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音痴な歌の聖女と聖なる竜

作者: 夜明青





わーい!転生して美少女になった☆

そして、聖女に選ばれた!

うん!うん!こういうのってやっぱり決められたセオリーだよね!


そう思ってた時期もありました。

いや、なんで私が歌の聖女なの?

ただの聖女でいいじゃん。

そもそも、なんで聖女に種類があるんだよ。ゲームならクソゲーも良いところ、やり直しさせろ。神様、人選ミスってるぞ。


私が産まれた世界にはナハト様を主神とし、その下に六人の神様がいる。

主神ナハト様の対価は聖女は祈ること、他の神々の聖女はそれぞれ要求されることが違う。

そして私は神託によって選ばれた歌の神リィト様の聖女だ。


さて、先に悪態をついたが、歌の神の聖女なのに私は転生前から音痴なのだ。

しかも笑えるような超音痴ではなく、ああ、う、うん、という感じの。



歌の神の聖女の力は、歌うことで力を発揮する。

上手ければ上手いほど、その力は強いという。


さて、私のレベルはというと、まあ歴代のなかでいえば下の上か中の下くらいらしい。

やったね!ビリじゃないよ!

もうヤケクソになる。

教えてくれる人が、私が一向に上達しないせいで何回も変わっていて何だか気の毒である。すまん、これでも本気なんだよ。


そもそも私はリズム感が無いらしく、音程もよくわからない。

お手本に歌ってもらうと音の高低さはわかるが、それをどうやって自分が歌った時に出してあわせるのかが解らず出来ない。

参考までに残ってる過去の歌の聖女の記録を映像石(転生前でいうところのビデオカメラにちかい、映像と音声を残せる記録装置)で見せてもらったが、この人凄いねオペラ歌手になれそうとしか感想でなかった。

つまりは映像石に残してるような人は私とは段違いにうますぎて、全く参考にならないのだ。


そもそも歌が決まってるのが悪いのでは?

適当に自作のを歌っても、聖なる力を発揮するのではないかと試したけど全く意味はなかった。


そしてあまりにも上達しない私を不憫に思ったのか諦めたのか、歌うときに左右に一人ずつ歌が上手い神官が一緒に歌いリードしてくれることになった。

これで少しは自分の歌もマシになるかなーとウキウキしてたら、何度か祈りの歌を捧げたあと二人が泣きながら上位神官に職を辞したいと土下座してるのを見てしまった。

いわく、聖女の音程に自分がつられてしまう、いやつられてる、自分までも聖女のように歌ってしまう、と。

あははは、これも聖女パワー()かな。


違うよね。

音痴パワーだよね。私の音痴力なかなか半端無いな。

むしろ音痴の神がいたらそちらの聖女になるべきだったのでは?


流石にその光景をみたあと、公式の行事と歌の訓練以外は暫く寝込んだ。

しかも次の公式の行事のとき左右の二人はいなくなってたしね、早い。

歌の神につかえてる神官だから、私の音痴がうつらなくて良かったね!と思ったが、既にうつってたらどうしようって不安になって胃がキリキリと傷んだ。


今日も今日とて、堂々と歌う。

私の歌でもぼちぼち効果はあるらしいが、気分はずっとジャ○アンリサイル。

本人の意思は関係なく開催される、強制リサイタル。ここは地獄です。


そんな日々を過ごしていると、主神ナハト様の聖女が身罷られた。

もうかなりのご高齢だったし、正直いつ亡くなってもおかしくなかったのだか、これは非常にまずい。

残ってる聖女が私だけなのだ。


そもそも、聖女が全て揃ってる事はそうそう無いが常に聖女は3人ほどはいるらしいのに今代は何故か神託がおりないらしい。


今このビミョーにしか力を発揮できない聖女の私だけになるのはこの世界、我が国的にかなりまずいのである。


歌のレッスンの時間が増え、力不足を補うため祈りの歌は毎日捧げるようになった。

それでも主神の聖女がいた時より、世界が不安定になってきてしまった。


神官達は毎日それぞれの神に祈り、神託を、聖女を待ってるというのに、神様からは何の音沙汰もないらしい。


神も仏もないって思ったけど、この世界に仏っていう概念はない。

喉に良いとされる美味しくない液体を飲んで、日々自分が出来ることを頑張る。

歌唱力は上がってないみたいだけど。


それから半年が過ぎた頃、いつものように歌っていると、大きな白い竜が結界を破り教会のステンドグラスを壊しながら侵入し私の前に姿をあらわした。


竜ってなんだよ、神獣ともいわれる生き物じゃん、私の歌じゃ太刀打ちできるわけないじゃん。もう駄目じゃん。じゃんじゃんじゃん語尾につけて文句を思いながら私の人生もここまでなのかと諦めモードに入ってると、


「安眠妨害だから歌うのを止めてくれ。」


と、竜が言ってきた。

いやいや、酷くない?そこまでの音痴じゃないよ。と言いたいけど、突然あらわれた竜に驚きすぎて声がでない。

竜はそのまま続ける。


「神の加護を得るために歌ってるのはわかる、たしかに力も感じるが。」


そこで、言い淀んで、こちらを伺いながら気まずそうにしている。

あー、これは人の心がわかる気遣いができる良い竜さんですね、私の歌が本当に耳障りなんですね。

しかしですね、こちらも事情があるんですよ。


「竜様、いまこの国を守る聖女は未熟な私しかおりません。また私の未熟さゆえに毎日歌うのをやめるわけにはいかないのです。」


なるべく殊勝に見えるように言うと、

竜がふーんって顔しながら尻尾を軽く動かした。


それだけで竜に壊された結界は修復し尚且つ強化までされ、協会も元通りになった。

しかも、それだけではない。国中に聖なる力が行き渡ったのを感じた。

そして竜自身もまばゆい光に包まれてーーー。

私はそこで気絶した、完全にキャパオーバーである。


目覚めると見慣れた天井、つまりは自室のベッドの上に寝かされていた。

これは夢オチなのでは思ってると横から見知らぬ男の人の声が聞こえてきた。


「お前、目を覚ましたなら起きろ。」


白髪の偉そうな男性、その人に見覚えは全く無いけど、此処は聖女の部屋。

その部屋に二人きりにさせるほどの人物、そして何より物凄く綺麗だし格好いい。

生きてきて、いや、前の人生もあわせてもお目にかかったことがないくらいの美形だ。


こりゃ、多分じゃなくても、竜だわ。

あわてて起き上がって、ベッドからおりて膝をつこうとすると手の動きでそれを止められた。


「事情はわかったから俺が暫くは手伝ってやる。だから歌の頻度を減らせ、せめて前くらいにしろ。」


えっ手伝ってくれるとか神かな?いや、竜だったわ。

今日から歌の神様じゃなくて貴方を信仰したい。

そう思って拝んだから、俺は神じゃないからやめろ!と断られた。解せぬ。


それからは本当に竜が手伝ってくれたお陰で国が安定した。

色んな人が、国王までもが竜に会いたがっていたけど基本的に竜はそれらを断っていた。


面倒なことは嫌いだとのこと。

はー強者だからそんなこと言えるし実行できるんですね、羨ましい限りですとは口が裂けても言えないのでニコニコして聞き流してたら、胡散臭そうな顔でみられたから心の声がバレてたのかもしれない。


竜と言葉を交わすのは私だけなので、必然的に教会での私の地位が上がった。

最近では歌の聖女ではなく、聖竜の聖女とよばれることも多くなった。


このまま歌うことが無くなればいいなーなんて思ってたら、それを却下したのはまさかの竜である。

救いの神、いや救いの竜じゃなかったのかと思ったが、なんでも竜の力と聖女の力は少し違うものらしく、たまには聖女の力が必要らしい。


なので今でも歌うが前よりも祈りの歌を捧げる回数はかなり凄く減り、たまに歌うと聖竜の聖女が祈りを捧げてくださってる!みたいに言われるようになり周りの態度が変わった。

竜様々のおかげである。


その竜はというと、教会から与えられた私の部屋とは比べ物にはならないくらいの豪華な竜専用の部屋で寝ていることが多い。

いわく、教会にいる必要はないのだが、崇められて貢がれるのは悪い気はしないからいる、とのことだ。

ふむ、この竜なかなかの俗物かもしれない。


あと、暇なのか竜はよく私の部屋へやってくる。

そして人のベッドの上でゴロゴロしたり、ソファーで寝そべってたり、とても自由である。

たまにプライバシーってしってます?プライベート空間ってしってます?って言いたくなるけど、顔をみるとその綺麗さに全てが吹っ飛ぶ。


ねえ、知ってた?

本当に綺麗なもの見ると人って馬鹿になるんだよ。

わあ、お顔が美しい、いや美しいなんて言葉じゃ表現できないほどのご尊顔だわ~しか考えられなくなる。

あの顔を見れるから許せると思ってしまうくらいに顔が良い、これは私の負けだ。




それから数年がたって他の聖女が連れてこられたけど竜はまだ教会にいてくれてる。


ある日、お忍びで街へ外出したら花屋で前世の鈴蘭に似た可愛い花をみかけたので購入して、なんとなく竜に渡したら爆笑された。

宝飾品などは沢山ささげられてきたが、こんな粗末な花を渡してきたのはお前が初めてだと。

ムカついたので奪い返そうとしたら、貰った物だからもう俺の物だと微笑みながら拒否された。

そして私は今回もその顔に負けた。

イケメンずるい。





それから数十年がたった。

私はしわくちゃのお婆ちゃんになったけど、竜は相変わらず若い見た目で美しいまま。


ベッドから起き上がることも難しくなり、歌を捧げることもほとんど無くなった私に竜は会いに来る。そして、たまには歌えと言う。

祈りの歌で無くていい、何の歌でもいいから。お前の歌を聞きすぎて、下手なの解っててもたまに聞きたくなるんだ、と。


だから、その時はもう殆んど忘れかけてる前世の歌を口ずさむ。

竜はそれをただ静かに聞いて、終わったあとに変な歌だなとか、相変わらず下手だなって言いながら、また今度聞きたいとも伝えてくる。


老いた私が今度という約束をいつまで守れるか解らないのに、また次も聞いてねと言ってしまう。

もう神様には散々歌を捧げた、国の為に、民の為に。

だから、もう先が長くない私の歌は、彼だけに聞かせる歌は彼の為にするのは許してほしい。


神よ許されるなら、この先、彼が幸せであるようにと私に祈らせてください。

この優しい竜が寂しくないように。

どうか孤独になりませんように。




※※※※※※※※※※※



教会の裏には歴代の聖女の墓がある。

聖竜の聖女の墓もそこにある。

彼女は国を守るため歌で竜をよび、そして竜はそれに応えたのだという。


その墓には摘んだばかりのような白い花が置かれているときがある。

墓が朽ちるほど時間がたっても、それが途絶えることはなかった。


















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