20 進化
進化したという兎の魔獣を私はしげしげと見つめる。
「どうしてたった一日で進化を……。名称もあったり、変わったりするの?」
そう尋ねながら魔力でも思念を送る。
すると、大兎はこくこくと頷きを返してきた。
(はい、ラビンからラビルクになりました。元々私は最下位の種で進化が目前だったんですよ。ほら、これでよく見かける大きさの魔獣になったでしょ?)
確かに先の籠城都市の戦いでも敵の兎は大体がこのサイズだった。
ていうか、もう普通に会話するみたいにこの子の思念がはっきりと聞こえる……。
(私の方でもルーシャ様の思っていることがはっきりと分かりますよ。きっと私達の相性がいいからです!)
大兎はここぞとばかりにそのもふもふの毛を私に押しつけてくる。
これを見ていた大狼が、黙っていられないと言うように私達の間にぐいぐいと顔を差しこんできた。
(ルーシャ様との相性なら私だって負けていない! 私の思念もはっきりと聞こえるだろ!)
うん、ちゃんと聞こえるから落ち着いて……。
ぐいぐい来る狼に負けじと兎も懸命に押し返す。
(昨日は格下だったので気遅れしていましたが、今はもう同格! 遠慮はしません!)
(ふん、進化したての小兎め。実力じゃまだ私の方が遥かに上だよ)
(そ、そこまでの差はありませんよ!)
(いいや、お前は気付いているはずだ。何しろ私も次の進化が目前に迫っているんだから)
ちょっと二頭共、ケンカしないで。……ん、次の進化?
私の頭上に浮かんだ疑問符を察知して、大狼はやや誇らしげに目を細める。
(そう、現在のウルムドからウルゼノスに進化する。世間に溢れている魔獣とは一線を画す進化だ。もっと大きくなる)
「待って待って! さらに大きくなるとか困る! 今日大きくなったばかりだし!」
(進化したのは兎の方じゃないか……)
(ふふふふふ、早いもの勝ちです。残念でしたね)
大兎はぴょんぴょん跳んで小踊りしていた。気遅れしていても神経は図太いらしい。
言われてみればこの大狼の魔力は他の個体より多い。もう次の進化が迫っているというのは本当みたいだね。
「うーん、たまたま強いウルムドに当たったのかな?」
「たまたまじゃない。どうせ仲間にするならと感知した中で一番強い魔獣を狩った」
声に振り向くと、先ほどまで小踊りしていた大兎が硬直して固まっている。ぐるりとその背後に回ってみて、銀髪の少女が大兎のお尻に抱きついているのが確認できた。
「セレノアさん、おはよう……。あの速度の中でもちゃんと選んでいたんだね……。それでどうして兎に抱きついているの?」
「私は可愛いものやもふもふしたものが好きだから。呪いの解けた魔獣なんてもはや大きなもふもふでしかない」
……そういえば、前に野犬も捕獲してたっけ。無表情だから分かりづらいけど、あれは可愛がっていたのか。
あ、そうだ。どうして〈ヒール〉蘇生で凶暴じゃなくなったのか、今ならこの子達から直接聞けるじゃない。
ねえ、本当に呪いが解けた感じなの?
(あながち間違ってはいないよ。ずっと人間への憎しみに囚われていた心が急に解放された感じだ)
(そう、目が覚めた感じですね。……あの、私のお尻に引っついているこの人、すごく怖いのですが)
大狼と大兎は順番に答えてくれた。
とりあえずセレノアさんを兎から引き剥がしていると、狼の方が続けて苦々しい顔を作った。
(以前はとにかく苦しかった。憎悪で狂ってしまいそうで……。だから、そこから解放してくれたルーシャ様にはとても感謝しているんだ。私達がルーシャ様を好きでたまらないのはそういうわけだよ)
「そうだったんだ……」
(今後も聖獣として傍においてくれるんだろ? 嬉しいよ。じゃあ一つお願いがある。ルーシャ様が私達の名前を決めてくれないか?)
「え、私でいいなら考えさせてもらうけど……。その代わり、ウルゼノスに進化するのはちょっと待ってね」
(う……、分かった)
名前が付くとあって空地で喜び駆け回る大狼と大兎に、どさくさに紛れてその聖獣達をもふるセレノアさん。何とも微笑ましい光景を眺めながら、私はどんな名前がいいか頭をひねる。
やっぱりきちんと似合っている名前を付けてあげたいよね。
まず、大兎の方はちょっとお調子者で元気な妹といった印象かな。真っ白な毛の効果もあって一緒にいると気持ちが明るくなる。
そして、大狼の方はお姉さん、というより頼りがいのある姉御な印象だね。美しい銀色の毛を見ていると何だか澄んだ気持ちになる。
あと、無表情な銀髪の少女は……、いや、セレノアさんはセレノアさんだから考えなくてよかったんだ。
「よし、決めたよ」
私が一歩前に踏み出すと大兎と大狼が駆け寄ってきた。期待に満ちた表情で私の顔を覗きこむ。
……結構プレッシャーだな。とりあえず発表しちゃおう。
「えーと、ラビルクの方がメイリムで、ウルムドの方がジェシカなんだけど、……どうかな?」
少し緊張した心持ちで反応を窺っていると、二頭は揃ってその場で跳び上がった。それから、先ほどよりさらに弾む足取りで空地を駆けはじめる。
よかった、魔力からも気に入ってくれているのが伝わってくる。あんなに喜んで……、あれ、なんかジェシカの体、光ってない?
と見ているうちに、大狼の全身を覆う光はどんどん強くなっていく。
光が収束した時、馬サイズだったジェシカの体は象サイズにまで巨大化していた。
「…………。それウルゼノスになっちゃったよね! 約束が違う!」
(すまない、嬉しさのあまりうっかり進化してしまった……)
48時間内に投稿のはずがずいぶんと……、すみません。事情があります。
この小説、書籍化が決まりました。
担当編集さんとの打ち合わせを経て、今後の展開も決まりましたので再開します。
来年は1月から書籍の発売まで月に4回は投稿します。
担当さんとそう約束してしまいましたので、今度は確かです。
強制はされていません。打ち合わせが終わったら自然とそういうことになっていました。できる編集さんです。
改めまして、書籍化に至ったのも皆さんのおかげです。
本当に有難うございます。
ご感想におだてられてアフターエピソードを書き続けてよかったとつくづく思いました。
なろうでは個々の読者が作品の運命を決定づけることがあるみたいです。




