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 キアに抱えられたまま私は思考を巡らせて事態の理解に努める。

 あ、キアと呼び捨てにしてもいいのかな。本人がいいと言っているし、まあいいか。いや、それどころじゃない。どんなに頑張っても全然理解できない。

 すると、ため息をつきながらヨルンシスさんもこちらへやって来る。バロノーザさんも一緒だ。


「私とキア、バロノーザは皆早くから家を継ぎ、この会議では幼なじみのような関係なのです。ルーシャ様、よろしければ私とバロノーザも気楽にお呼びください」

「……そうですか、ではヨルンシスさんと。私のこともご自由にどうぞ」


 それより、やっぱり状況が飲みこめない上にキアが全く離してくれないんだけど……。

 困惑する私の視線を受けてバロノーザさんが首を横に振る。


「昔からキアは自分勝手な奴でな。しかもありえないほど強いから、日頃から鍛えている俺でも手に負えん……。ルーシャさんもこれから苦労すると思うぞ」


 彼がそう言うと直後にキアがピクリと反応。


「おい、バロノーザ、何を気安くルーシャさんと呼んでいるんだ。殺されたいのか?」

「この筋肉め、お前はルーシャ様と呼べ。斬られたいのか?」


 セレノアさんも抜いた剣をバロノーザさんの首に押し当てている。彼は一瞬で会議の時以上に青くなった。


「すみませんでした……。ルーシャ様、お許しを……」

「呼び方なんて何でもいいからやめてあげて!」


 これは面倒な人達と知り合いになってしまったかも……。

 私の考えを読んだようにヨルンシスさんが頷く。


「ええ、すごく面倒ですよ。ですが望んだのはルーシャさんですからね。そうそう、あなた方が住んでいる町は差し上げます。教団の聖地にでもしてください。……はぁ、同行者はテルミラだと思っていたから想定外に疲れました」

「テルミラお母さんをご存じなんですか?」

「あなた方がこの国に定住する以前からの知り合いです。彼女は報酬さえ払えば力を貸してくれますからね。ああ、私もバロノーザもテルミラも、それにあなたもキアも魂の年齢では同い年なので、敬語など使わず話しやすいようにどうぞ」

「え、じゃあ全員、二十七歳?」

「そうです。では、キアのことはよろしくお願いしますね」


 言い残すとヨルンシスさんはバロノーザさんと連れ立ってそそくさと会議の部屋を出ていった。

 これ以上の面倒事は御免です、と言わんばかりに押しつけられた……。私だってもう帰ってゆっくりしたいんだけど、……ちょっと無理そうだな。


 まだキアに抱きつかれたままの私を、セレノアさんが後ろからぐいーっと引っ張る。


「お前、いい加減ルーシャ様から離れろ」

「嫌だ、私はずっとこの時を待っていたんだぞ。ちょっとくらい貸してくれてもいいだろ」


 そんなことでケンカしないで、と言った結果、私は両側から二人にそれぞれ右手左手を持たれることになった。

 ……これは、捕獲された宇宙人の図、あるいは七五三か。そういえば私、もうすぐ三歳だ。

 キアが私を見つめながら嬉しそうな笑みを浮かべる。


「ルーシャ、日本の料理を作ってくれ。教団の支部でからあげや鍋を食べたらすごく懐かしかった。もっと色々作ってくれ!」

「えー……、しょうがないな。じゃあ首都の拠点に行こう」


 他の転生者に会うのは何気に初めてだから、きちんと話を聞きたいしね。あの長い階段を下りるのは面倒だし飛んでいこう。

 手をつないだまま全員の体を魔力で持ち上げると、一人の若い男性がススッと寄ってきた。

 キアと同じ民族衣装……、あ、彼女の勢力の同行者か。


「私の兄、オーゼスだ。一緒に連れていってくれ」


 妹からの紹介を受けて彼は無言で頭を下げる。

 ……そうだ、最初にこの部屋に入った時、際立っていたのがキアともう一人、彼の魔力だった。たぶん妹にも若干劣る程度で、実力はテルミラお母さんに匹敵するくらいじゃないだろうか。

 やっぱりこの人達は戦闘民族? 後でゆっくり聞こう。


 改めて四人全員の体を浮かび上がらせ、部屋の窓から屋外へと飛び出した。


 同じ首都内ということもあって飛行時間はほんのわずかで、あっという間に教団の拠点に到着。

 まず残っていた面々に、無事に首脳機関入りを果たしたことを告げると歓喜の輪が広がった。もちろん一番はしゃいでいるのはトレイシーさんとミーティアさんだ。


「ルーシャ様なら必ずやってくださると信じていました!」

「ついでに聖地にすべく町まで貰えましたしお祝いしましょう!」

「……うかれすぎ、あれは自前で町を発展させろってことだよ。お祝いしてる場合じゃ……、あ、料理を作ってほしいんだっけ?」


 私が話を振るとキアは待ってましたと言わんばかりに何度も頷く。


「カレーライスが食べたい!」

「また面倒なのを……。確認するけど、それって家庭で作るカレーのこと?」

「そう、前世の母が作ってくれたカレーだ」


 やっぱりか、カレーは家庭ごとに味が結構違うんだよ……。それ以前に市販のルウの味を再現しなきゃならない。スパイスはこの世界にも同じ物があるし、大体の想像はつくからできなくもないんだけど……。


「試作を重ねる必要があるから今日はちょっと無理かも……。肉じゃがでもいいかな? それか、クリームシチューならできなくもないと思う」


 顔を輝かせたキアは特に悩む様子もなく即答する。


「肉じゃがとクリームシチュー、両方作ってくれ」


 なぜ両方……、これは二つ提示した私のミスか……。材料は結構かぶっているから別にいいけどね。

 と部屋の隅に積んであるジャガイモに魔力を伸ばし、傍らにあった包丁を操作して皮を剥きはじめる。グルメ路線のせいで教団の拠点には食材がごろごろしていた。


「ふーむ、やっぱりルーシャ、かなり魔力操作がうまいな」


 キアがそう呟くと、レイエルが微笑みながら座っていた椅子から立ち上がった。


「ルーシャ様は赤ちゃんの時から魔力で何でもやっていましたからね。僕も手伝います」

「今でもこの小さな体じゃまだ調理はやりづらいし、大体魔力頼りだよ。……あれ、お母さん起きてきてる」


 私達が帰ってきた時は完全に酔い潰れていたテルミラお母さんがしっかりした足取りで歩いている。オーゼスさんの所まで行くと、ちょちょんと彼の体を突っついた。


「オーゼスも来ていたのね。私も料理頑張るからいっぱい食べていってよ」

「久しぶりだな、テルミラ。妹共々、世話をかける」


 ……お母さん、料理なんて一度もしたことないでしょ。なんか今日はいつにも増して気持ち悪いな。

 とレイエルと二人で首を傾げているとキアがぽつりと。


「テルミラは常々オーゼスのことを狙っているんだ」


 お母さんのそんな話、聞きたくなかったよ……。





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