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29 同郷


 どうやらテルミラお母さんは定住先にたまたまこのエルフィリス国を選んだわけじゃないようだ。国の上層部に仕事のつてがあり、気になる男性もいたから。ちゃっかり自分の利を考えているあたりがらしいと思う……。


 気付けばテルミラお母さんが危険な手つきで人参の皮を剥こうとしていたので、魔力を操ってその手から包丁を取り上げた。

 拠点勤務のスタッフにも手伝ってもらって調理を進めつつ、キアから話を聞くことにした。


「肉じゃがとクリームシチュー、楽しみだなー。で何の話だっけ?」

「自分が転生者だって話だよ……」


 キアによれば、前世の彼女は先天性の病気で生まれてからほとんど病院暮らしだったそうだ。そして、わずか十歳で世を去ることになった。

 肉体を離れた魂はこの世界に召喚され、北方民族連合総長の孫娘として新たな生を授かる。次期総長として民族と国を守る宿命と共に。幸いにもキアは一族の強靭な体と転生者の高い魔力に恵まれたので、周囲の期待に応えるべくそれらを幼少よりさらに鍛え上げてきた。


「私みたいな子を一生懸命育ててくれた前の両親にはすごく感謝してるし、それと同じくらい今の丈夫な体を与えてくれた一族にも感謝してる。だから何が何でも託されたものを守りたいんだ」


 キアはそう笑って話をしめくくった。


 ……思っていたよりずっとまともで純粋な子だった。ここまで一途なのは、子供時代を続けて経験しているからなのかな。

 こんな話を聞かされると急に邪険にできなくなってしまった……。とにかく美味しい料理を食べさせてあげよう。同い年ということで親近感も湧くし(あっちは前世十歳+今世十七歳)。


 なお、初めての転生者同士の語らいということで、新たな事実を知ることもできた。転生者の魂はおそらく全て日本から召喚されているとのこと。


「日本には異界の門でも開いているんじゃないかな。おかげでこっちで会っても割と話が通じて楽だけど。そういえば今まで私より魔力の質が高い転生者は会ったことなかったのに、ルーシャ、ほんとにすごいな」


 またけらけらと笑うキアに、私は無意識にため息をついていた。


「やっぱり、同じ転生者から見ても私の魔力はおかしいのか……」

「そりゃ普通は〈ヒール〉で手足は生えないし。あとあの現生者の魔力もかなりおかしいけど」


 私達の視線の先、火にかけた鍋の前では、セレノアさんがフォークに刺したジャガイモに齧りついている。


「もう煮えてる。火霊も今が食べ頃だって」


 え、火霊も……? 彼女が普通じゃないのは確かみたいだ。


 とりあえず火霊のお墨付きもいただけたということで、皆でご飯にすることになった。ここもレイエルに手伝ってもらって肉じゃがとクリームシチューをお皿によそっていく。

 誰よりも早く二つの料理を一口ずつ食べたキアの顔が輝いた。


「どっちもうま! 白米が欲しい!」

「そう言うと思って炊いてあるよ」


 お皿に盛ったライスを魔力操作でキアの前に運んだ。

 見ていると彼女は米にシチューをかけて食べている。いかにも日本の家庭の子だな、とちょっと懐かしさがこみ上げてきた。


 他の人達にも今回の料理は好評のようだった。肉じゃがを食べたテルミラお母さんがすかさずお酒に手を……、伸ばそうとして慌てて引っこめる。隣に座るオーゼスさんをちらりと見てため息をついた。

 ふむ、お酒で失敗してなるものか、という強固な意志を感じる。


 一方で、トレイシーさんとミーティアさんは教団の調理スタッフ達と真剣な表情で話し合っていた。やがて二人は私の所へ。


「肉じゃがも美味しかったのですが、それよりもクリームシチューが衝撃でした……」

「まさか小麦粉であんなとろみのついたスープができるなんて……。ぜひレシピに起こしてください。炊き出しで作れば大人気間違いなしです!」


 言われてみればこの世界にはない感じの料理だったね。これはカレーライスを作ったらさらなる衝撃を受けるかも。子供達も絶対好きだろうし、ちょっと頑張って市販の甘口ルウを再現してみようかな。


 そうして食事も一通り済んだ頃、キアが私に向かって言ってきた。


「お腹もふくれたし、そろそろ行こうか」

「ん、行くってどこへ?」

「ルーシャの町に決まってるだろ。聖獣を見せてくれ」

「えー……、ついさっき知り合ったばかりなのにぐいぐい来すぎ……」

「時間なんて関係ない。手料理も食べたんだから私達はもう親友だ」


 そっちが作ってほしいとせがんできたんじゃない……。

 ヨルンシスさんが言っていた通り、この子は結構面倒だった。ここはきっちり断るべきだね。


「元日本人なら、親しき仲にも礼儀ありって言葉を知っているでしょ。もう帰って」

「十歳で死んだから知らない。フレンドリーな大狼達に会いたいんだよ。なあ、いいだろ?」


 私を持ち上げたキアは遠慮することなくさらにせがんでくる。

 とその手からテルミラお母さんが私を奪った。


「どうせ帰るんだし、ついでに連れていってあげればいいじゃない」

(これはオーゼスを家に招くチャンス!)


 ……魔力からはっきりと思念が伝わってきた。それ、子供に聞かれちゃ駄目なやつだよ。

 私は目を細めてテルミラお母さんの顔を見つめる。


「じゃあ、物(主に酒の空瓶)で溢れたお母さんの部屋も彼にしっかり見てもらわなきゃね」

「う……、風霊魔法でまとめて外に吹っ飛ばすわ」






……今月は今日まででした。危ない危ない。

引き続き、月四話投稿できるように頑張ります。

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― 新着の感想 ―
 軽快な、読みやすい物語ですね。  主人公が読心できるのは大きなアドバンテージだけど、あまり人に知られない方が良いかも。
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