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14 野望


 町の上空に浮かぶテルミラお母さんは魔獣の群れをぐるりと見回す。

 それから、両手を天にかざすと意識を集中させて魔力を高めはじめた。


 しばらくして、町を囲む四方の壁の外側で同時に異変が起こる。壁の高さを越える巨大な竜巻が四つ発生していた。

 荒れ狂う風の渦は魔獣達を薙ぎ払い、空中へと巻き上げる。


 すごい、こんな規模の魔法は見たことがない! これがお母さんの本気!

 驚く私に侍女の一人が解説してくれた。


「あれは風の上位魔法、〈トルネード〉です。風霊魔法を専門にする魔法使いでも、扱えるのはごく一握りの者に限られますね」


 確かに、使える者がそういないから人間は魔獣に苦戦しているんだろう。お母さんもあれ、魔力を半分近く消費してない? 私が見たことないはずだ、この魔法は戦争用の切り札。


 やがて竜巻は消滅し、一気に魔力を減らしたテルミラお母さんが若干よろめきながらこちらに下りてくるのが見えた。


「……はぁ、今日はめちゃ〈トルネード〉したからめちゃ酒飲むわよ」

「今日はさすがにいいと思うけど、なんで教団の聖母になってるの……」

「だって、給料くれるし、あんたと同じ待遇だって言うから」

「私と同じってことは、結構働かされるってことだからね」

「嫌よ、働くのは週に一日。残りの六日は終始だらだら過ごすから! 酒と共に!」


 やっぱりこんな人間を聖母にしてはいけないと思う。


「ルーシャ様と同じでも聖母は年を食ってる。可愛くない」


 そう言ったのはセレノアさんで、これにテルミラお母さんは「まだ二十七歳! ルーシャも中身は私と同い年よ!」と猛烈に抗議した。

 ぷいっとそっぽを向いたセレノアさんだが、私の視線は彼女の手元に釘付けになっていた。先ほど私が出した鶏を、掌から発射される火炎放射で丸焼きにしている。


「セレノアさん、それは何を……?」

「ご飯を作っている」

「火霊魔法、使えたんだね」

「私を誘いにきた王子に覚えさせられた。何でも、火炙りにしてほしい人間がいるとかで。たぶんどっかの魔女」


 ……それ、今ここにいる聖女、私のことだよ。


 こんがり焼き上がった鶏にセレノアさんは塩をバッとかけ、丸のままかぶりついた。ワイルドだな、たぶんこの子はどこの戦場でも生きていける。


 ここで、壁の上の兵士達が騒いでいるのに気付く。耳を澄ましてみると、どうも町を包囲している魔獣達が引いていくらしい。

 確認に向かう指揮官がその前に話してくれた。


「おそらく近くの森に一旦引くのだと思います。これまでもあちらにまとまった被害が出た時はそうしていましたから。大体半日ほどで戻ってくるでしょうが」


 とはいえ、しっかり町を見張っているので住民を逃がしたりはできないそうだ。


 ふーむ、セレノアさんの突撃とテルミラお母さんの竜巻が結構こたえたみたいだね。それでも、倒せたのはせいぜい四千頭くらいで、まだまだ残っているんだけど。

 でも、毎日こうやって敵にダメージを与えれば、この都市の死傷者は大分少なくできそう。軍が来るまであと少し、セレノアさんとお母さんに頑張ってもらえば……。

 私がそう言うと、侍女の二人が不敵な笑みを浮かべた。


「軍の到着など待ちませんよ」

「我が教団がこの都市を解放するのです」

「いやいや、何を言ってるの……。無理せず守りに徹すればいいじゃない。そもそもの任務は物資の輸送だけなんだし」


 すると侍女達は今度は一転して真面目な顔になった。え、この人達がこんな表情をするなんて珍しいな。


「決して不可能なことではないのです。軍が到着するまで早くてあと五日。一日一突撃一竜巻で魔獣達を完全に退却させることができます」

「そうなれば、国の首脳機関に貸しを作るなんてけちなことよりもっと大きな成果が得られるのですよ」


 嫌な予感がした私は、恐る恐るその成果とやらを尋ねてみた。


「「聖女ルーシャ教団をこの国の首脳機関の一つにします!」」


 侍女達は声を揃えてそう断言した。


 ……こ、この二人、大変な野望を抱いていた。

 当然ながら私は止めようとしたが、二人には依然としてふざけている様子がない。共に自分の胸に手を当てて私に問うてきた。


「「ルーシャ様、私達は誰ですか? 言ってみてください」」

「え、私の侍女のトレイシーさんとミーティアさん、ですよね……?」


 あまり彼女達の名前を呼んだ記憶はないけど間違えてはいないはずだった。ところが、二人は首を横に振る。


「侍女なのは今日までです」

「これからは、私達はルーシャ様の側近参謀になります」


 …………、……この人達は何を言っているんだろう。


 呆然とする私の隣で、テルミラお母さんがふーっと息を吐いた。


「……やれやれ、うちのキッチンを大根で破壊したり、私を聖母にしたり、この子達はただ者じゃないと思っていたわ」


 そうだ、割と早い段階から彼女達はただのモブじゃなかった……。そして今日、ついに確固たる地位を取りにきた……!





いたって真剣に書いています。

が、こんな形でモブから昇格させるのは初の試みです。

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― 新着の感想 ―
お母さんの台詞に説得力が有り過ぎる!! -- 凄く面白いです。テンポもとても良く中だるみと無縁で楽しめてます。
すごく面白い。すき。
アフターエピソードあっという間でした。 他の方も仰ってるように本編をプロローグにして、アフターエピソードを本編にしてもらいたいくらい続きを作ってほしいです!
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