25 人気
設立からまだ一年と経っていないのに何という急成長……。新興宗教にあるまじき規模になりつつあるな……。
私が頭を抱える隣では参謀の二人も悩ましげな顔を作っていた。
「急いで各都市に支部を設置しているのですが、なかなか追いつかなくて」
「聖霊魔法の使い手も早急に登用しているのですよ。あ、現在の神官数は約五百名になりました」
……本当にどんどん規模を拡大している。これはもう一度きちんと釘を刺しておくべきか。
「ちゃんと教義は守ってね。月会費以外は受け取らない。信者であるか否かを問わず治療は施す」
「もちろん徹底していますよ。教団の活動費は月会費だけでも充分ですし」
トレイシーさんの返答に私は脳内で計算。
信者一人当たり、前世で言うところの二千円くらいの金額をいただいていたっけ。それが五十一万人だから、おおう、月十億以上の収入が……。加えて国との契約による収入もある。簡単に神殿みたいな聖獣小屋を建てられるわけだ。
というより、私自身はそんなに稼いでいる自覚がない……。住んでいるのは普通の民家だし。
「……これは、教団が私の手を離れて勝手に経済の怪物に、というやつでは」
私が呟くとミーティアさんが首を横に振った。
「いえいえ、実際には儲けはそれほど出ていないんです(今はまだ)。激ウマからあげの配布や鍋パーティーで結構かかっていますので」
「あ、グルメ路線も継続中なんだ……」
「はい、神官とは別に調理スタッフも五百名ほどいます。治癒も分け隔てなくやっているので人手も……。そうでした、この首都でもルーシャ様に治していただきたい瀕死の方々が」
彼女が言葉を切って視線を向けると、神官達が怪我人や病人を続々と運んでくる。いずれも数日もつかどうかという本当に危険な状態で、その数は百人近くになった。
「もっと早く言って!〈ヒールワイド〉!」
温かな光が全員を包み、瀕死だった人々は見る見る完全な健康体に戻った。自分で体を起こすのも困難だった人達が次々に立ち上がり、誰もが信じられない様子で各々の体を確かめる。やがてこれが現実だと認識すると、涙を流しながら私に向かって祈り出した。
驚いていたのはこの場に集まった信者達も同様だった。
一瞬の静寂ののち、凄まじい歓声が巻き起こる。
「奇跡だ……、本物の奇跡だ……!」
「……噂は真実だった! ルーシャ様は本物の聖女様だわ……!」
なるほど、話には聞いていたもののまだ半信半疑だった、という感じかな。
人々の熱狂ぶりにトレイシーさんとミーティアさんは頷き合った。
「百の噂より一つの奇跡。実演は大成功ですね」
「これで首都でも信者が急増すること間違いなしです」
……この二人、正しいことをしていてもいちいち腹黒さを覗かせるから何だか不安になるんだよね。
なお信者達の声援は私以外の者にも向けられていた。セレノアさんとレイエルがそれぞれ変わった名前で呼ばれている。
「二人のあの呼称、何なの?」
とりあえずトレイシーさんとミーティアさんに尋ねてみた。
「まずセレノアさんですが、彼女は教団の聖姫と呼ばれています」
「以前から国中を走り回っていて、容姿も人形のように美しいので結構ファンが多いんですよ」
ふむふむ、無表情でアンドロイドみたいな彼女には確かに非現実的な魅力があるよね。きっとアニメやゲームのキャラを好きになる感覚に近い。ファンも男性が多いみたいだ。にしても、聖姫って聖女より格上じゃない?
当のセレノアさんはファンからの声援にも眉一つ動かさない。ただ一言、「うるさい」とだけ言い放った。
この無礼な応対にもファンは喜びの声を上げる。どうやら相当コアな支持層らしい。
続いて参謀達はレイエルについて説明してくれた。
「レイエルさんは教団の聖弟と呼ばれています」
「聖女様の美麗な弟(魂年齢順)として肖像画のポストカードを配ったら人気に火が点きました」
何を勝手なことを……。こちらは圧倒的に女性のファンが多いみたいだ。よく見たら皆手にポストカードを持っていて、実物のレイエルに黄色い声で沸いている。「まるで王子様みたい!」とか。はい、二年前まで実際に王子をやってました。
突然できたファンにレイエルはひたすら困惑していた。
「あ、あの、ルーシャ様、僕はどうすれば……」
「ひとまず微笑みながら手を振っておけばいいと思うよ。アイドルらしく」
「アイドルって何ですか?」
「いいからいいから。ほら、やって」
言われるままにレイエルが少し照れながら手をひらひらさせると、歓声は一段と大きくなった。ふむ、あたかも自分の弟属性を理解しているかのような見事なはにかみ。天性のアイドルか。
いや、アイドルなのは私達も一緒だね。参謀達の人気戦略にまんまと利用されている。聖女に聖姫に聖弟に、そして聖母……、あ。
視線を向けるとテルミラお母さんは一人不機嫌そうな顔をしていた。
「私のファンは?」
少しの間が空いた後に、私達の中に気まずい空気が流れる。
私は魔力感知の精度を最大まで上げ、さらに聴力も研ぎ澄ませた。
「いた! いたよ、お母さん!『聖母様ー!』って叫んでる人が二人いる!」
「え、こんなに何千人といて、たった二人?」
トレイシーさんとミーティアさんが揃って目を伏せて肩を落とす。
「ポストカードも頑張って配布しているのですが……」
「どうやって売りこめばいいか見当もつかず……」
静かに空中を浮遊した私はテルミラお母さんの隣へ。その肩にポンと手を置いた。
「諦めよう、これ以上は自分が辛くなるだけだよ?」
「うるさいわね!」
聖母の人気は今一つだった。たぶん酒癖の悪さが知れ渡っていたんだろう。
こうして信者達の熱烈な出迎えを受けたのち、私達は首都にある教団の拠点に一旦移動。
そこで私は用意されていた衣装に着替え、少しだけ威厳がプラスされた。元が幼児なのでプラスされてもさほどでもないけど。
準備が済むとセレノアさんと二人で拠点を出た。
首脳会議には各勢力、代表者の他に一人だけ同行者が認められている。どうも勢力の中で最高の使い手を連れていくのがお決まりらしい。教団からはテルミラお母さんが一緒に行く予定だった。が、なぜか拠点に着くなり浴びるようにお酒を飲みはじめてしまったので、急遽セレノアさんにチェンジとなった。
実力から言えば本来なら同行者はセレノアさんで順当なんだけど、参謀の二人はずいぶんと心配していた。別に戦いにいくわけじゃないし大丈夫でしょ。
会議が行われる軍本部の建物が見えてくると、隣を歩くセレノアさんが小声で「腕が鳴る」と呟いた。
……大丈夫、だよね?
本部内に入った私達は早速会議の部屋へと案内された。首都で一番の高さを誇る建造物を上へ上へと。会議の場はここの最上階のようだった。いかにも権力者の集いっぽい。
大きな扉の前で案内役から「もう皆様は揃っておられます」と聞かされる。指定の時間にはまだ大分あるはずなのに、これは謀られた模様。あちらは準備万端で待ち構えているみたいだ。
部屋の中に入ると案の定、円卓に着く六人が待っていましたとばかりに視線を投げかけてきた。そして、各自の背後には一人ずつ、並々ならぬ魔力を秘めた戦士達が立っている。
なんて圧力……! と思っているとくるりと見回したセレノアさんが小さく頷く。いつも通り無表情ながら、今日は少し微笑んで見えた。
「よし、全員倒せる」
…………。ちょっとー!
まあ言うまでもなく、部屋の空気は一瞬で凍りついた……。
テルミラお母さん真骨頂の回でした。




