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24 信者


 聖獣達が町にやって来てから数日経ち、この子達もずいぶん町に馴染んできた。もうわざわざふれあいタイムを設けなくても、日常生活の中で自然と交流できている感じだ。

 ……こんなに簡単に人と獣の共生社会ができるなんて。いや、確かによかったんだけど。


 ところで、先日のレイエルとジェシカの手合わせは、どうにかジェシカの方が勝ち越す形で終えた。しかし、あの後も一人と一頭は毎日訓練を重ねている。ジェシカは粘っているけど、レイエルが勝ち越す日もそう遠くはないだろう。

 ジェシカ、いっそもう次の進化をしてくれないかな。今度はまだまだ掛かるって言っていたし無理か。条件を変えてテルミラお母さんに勝てるまでにするとか、……はさすがに非道だよね。


「過保護ね。認めてあげればいいじゃない。レイエルの腕前はもう相当なものよ」


 キッチンの椅子でお茶を飲む私。その思考を読んだように、向かいの席にテルミラお母さんが座ってきていた。


「何言ってんの。レイエルはまだ十二歳なんだから危ないでしょ」

「二歳のあんたが言っても説得力ないから」

「もうすぐ三歳だよ」

「世間一般ではまだまだ立派な幼児よ」


 ふーむ、やはり私が幼児なだけにいつまでもレイエルをかわし続けるの無理か。訓練も頑張っているから認めてあげたい気持ちもあるんだけど。

 そういえば、訓練を頑張っていると言えばあの子もだね。

 と台所の窓から外を眺める。


 空地では大兎が二頭の大狼に首とお尻を咬まれてダウンしていた。

 ……完全に捕食されている風景だけど、あれは甘咬みだから大丈夫。

 メイリムは毎日ああやってウルムド達に訓練相手になってもらっている。ジェシカに追いつこうととにかく必死だ。少し彼らの魔力思念を読み取ってみよう。


(くぅ、もう一回、お願いします……)

(……メイリム、やっぱりまだ二頭を同時に相手にするのは早いぞ)

(いつもながらペースが早すぎる。一旦休憩を挟もう)

(まだ大丈夫です! お願いします!)


 ちょっと頑張りすぎな気もする。

 レイエルに負け続けたあの日、気落ちから復活したメイリムは気合を入れ直した。自分は誰よりも弱いのだから誰よりも厳しい訓練をするしかないと。

 その気持ちが伝わってくるから、私も他の聖獣達も協力したくなる。頑張れメイリム、象サイズの兎になれる日もきっと近いよ。


「よし、今日もロールキャベツを作ってあげようかな」

「いや、作ってる場合じゃないでしょ。そろそろ出発の時間よ」


 調理にかかろうとしていた私はテルミラお母さんの言葉で手を止めた。


「そうだった、面倒だな……」


 実は今日は、エルフィリス国の首脳会議に招かれている日だった。

 まずこの町から会議が開かれる首都まで飛んでいく必要がある。赴くのは聖女である私、聖母のテルミラお母さん、レイエル、セレノアさん、参謀のトレイシーさんとミーティアさんの六人だ。聖女ルーシャ教団の門出となる日なので主力全員で行くらしい。別に戦うわけじゃないのに……。


 窓の外に目を向けると、すでに私とお母さん以外の四人が集まっており、レイエルがこちらに手を振っていた。家を出た私に彼はさも嬉しそうな表情で。


「ついに同行を許してくれましたね、ルーシャ様」

「別に戦うわけじゃないから……。戦場への同行は認めてないからね」

「分かっていますよ。でも僕もルーシャ様も首都に行くのは初めてでしょ」

「ちゃんと分かっているならいいけど。まあ観光気分で気楽に行こう」


 ため息をつきながら視線を移すと、魔力を漲らせたセレノアさんが「腕が鳴る」とポツリと呟いた。別に戦うわけじゃないからね……。


 六人全員の体を魔力で覆う私に、トレイシーさんが確認するように尋ねてきた。


「お心は決まりましたね?」

「大丈夫だって、しっかり第七の勢力になることを目指すから」

「ルーシャ様が決意してくださったならもう決まったも同然! さあ、参りましょう!」


 ミーティアさんのかけ声を合図にして、皆の体を空中に持ち上げた。

 一度も訪れたことのない首都だけど、空を飛んでいけば案外近い。十数分後にはもう山の向こうに巨大な町が見えはじめた。


 国最大の都市なだけあって本当に大きい……。私達が住む町の何倍、いや、何十倍あるんだろう。

 ……おや、町の外れにすごい沢山の人が集まっている場所が。数千人くらいいるんじゃない? 何かイベントでもあるのかな?

 見つめているとトレイシーさんがその人だかりを指差す。


「あそこに着陸してください」

「え……?」


 戸惑いつつも魔力を操作して群衆の前に降り立った。

 すると、私達に向けて地鳴りのような歓声が。


「な、何なの! この人達は!」


 呆気に取られる私の隣では参謀の二人が笑みを浮かべていた。


「何って、我が聖女ルーシャ教団の信者達ですよ。ここ数日で爆発的に増えました」

「現在の数は首都人口の五パーセントほどで、ここに集まっているのはそのほんの一部ですね。地方や辺境の都市ではさらに急増中で、もっと割合が高いです」


 いつの間にそんなに増えたの!

 ……ん、ここ数日で爆発的に? それから、地方や辺境ではさらに急増しているって言ったよね。

 きっかけは籠城都市の解放か!

 あの戦闘期間中、私は全住民の怪我や病気を完治させた。私のほぼ蘇生〈ヒール〉の噂は首都まで届いていたんだろう。そして、地方や辺境に関して言えば期待度はもっと高い。魔獣に襲われた時、軍の到着が遅い場合でも教団が独自に動いて助けてくれることをあてにしているんだ!


 やられた……。トレイシーさんとミーティアさんが籠城都市で差配を頑張っていたのは、さらに解放にやっきになっていたのは、教団を国の首脳機関に入れるためだけじゃなかった……。

 私が視線をやると、参謀達は一層不敵な笑みを湛える。


「ようやくお気付きになったようですね」

「はなから私達の狙いは信者の爆発的増加だったのです。それが叶えば第七の勢力になることも自然と実現しますから」


 くっ、彼女達を甘く見ていた。さすが自ら名乗り出て参謀になっただけはある……。

 この状況にもう私は声を絞り出して確認することしかできなかった。


「……ちなみに、教団の信者は国全体でどれくらいの数になっているの?」


 問いにトレイシーさんとミーティアさんは顔を見合わせる。


「まだ日々万単位で増えていますからねー」

「昨日の時点で全人口の一割ほどでしたか」


 えーと、エルフィリス国の人口は確か五百万人くらいだったから……、えらい数になってる!



【聖女ルーシャ教団 信者数 = 51万2056人】





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