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ツイン・コリドー

作者: ひやとい
掲載日:2025/10/19

いつの間にか死んでしまい、途方にくれる男。そこに1人の老人が現れた……。



「むうっ……」

 気がつくと俺は暗闇の中にいた。何も見えない。何も聞こえない。そして、冷凍庫の中にいるかのように寒い。まるで、地獄のようだった。

 いや、もしかしてここは地獄なのか、俺は死んでしまったのか……。

 呆然と佇んでいるしかなかった。

 と、仄かな光が見えた。

「ん、……」

 他にあてもなかったので、俺は光の方向へと足を向けた。

 すると、一人の老人が、いかにも年季の入ったとみえる燈篭を持ち、これまた黴が生えたような木の椅子に座っていた。

「あ、貴方は……?」

「フッフ、儂は、お前さん方が言うところの、あの世の入り口の、そうじゃな、門番のようなもんじゃ……」

 門? という事はこの老人の座る近くに門があるということだ。が、しかし門らしきものは見えない。そのかわりに、二つの、いつ作られたのかも定かではない、古い扉があった。一方は白く光る金属の枠に囲われ、もう一方は、オレンジ色の布のようなものに覆われていた。

「儂は、お前さんのような、地獄とも極楽ともつかぬ、さ迷える魂を導くため、この二つの扉を管理する者なのじゃ」

「む? すると俺は死んだと?」

「左様」

「で、地獄にも行けずにさ迷っていると……」

「そうじゃ。で、そういう者たちは善なのか悪なのか判別がつかぬので、どちらに行くか、自らの判断、いうなれば前世よりの因業によって行くべき道を決めるのじゃ。より善の多いものが永遠の幸福への扉を開き、そして、永遠の幸せを得るのじゃ……」

 やはり俺は死んだらしい。

 知らされてショックだったが、とりあえずは、今置かれている状況を考える事にした。

 確かにここに来る前の俺は、特別いい事もしなかったが、特別悪い事もせずに生きてきた。老人の言う事は確かに本当かもしれなかった。

 それに、どちらにしても俺は、このままでは寒さにも寂しさにも耐えられそうにない。

 とりあえず、前に進まなければならないようだった。

「納得したようじゃな」

 老人の言葉にうなづくと、言葉を発した。

「要するにおれは、どっちかの扉を選ばなきゃいけないんだな?」

「そうじゃ。で、それぞれの扉を開くと回廊を通り、そしてその回廊が導く場所に辿り着くと言うわけじゃ」

「それを、決めなければならないんだな?」

「そうじゃ。決定については、儂からは何も言えん決まりになっておる。おまえさんの意思と因業によってのみ、判断せねばならんのじゃ」

 これからの行く末を決める大事な問題だ。俺は悩んだ。

「ヒントも与えられないのか?」

「お前さんだけで、決めねばならん」

「でも、貴方はどちらに行けばどうなるか、知っているんだろう?」

「それには答えられん」

 どうやら老人は答えを知っているようだった。見たところ力もなさそうだった。俺が老人を襲って答えを強要すれば、あるいはそれを教えるかもしれなかった。

「ダメじゃ! お前さんの考えている事は、儂にはお見通しじゃ」

 そう言うと老人は燈篭を頭上に高くかざし、

「セイヤァァァー!!」

と大音声で叫んだ。たちまち燈篭から目も眩むような光が放たれ、轟くかの如き爆音が鳴り響いた。

「どうじゃ。これでも、儂に手向かおうとするか?」

 俺は、考えを修正するほかなかった。

「四の五の言わずに、選ぶのじゃ」

 老人に促され、俺は改めて二つのドアの前に立った。

 見ると、白く光る枠に囲われたドアはどことなく寒く感じ、オレンジ色のドアは、色から考えれば当然かもしれないが、暖かく感じた。

 暗く寒い中で、素直に考えてみればオレンジ色のドアだが、そこに罠が仕掛けられているような気が、した。

「選ぶのじゃ」

 思いきって俺は金属で囲われたドアを開け、中に入った。

「むうっ……!」

 吸い込まれるように入ったそこは、白い光を放つ回廊が無限と言えるほど続き、行けども行けども先が見えなかった。しかも猛烈に寒く冷える。

 俺は回廊を、転がり込むように駆け下りる。何かに導かれているかのように。

「しまったか……!」

 だが、暫くして段々と周りの温度が上がり、やがて快適な状態となった。そしてその頃には、春の野原のような光景が目の前に広がっていた。

 あまりの快適さに呆けていると、空の上の方から老人の声が聞こえた。

「フッフ……お前さん、どうやら善の因業が少しだけ強かったようじゃの。お前さんの選んだ回廊は白金回廊。最初は冷たくて寒いが、段々と暖かくなり、しかも燃料さえ買っておけばいつまでも暖かさが持続するのじゃ。」

「すると、もうひとつのは……」

「そうじゃ、使い捨て回廊じゃ。最初はすぐに暖かいが、あとは何をやっても暖かさは戻らず、そして回廊ごと捨てられていくのじゃ。お前さん、これからも善行をよく積むようにな。では」

 響き渡るような老人の声が消えると、俺は気が気じゃなくなっていた。

「ワー、早くドラッグストアに行かなきゃ!」


怒らないでくださいね?


地口落ち第2弾です。

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