きっと、また会える日まで
まだアイデアを書き殴っている段階です。心温かい目で読んでくださると幸いです。
高校二年生の四月、東京の中ではそれほど偏差値が高くない私立保咲高校に、静かに転校してきた。初めての場所、新しい環境に心がざわつく。
「志田隼人です。よろしくお願いします。」
ありきたりな挨拶をして、先生に促されるまま席に着いた。
胸の奥に不安が渦巻く。左腕には赤く腫れた傷が見える。前の学校でのいじめに耐えきれず、自殺を考えた末に付けたリストカットの跡だ。誰かに気づかれてしまったら、間違いなくまたいじめの標的になる。そんな思いにとらわれながら、俯いていた僕に、突然声をかけてくれる人がいた。
「はじめまして!私、志田桜っていうの。苗字が一緒だから、つい話しかけちゃった。」
笑顔の彼女は、優しい笑みを浮かべていた。その笑顔に、少しだけ心が和らいだ。
でも、それでも僕は声を出せなかった。
この子も、いじめに巻き込まれるかもしれない。そんな人間不信に陥ってしまうほど、僕の心はすり減っていた。
「さくらぁ、帰ろー」
彼女は友達に呼ばれ、僕にだけ「じゃあね」と笑顔で手を振って去っていった。
次の日、昨日の自分の態度に呆れながら登校した。
あんな失礼な態度を取ったのに、彼女は今日も僕に話しかけてくれた。
「おはよう!苗字が一緒だから呼びにくくてさ、隼人くんって呼んでもいい?」
彼女の笑顔は、昨日よりも少しだけ明るく、純粋な優しさが伝わってきた。
僕は一瞬戸惑ったけれど、心のどこかで彼女の提案に応えたい気持ちもあった。
「ぃ…いいよ」
声は震え、言葉もぎこちない。でも、彼女はそんな僕を気にせず、にっこりと笑った。
「やった!ありがとう、隼人くん!」
彼女は元気よく席に戻り、授業が始まった。
その瞬間、僕の胸の中に、少しだけ温かさと希望の光が差し込んだ気がした。
昼休み、僕は体育館裏で男子に呼び出された。
「なぁ、お前さ、転校してきていきなり女子と楽しそうに話して、舞い上がってんじゃねぇの? いじめられたくなきゃ、大人しくしとけよ」
その言葉は、鋭い刃のように僕の心に突き刺さった。
頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。気づけば、相手の男子が走り去るのを見ていた。
立ち上がることもできず、ただ座り続けるしかなかった。
その時、誰かの声が聞こえた。
「隼人くん、大丈夫?」
振り向くと、白い天井とともに、優しい笑顔の彼女がそこにいた。
僕は慌てて涙を拭いながら、彼女の顔を見つめた。
「なんでこんなところに…やめた方がいいよ。僕に構ってたら、君もいじめられるよ?見たらわかるだろ」
彼の刺々しい言葉に、彼女は微笑みを崩さなかった。
「私、小学生のとき好きだった男の子がいたの。いじめられてたけど、その子は、いじめてきた男子たちよりずっと弱いのに、いつも助けてくれたの。」
彼女の言葉に、僕はふと、記憶の片隅にあったあの日々を思い出した。
いじめっ子たちが彼女にちょっかいを出していたとき、その男の子は静かに、でも確実に彼女を守ってくれていた。
「それでね、その子と中学は別々になったけど、私はいつかまた会える気がしてた。きっと、いつかね!」
彼女の瞳は遠い未来を見つめているようだった。
「その男の子はね、隼人くんなんだよ?」
その言葉に、僕は一瞬耳を疑った。
「え、」
まさかそんな偶然があるはずないと思った。でも、彼女の表情と声は、まるで真実を語っているかのようだった。
胸の奥に、何かが静かに震えた。
「だからね、隼人くん。私は君と一緒なら、いじめられても平気だよ。」
彼女は、最初に会ったときの笑顔を再び僕に向けた。
「僕は…僕は君が――」
僕は一瞬、言葉を失った。
彼女の瞳は真剣で、まるで未来を見通しているかのようだった。
その言葉が本当なら、僕は今までの自分のすべてが崩れるような気がした。
でも、同時に、心の奥底に温かい何かが芽生えた。
「…君がそう言ってくれるなら、僕も…」
声は震えながらも、少しだけ強くなった。
彼女は微笑みながら、そっと手を差し伸べてきた。
その手を握ると、心の中に新しい何かが流れ込んできた気がした。
これから、僕たちはどうなるのだろう。
でも、今はただ、この瞬間を大切にしたいと思った。
彼女の笑顔と、未来への希望を胸に抱きながら。
数年の時が流れた間に、僕たちの人生は少しずつ変わっていった。
高校を卒業し、それぞれの夢や進路を追いかける中で、距離は自然と広がっていった。
彼女は遠くの大学へ進学し、新しい環境に馴染もうと努力していた。
僕もまた、別の街で新しい挑戦を始めていた。
しかし、忙しさや距離の壁は、次第に二人の心にすき間を作り出した。
最初は、たまに届くメールや電話だけで十分だと思っていた。
でも、次第に会いたい気持ちが募る一方で、時間や距離のせいで、すれ違いも増えていった。
ある日、彼女からのメールが届いた。
「ごめんね、隼人くん。私、今のままじゃダメだと思う。お互いの夢を追いかけるために、一度距離を置きたい。」
その言葉に、胸が締め付けられる思いだった。
僕も、同じ気持ちだった。
「わかった。お互いの幸せのために、今は離れよう。」
そう返信した。
それから、連絡は次第に途絶え、二人は別々の道を歩むことになった。
時には、過去の思い出が胸を締め付け、涙を流す夜もあった。
でも、心のどこかで、いつかまた会える日を信じていた。
あれから数年。
お互いに新しい道を歩きながらも、心の奥底では、あの日の約束を忘れずにいた。
さらに数年の時が過ぎ、僕たちはそれぞれの道を歩んできた。
新しい職場での忙しい日々や、さまざまな出会いと別れを経験しながらも、心の奥底にはあの日の約束が残っていた。
ある日、仕事の合間にふと休憩室に入ると、そこに彼女がいた。
最初は驚きと戸惑いが交錯したが、彼女の笑顔を見ると、自然と心が温かくなった。
「久しぶりだね…」と彼女が静かに言った。
僕は、言葉にならない思いを胸に、ただ頷いた。
「会いたかったよ。ずっと、待ってたんだ。」と僕が伝えると、彼女も微笑みながら答えた。
「私も、あなたに会いたかった。きっと、また会える日まで、頑張ってきたから。」
その瞬間、職場の忙しさや緊張感を忘れ、二人の間に流れる空気は温かく、優しいものだった。
未来はまだ見えないけれど、確かなことは一つ。
「これからも、ずっと一緒に歩いていこう。」と誓い合った。
心の中で、あの日の約束を再び胸に刻みながら、僕たちは未来へと歩き出した。