようにぐいぐいお酒を飲んでいた。そもそも鍋を前にお酒を我慢するなんてあの人には不可能。案の定、隣のオーゼスさんに絡んでしまっているけど、あちらは平然とした顔をしている。


「お兄さん、すごい人間ができているよね……。そうそう、教団用に作った鍋マニュアルがあるから後でキアにもあげるよ。食材とスープの組み合わせは無限大だからね」

「マジか、それは助かる。醤油とか味噌とか私のとこで作れないか試してみるよ」

「国産の醤油に味噌……、ロマンだ」

「よし、聖獣達の飯にもあてがついたし、まずは千頭から始めよう。それくらいなら数日で受け入れ可能だから、準備が整ったらまた来る」


 鍋を食べ終えたキアはそう言って立ち上がった。

 これに呼応するようにオーゼスさんも食事を終える。すると、テルミラお母さんが。


「もっと一緒に飲もうよー、オーゼスー」

「今日は楽しかった。あまり飲みすぎるなよ、テルミラ」


 彼は絡んでくる酔っぱらいも卒なくさばいた。さすがだ。

 そして、聖獣達の中からも二頭の大狼がすっくと立つ。こちらに歩いてくると私達の目の前で行儀よくおすわりをした。


 ……実はキア、しっかり二頭のウルムドの心も掴んでいたんだよね。

 この子達はネネリーとフォルスといって、ジェシカ配下の中でも実力のある大狼達だった。


(ルーシャ様、お世話になっておきながら勝手なことをしてごめんね)

(俺達はキア様を手伝うよ。あっちで聖獣軍団の結成に尽力する)


 寂しいけど私のことは気にせず頑張って。応援しているから。

 他の聖獣達も周りに集まりはじめ、その中から駆け出したメイリムが二頭にもふっと抱きついた。


(今日までいっぱい訓練に付き合ってくれてありがとうございます! 次に会う時までに進化していますから!)


 そっか、メイリムの訓練に一番付き合ってくれたのはネネリーとフォルスだったね。面倒見がよくて優しくて、これは惜しい二頭を連れていかれたな。

 私の魔力思念にジェシカが頷いて同意を示す。


(まったく実に惜しいよ。ネネリーもフォルスも間もなくウルゼノスに進化するところだったんだから。メイリムより先に進化するのは間違いない)


 もたらされた情報に、私は目を細めてキアの顔をちらり。


「いやいや、私は選んでないぞ! たまたまだ!」

「……まあ、キアにそんな計算高いことはできないだろうけど。とにかく二頭を大事にしてあげてね」


 そうしていよいよ別れの時、キアはネネリーの背に、オーゼスさんはフォルスの背に、それぞれ乗って出発の準備が整った。

 ところが、ここで異変が。新しい旅路へと駆け出そうとしていた二頭が顔を見合わせる。


(……私、なんか体がムズムズするわ)

(俺もだよ。これはまさか……)


 答を出すより先にネネリーとフォルスの全身は光を放ちはじめた。


 おーっと、今回も言った傍からのパターンだ。早くもメイリムが涙目に……。

 やはり見る見る大きくなっていく二頭は、数秒後には象サイズの大狼ウルゼノスに進化していた。

 おめでたい事態なのにネネリーとフォルスは揃って気まずそうに顔を伏せる。


「キューン! キューン!」


 先ほどは二頭に大層感謝していたメイリムは、泣きながら思念にならない抗議の声を上げる。

 私は大兎の毛を撫でて慰めつつ、大狼の上の二人に視線をやる。


「うちの兎の胸が張り裂けそうだからもう行って……」


 申し訳なさげな表情を作るキアだが、喜びは隠しきれていなかった。ほくほくした様子で兄に向かって。


「なんか悪いことをしてしまったな。ああ言ってくれてるし行こうか、オーゼス」

「キア、半笑いで失礼だぞ。ルーシャ様、本当に色々とすまなかった」


 走り去るキア達を見送りながら、大変な一日だったなとしみじみ思った。

 いいや、大変なのはこれからだ。私も教団も、このエルフィリス国に対して大きな責任を負うことになった。まだ二歳なのにどうしてこんな状況に……。





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