18 蘇生
籠城都市の解放が評価され、私達は五日後、首脳機関の会議に招待されることになった。
少し時間ができたので、私は改めて転生者について調べることにした。転生者とは全員が私のような魔力を持っていると思っていたけど、どうもそうではない可能性が出てきたからだ。
調べると言っても、世界を飛び回っているテルミラお母さんと長く生きている我が教団の司教さんに尋ねただけなんだけどね。
まとめると、この世界ではすでに魂召喚の技術が確立されており、私がいた世界からの転生者がそれなりの数でいる。儀式を行う資金さえあれば割と簡単に呼び出せるらしい。
ただし、労力が成果に見合わないことから実行する者はそう多くないみたい。
まず、召喚しても赤子から育てなければならないのですぐには役に立たない。さらに、特殊な魔力を有しているといっても、その強さはまちまちで大したことがない場合も多々あるから。
そう、大したことがない場合が多々ある。
……私は、なんか普通じゃない転生者だった。
この呟きを聞いたテルミラお母さんと司教さんの反応は実にあっさりしていた。
「私は出会った時から分かっていたわよ。だから、すごい後継者を得た、と言ったでしょうが」
「わしもですじゃ。じゃから、教団を作ったわけですし」
ついでにレイエルも、「僕も赤ちゃんのルーシャ様が兄様達をぺしゃんこにした時から分かっていましたよ」と言った。
結局、私一人だけが状況を把握できていなかったということだ……。
よくよく考えてみれば、転生者が全て私のような力を持っていたなら、この世界の人類はこれほど魔獣に手を焼いていないだろう。二歳児の現在でも、おそらく単独で数百頭の魔獣を倒せてしまうのだから。実際に試したことはないけど、たぶんできる。
というわけで、私は今、約五百頭の魔獣を倒しにいくべく空を飛んでいる。
つい先ほど、国内を回っている医療神官チームの一つから要請があった。地域を荒して多数の死傷者を出している魔獣の群れを討伐してほしい、と。
約五百頭となかなかの規模で国もすぐには対応できそうにないことから、セレノアさんにさくっとやっつけてほしいと頼んできた。それを私が譲ってもらった形になる。
実はもう一つ調べたいことがあって、引き受けたんだけど。
さて、魔獣達がねぐらにしている場所は確かこの辺りだっけ。
周囲を見回していると、小高い丘の上に魔獣の群れを発見する。
やはり大兎や大狼、大熊などで構成されており、空から近付いていった私に対し、激しく吠えながら凄まじい殺気をぶつけてきた。
むぅ、二歳児でも容赦なく殺す気満々だな。本当に、この世界にはなぜこんな恐ろしい生物がいるんだろう……。
おかげでこっちもやるしかないって覚悟が決まるか。まず倒してしまおう。
少し高度を上げた私はポケットを探る。取り出した植物の欠片をばらまきながら、それらに〈ヒールワイド〉をかけた。
瞬く間に再生された炸裂栗が魔獣の群れの上に落下していく。
連鎖する破裂音と共に一帯の魔獣達が次々に倒れると、私はすぐに移動して同じことを繰り返した。ちなみに、私の所にも栗が飛んでくる危険があるのでしっかり魔力壁は展開する。
さほど時間を置かずに約五百頭からなる魔獣の群れは全滅した。
動くものがいなくなったのを確認して、最後に炸裂栗を撒いた辺りに降り立つ。
私がもう一つ調べたかったこと、それは〈ヒール〉の治癒が間に合うタイムリミットだ。
あの籠城都市の壁の上で、大兎にやられた兵士達を治した時からずっと引っかかっていたんだよね。彼らは全員、間違いなく絶命していた。それでも助けられたということは、私の死の認識が誤りである可能性がある。鍵になっているのはおそらく、魂の存在。
とにかくこれで明らかになる。
よし、あのちょっと小さめの大兎にしよう。小さめって言っても大型犬くらいあるけど。万が一速攻で襲いかかってきても、顔が凶悪でも、あれなら比較的怖くない。
その兎の魔獣は心臓のある辺りを栗に貫かれて確実に息絶えていた。
「攻撃からまだ一分も経ってない。さあ、どうなるか。〈ヒール〉!」
固唾を飲んで見守っていると、不意に兎は目を開けた。
い、生き返った! やっぱり魂か! 魂が抜ける前なら蘇生が可能なんだ!
驚愕の事実に言葉を失う私だったが、さらに驚くべき事態が発生する。
私の顔をじっと見つめていた兎の魔獣は、愛くるしい鳴き声と共にその毛をすり寄せてきた。
……え、私、すごくなつかれてる。
じゃなくて、殺気を全く感じない。顔も凶悪じゃなくなってるし、まるで別の生物になったみたいだ。いったいどうなってるの、一回死んだことで改心した?
これに関してはいくら考えても答が出なかった。しばらくもふもふを味わわされた末に、私は宙へと浮かび上がる。
「とりあえず、帰ろ……」
ところが、飛び去ろうとする私を見た兎の魔獣は慌てた様子で追いかけてきた。
「キューン! キューン!」
「お前ね……、私のことを命の恩人と思っているのかもしれないけど、お前を殺したのも私なんだからね……。つまりイーブンだから、私のことは忘れて好きに生きていきなよ」
説得するも(たぶん言葉も通じてない)、兎は潤んだ瞳で私を見つめ続ける。
「キューン……」
……う、放っておけない。
兎を魔力で包んで空中に持ち上げた。
――兎連れで帰宅した私に、テルミラお母さんとレイエルは痛いほどの視線を注いできていた。
先手を取るようにまずお母さんが口火を切る。
「そんなでっかい兎、うちでは飼わないわよ。元いた場所に戻してきなさい」
「だけどこの子、すごく私になついていてね……」
「確かに、潤んだ瞳でめちゃ可愛いけど、まるで魔獣みたいにでかいじゃない。駄目よ、絶対に駄目」
横で話を聞いていたレイエルがぽつりと呟いた。
「……というよりその生物、魔獣なのでは?」




