13 聖母
町の広場に物資と共に着陸すると、私は大きな歓声で出迎えられた。それは一昨日に初めて訪れた時以上のもので、兵士も住民も口々に「聖女様!」と叫ぶ。
……私、なぜこんな大人気に? それほど大したことはしていないよね? 飢えかけていた人々に新鮮な食材をたっぷり提供したり、生死の境を彷徨っていた人も含めた十数人を完治させたりしただけで……、いや、割と大したことをしてるかも。
侍女の二人は町のこの反応に興奮を隠しきれなかった。
「もう全住民が聖女ルーシャ教団に入信してくれそうじゃないですか!」
「やっぱり地道な布教活動より一つの奇跡ですね!」
浮かれすぎでしょ……。(紙芝居で布教している司教さんが可哀想だよ)それに、入信してもらうより先にこの窮地から救わなきゃならないんだから。
私の冷めた眼差しを受けて侍女達も正気を取り戻した。
「そうでした、早速仕事にかかります」
「ベストを尽くします」
彼女達を含めた五人の神官が軍の人達に聞き取り調査を開始。本当に迅速に動いてくれたらしく、程なく私に報告を上げてくれた。
まず、急ぎで治療が必要な人達の所に行き、彼らに〈ヒールワイド〉を施す。いつも通り、死にかけていたのが嘘のように一瞬で元気な姿になった。
次に、本日必要な食糧の目安が示された。その数字に私は眉をひそめる。
「あれ、家畜や魚がずいぶんと少なくない? 牛なんてたった一頭だよ」
首を傾げる私に侍女の一人が説明を始める。
「その分、イモやマメ類を多く出していただきます。治癒が必要な方々がまだ結構いますので、今日はルーシャ様にはそちらに力を使っていただきたいのです。生物の再生には相当な魔力を消費しますよね? 牛一頭分の魔力で何人治療できます?」
「えーと、さっきみたいな命の危険がある人だと五人から十人くらいかな(肉体の欠損度合いに応じて変わってくる)」
私の返答を聞いていた兵士や住民が途端に騒ぎ出した。
「聖女様、私達はイモやマメで充分です!」
「ぜひ治療を優先してください!」
……まあ、そりゃそうか。ちょっと待って、じゃあ一昨日の私がまるで人命をないがしろにしていたみたいじゃない? だってあの時は皆飢えていたし、肉や魚も食べたいだろうって……。駄目だ、何を言っても言い訳になるし、私の判断も確かに誤っていた。ここはおとなしく従っておこう……。
示された食糧を出したのち、私は一息ついて。
「じゃあ、治療を始めるよ。魔力はまだまだ残っているからね、怪我も病気もどんどん治していこう」
「お願いします。きっちりと計算できるものではありませんが、ルーシャ様なら今日か遅くとも明日中にはこの町の全ての人々を治療できるはずですので」
侍女が述べた予想に周囲の人達はぽかんとした表情になった。
うーん、生物の再生を抑えればそれくらいでいけるのかな。イモやマメに頼った生活は案外短くて済みそうだった。
なお、この世界の〈ヒール〉は細胞レベルで治療するので大抵の病気も治してしまう。私は広場に集められた怪我人や病人に次から次へと〈ヒールワイド〉をかけていった。やがて広場の全員が健康になり、残りの治療が必要な人は明日までに集めておいてもらう、ということで話がまとまる。
まだ魔力は結構余ってるんだけど……。鶏でも出しておくか。
バサバサと鶏を積んでいると、あの指揮官の年配男性がやって来るのが見えた。
「やはり聖女様はすごいですね。一緒にいらしたあの少女もですが……」
「あ、セレノアさんのことですか?」
「はい、何か援護をしなければと壁の上から兵達と窺っていたのですが、……全く必要ありませんでした」
「……無双状態だったでしょ」
噂をすれば当の少女もこちらへと歩いてくる。
衣服にはあちこちに返り血が、そして透き通るような銀髪も真っ赤に染まっていた。怖くて仕方ないけど労わらないわけにはいかない。
「セ、セレノアさん、お疲れ様……。怪我とかはしてない?」
「全然。お腹がすいたから一旦離脱してきただけ」
「また行くの?」
「まだ千か二千くらいしか狩れてない。もっとや(殺)らないと」
無表情で淡々と決意を語るセレノアさんに対し、侍女の二人が首を横に振った。
「いえいえ、セレノアさんは一日一回の突撃で充分です」
「もう一人、空からの攻撃をお願いした方がそろそろいらっしゃると思うので」
え、誰それ? 私は聞いてないよ?
尋ねると侍女達は意味深な笑みを浮かべて声を揃えた。
「「我が教団の聖母様です」」
聖女ルーシャ教団にそんな人が! いや、どうして聖女の私が知らないの……。
ちゃんと説明させようと思っているうちに侍女達が上空を指差す。
「いらっしゃいました!」
「聖母様です!」
晴れわたる青空に、風を纏った一人の女性が浮かんでいた。見覚えのある勝気な笑顔と、少しカールした長い黒髪。
……見覚えがあるに決まっている。あれはテルミラお母さんだ。
「……お母さん、聖母になったの?」
頭を抱える私に侍女達は顔を見合わせながら。
「働いても働かなくても毎月給料をお支払いするのでとお願いしたら」
「即答で引き受けてくれましたよね」
楽してお金が稼げると踏んだか……。
あの人、浴びるように酒を飲むけど聖母にして大丈夫?
この物語、まだまだ(アフターエピソードが)続くということで、容姿的特徴も入れていくことにしました。
ルーシャの髪色は茶色、レイエルはやっぱり金髪でしょうか。
実はそれ以前に、何とかしないといけない問題があるのですが……。
侍女S
「私達、結構出ているのにいつになったら名前を貰えるのでしょうか」
「一話目から、レイエルさんやテルミラさんより多く出ていますよね」
……次話で何とかします。




