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26 会議

 時間が停止した部屋の中で、セレノアさんがさらに動く。まっすぐに腕を伸ばし、円卓の正面に座っている女性を指差した。

 その人はこの首脳会議の首座! もうこれ以上は余計なこと言わないで!


「ただ一人、手こずる可能性がある。この中で一番強いのはお前」


 お前呼ばわりはやめて! ……参謀達は正しかった。これならまだ飲んだくれているテルミラお母さんを連れてきた方がマシだった……!

 この状況をどうするべきか、私が頭をフル回転させている間に指を差された首座の女性はフッと笑みを湛えた。


「教団の聖姫、噂通り面白い奴だな」


 ……おお、幸いにも面白がってくれた。いや、全然幸いじゃない。そのケンカ買ったってことでしょ。この人、なんかセレノアさんと同じ匂いがするな……。

 相手方の反応に誘われるようにセレノアさんもずずいと前へ。


「お前も面白そう。さあ、始めようか」

「始めない。下がって下がって」


 割って入った私はずずいとセレノアさんを押し戻す。

 それから体を反転させて円卓の面々に向かって頭を下げた。


「私の同行者が大変失礼いたしました。改めまして、本日はお招きありがとうございます。聖女ルーシャ教団の代表、ルーシャと申します」


 私が挨拶をすると首座の女性はつまらなそうに椅子に座り直す。その他の人達は私のしっかりした口調に驚いた後に、どこか安堵したような表情を浮かべた。

 ……よかった、あちらも六人中五人はまともみたいだ。情報通り、首座の女性が率いる勢力だけ他の五つとかなり毛色が違うね。


 六つの勢力はエルフィリス国内にそれぞれの勢力圏を持っていた。

 まず、エルフィリスの北部にはいくつもの少数民族が集まっている。少数とはいえ合わせると国内最大の勢力圏となり、戦闘に長けた民族も多いそうな。その北方民族連合の総長としてこの場にいるのが、あの首座の女性キアさんだ。

 キアさんは多民族の代表ということもあって、西洋風の服を着た他の代表者達と異なり、一人だけ民族衣装のような服を纏っていた。まだ十七歳という若さらしいけど、セレノアさんが指摘したように、彼女からは一際強い魔力を感じる。体も相当鍛えているようだし、同行者の六人を含めてもおそらく最も腕が立つのだろう。


 次に北方民族連合以外の五つの勢力について述べると、西域を治めるのは二十代半ばの貴婦人ヨルンシスさん、南西域を治めるのは同じく二十代半ばの筋肉質な男性騎士バロノーザさん、でこの二人も比較的若いけどキアさんの所に次ぐ力を持っているらしい。

 あとの南から東の地域を治める三勢力の代表はいずれも四十代以上の年配男性だった。権力者という言葉からするならこのおじさん達が一番それっぽいね。


 会議の首座であるキアさんが、貴婦人ヨルンシスさんにちらりと視線をやる。

 これを受けて、承知しました、というように頷いたヨルンシスさんが一度咳払いをした。私に向けてスッと手を前に。


「ようこそおいでくださいました。ルーシャ様、どうぞお座りください」


 ふむ、どうやら彼女がこの会議を進行するらしい。初めて会ったけどキアさんには無理そうなのは大体分かる。


 とりあえず勧めてもらったので私も円卓に着く。ところが、いざ椅子に座ってみると頭の天辺がようやくテーブルから出るくらいだった。私に用意された椅子は他の代表者と同じ物なのだからそりゃそうだ。

 嫌がらせとかではなく純粋なミスだったらしく、場に気まずそうな空気が流れる。

 仕方ないね、自前で何とかするよ。魔力高低調節!


 座っている椅子を魔力で浮かせ、ようやく私は円卓の上に上半身を出すことができた。

 ヨルンシスさんが申し訳なさげな表情を見せたので、私が先手を取る。


「お気になさらず。それより、早速本題に入ってもよろしいでしょうか?」

「あ、はい、どうぞ……」


 やはりどうも私の容姿と喋りが合っていないことで皆の頭が混乱するみたいだ。まず「私の魂は二十七歳なのでそのように扱っていただけると助かります」と前置きする。


「それでは、単刀直入にお話しさせていただきます。私達、聖女ルーシャ教団に正式にこの会議での席をお与えください」


 そう切り出すと代表者達が身構えるのが伝わってきた。

 さあ、ここからが私の腕の見せ所になる。何の腕かと言うと、前世で社畜として培ったプレゼンスキルだ。

 前世で商品開発の仕事に就きたかった私は、それなりに努力してとあるメーカーの企画開発部に入ることができた。しかし、そこで待っていたのは先輩達からの容赦ない駄目出しに耐え、自分の実力不足を嫌というほど自覚する日々。二年ほどではあったものの、どうすれば自分の希望を通せるかというノウハウを私は徹底的に叩きこまれる。(やっと仕事が楽しくなってきた矢先に病気になった……)


 不完全燃焼も甚だしい前世に復讐するのは今! とまでは思わないけど、かつて苦労して得たスキルが多少は役に立つだろう。ちなみに、前もって参謀の二人にプレゼンの予行をしてみたところ、「「これなら絶対に大丈夫です!」」とあまり当てにならない太鼓判を貰っている。

 じゃあ始めよう、まずは現状における欠点の指摘だ。


「このエルフィリス国は六つの勢力が協力し合うことで経済がうまく回り、組織された連合軍によって魔獣の群れにも対処できています。ですが完璧ではありません。勢力圏が分かれているために地域ごとに貧富や医療福祉に格差が生じ、また、巨大な魔獣の群れには軍を集結させるのに時間が掛かってしまいますよね」


 私がそこまで話すと円卓の面々は苦々しい顔になった。

 よし、ここで教団を入れるメリットを説く。誰かが何かを言う前に私はすかさず、「これらの問題に対して」と続けた。


「聖女ルーシャ教団はお役に立てると思います。すでに主だった都市には支部を設置しており、神官達が信者か否かを問わず治療を開始しています。同時に、定期的に炊き出しも実施していますね。さらに、想定外の魔獣の大群が現れた際には、危機に陥った都市に対して、速やかに食糧や医療、戦闘での支援が可能です。先日の籠城都市のように」


 あなた方の軍よりよっぽど有能ですよ、なんて言わないけど。言わなくても籠城都市の件は全員が承知していて、教団の有能さは分かってくれているだろうから。

 私達はこの会議での席が欲しいだけで、別に土地をよこせとか言っているわけじゃない。あちらに損がないどころか得しかないんだから断然許可するべきだと思う。でも、百年以上続いてきた今の体制を変えるのは簡単じゃないんだろうな……。

 ほら、皆やっぱり渋い顔をして……、と思っていると、首座のキアさんがシュピッと挙手。


「素晴らしいじゃないか、ぜひ入ってもらうべきだ。ここに幼児用の椅子を一つ用意するだけだしいいんじゃないかな」


 え、この子、なんでこんなにあっさりと……? 会議の首座だし何だか得体も知れないし、一番厄介な相手だと覚悟していたのに。

 進行役のヨルンシスさんはため息をつきつつキアさんの手を下げさせる。


「採決はまだですよ……。まあ、私も入ってもらっても構わないと思うのですがね」


 と彼女は筋肉質な騎士バロノーザさんの方に視線を向けた。

 ……ああ、彼はずっと一際面白くなさそうな顔をしているからね。ヨルンシスさんも私達に好意的な感じがするし、敵はこの人だったか。

 バロノーザさんは分かりやすくテーブルを、バン! と叩く。


「認められん! エルフィリス国の建国以来、我々はこの六勢力でやって来たのだぞ!」


 ですよね、そう言ってくる人は絶対にいると思っていたからこっちも準備済み。さあ、ここからが本番……、ってちょっとちょっと。

 私の背後にいたはずのセレノアさんがいつの間にか隣に。その手は剣にかけている。


「ルーシャ様。あいつ、斬っていい?」


 無表情な聖姫の発した言葉に、バロノーザさんは瞬時に青ざめた。醸し出される魔力から本気で言っていると伝わったのだろう。…………、まずい! 本気で斬る気だ!


「駄目だよ! 彼を葬っても何の解決にもならないから! 逆に面倒なことになる!」

「ちょうど椅子が一つ空いていいと思う。そのための同行者では?」

「そんな恐ろしいシステムじゃないよ!」


 セレノアさん、殺人強奪何でもありの椅子取りゲームだと思っていたのか……。

 私の同行者が大変失礼しました、ともう一度謝ろうとしたその時、バン! と再びテーブルを叩く音が響いた。

 キアさんが凄まじい目でバロノーザさんを睨んでいる。


「その役目は譲ってもらおう。……バロノーザ、貴様、私に殺されたいのか?」


 すでに青ざめていた彼の顔からさらに血の気が引いていくのが見てとれた。

 ……なんかこの会議、めちゃ大変だ。前世ではこんなの経験したことないけど、大丈夫だろうか……。






遅くなりましたが、全てのご感想にコメントを付けました。

沢山のご感想有難うございます。かなり書くモチベになっています。

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― 新着の感想 ―
むしろキアさんとやり合って、勝ったらキアさんの席を譲ってくれとか言ってセレノアさんけしかければ、キアさんはウッキウキで相手してくれるのでは?(何の解決にもなってない提案
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