15 同期
とてもお天気のいい午後の昼下がり、私は家のキッチンでレイエルとリンゴを食べていた。
今朝二度目の物資輸送を無事に終え、現在は自宅で一息ついているという状況だ。もちろん一緒に行った者は一緒に帰ってきたので、各々のんびりくつろいでいる。
テルミラお母さんは〈トルネード〉を使った反動で酒を浴びるように飲んでしまい、今は完全に酔い潰れていた。上位魔法の使用というのはやはり代償が高くつくらしい。というより魔法は関係ない気もする。
キッチンの窓から外の空地を見ると、セレノアさんの姿を確認できた。いつもの無表情で、なぜか野犬を追って走り回っている。たぶん彼女は遊んでいるつもりなんだと思うけど、逃げる犬の方は必死の形相だ。きっと本能で圧倒的強者の存在を感じ取っているんだろう。
セレノアさん、朝に魔獣の群れの中を走り回っていたのに元気だな。どういう体力しているの……。
同じ空地では、また紙芝居で布教活動を行っている司教さんの姿も見てとれた。一緒に激ウマなからあげも配っているのでなかなかの盛況ぶり。
我が町は変わらずに平和だった。
「ルーシャ様、リンゴが剥けましたよ。さあどうぞ」
レイエルが目の前の皿に兎の形に剥いたリンゴを乗せてくれた。
おお、食べるのがもったいないくらい可愛い。本当に平和だなあ。
「……いや、普通の二歳児みたいな扱いしないで」
ため息をつきつつリンゴを齧るとすごく甘く、当たりのリンゴだったことに気付く。兎の耳になっている皮部分を細かくちぎって、同じ物を五個ほど複製した。
ごろごろ転がるそれらを眺めながらレイエルも兎リンゴを齧る。
「確かに普通の二歳児は当たりのリンゴを複製できたりしませんね。あ、これ本当に甘い」
「今日は魔力に余裕があるからまだまだ出せるよ。出そうか?」
「五個で充分ですよ。ルーシャ様、なんか前より魔力増えてませんか?」
「一昨日に限界まで使い切ったせいか、ちょっと増えたみたい」
「なるほど、実戦に勝る訓練はないということですか。……僕は、一人だけ取り残されたようで少し歯がゆいです。あの、明日は僕も連れていってくれませんか? もちろんセレノアさんほどではありませんが、魔獣ともそれなりに戦えると思います」
悔しさを滲ませるレイエルの言葉を聞いて、私は持っていたリンゴを落とした。
「何言ってんの! 駄目駄目! 絶対に駄目! 人が普通に死ぬ本物の戦場なんだよ! レイエルはまだ十二歳なんだから、絶対に駄目!」
「セレノアさんだって十四歳だし、ルーシャ様なんて二歳じゃないですか!」
「私は中身が二十七歳だからいいの! じゃあレイエルも十四歳になるまで絶対に駄目!」
ふぅ、危ない危ない、レイエルがあんな戦場に行くなんてありえないよ……。
頑張って訓練しているらしく、彼から感じる魔力はそれなりのものだ。もしかしたらその辺の兵士より強いのかもしれない。でも、戦争は何が起こるか分からない危険な場所。自分が二年前まで子犬王子だったことを忘れたんだろうか。
断固として拒否する私に、レイエルは「僕もルーシャ様の力になりたいんですよ……」とややすねた表情を見せていた。ごめんね、今は気持ちだけ貰っておくから。
さて、と私はテーブルに置かれた書類を手に取った。
ここには現在私達が暮らすこの国の概容が記されている。侍女から私の参謀とやらになったトレイシーさんとミーティアさんから手渡されたものだった。
ちなみに、彼女達は今後の策を練ると言って帰還するなり町にある拠点に戻っていった。性格のよく似たあの二人は早くも参謀きどりだ。
そういえば、妙に性格が似ているので、私はトレイシーさんとミーティアさんに二人は姉妹なのか尋ねてみた。すると……。
「いいえ、同い年の二十歳で神官としても同期ですが、全くの赤の他人です」
「同期だけにシンクロ率が高いですが、全くの赤の他人です」
ということだった。同期だからっていちいちシンクロしないでしょ。
神官にはあるまじき強欲さだけど、トレイシーさんもミーティアさんも機転が利いて仕事もきっちりこなすので、まあ別に参謀でもいいかなと思う。
それで、彼女達は首脳機関入りを目指すに当たって、私にも国のことを知っておいてほしいと資料を置いて帰った。
今更ながら、私達のこの国はエルフィリスという。元々はこの一帯の地域を指す呼び名だったんだけど、六つの力のある勢力が結集した時に国名にしたらしい。こんないきさつでエルフィリス国には君主がおらず、六つの勢力の代表者による合議で舵取りが行われていた。
つまり、首脳機関とは六大勢力の代表者が集う意思決定機関だ。
ん? 資料の最後に何か走り書きが……?
『私達、聖女ルーシャ教団が第七の勢力になります』
『そうなれば、聖女ルーシャ教の国教化ももう手の届く所に』
本当にあの二人、見事に共通の野心でシンクロしてるな。
……私は一度も、首脳機関に入りたいとも国教にしたいとも言ったことないんだけどね。
資料を束ねていると、キッチンの窓をコンコンと叩く音が。
セレノアさんが野犬を脇に抱えてやって来ていた。
「私もリンゴが食べたい。ルーシャ様が兎にして」
「いいよ。……けど、とりあえずその野犬を解放してあげて。(恐怖で)置き物みたいに硬直してるから」
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