八話 火の海
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「誰か助けてぇぇぇぇ!!」
「っ……」
私は部屋の隅っこで膝を抱えながら震えていた。
外から聞こえてくるのは住人の叫び声。まわりはだんだんと火の海に包まれていく。
幸い、火はここまで来ていない。が、団子屋が焼け落ちるのも時間の問題かもしれない。
妖の数はどのくらいなのだろうか。私が本物の巫女なら妖くらい簡単に払えたのに……。
こんな時でさえ私は役立たずの巫女なのか。
困っている人がいる。助けを求めている人がいる。それなのに私は何も出来ない。
私に出来るのは、ただ庵様が無事に帰るのを祈ることだけ。
「もしかしたら、お父さんが巻き込まれてるかもしれない。やっぱり僕、外に出る!」
「駄目っ……! 庵様にも外に出るなと言われたでしょ?」
ここで龍くんすら守れないのなら、私の存在価値は今度こそ無くなってしまう。
庵様にも子供一人すら守れない女なんか必要ないって……そう言われて、桜ノ国を追い出されてしまうんだ。
私は庵様に救われた。けれど、庵様に拒絶されれば、私は今度こそ居場所を失ってしまう。
せっかく心地いい場所を見つけたのに。ここから離れるのは嫌だ。
「僕なら大丈夫だよ。だって、かなり火は広がってるのに、ここ一帯は無傷でしょ?」
「えっ?」
それは、たまたま運が良かったか。もしくは火から一番遠くて、妖もあまり居ないから……そう思っていた。
「今頃、お父さんは僕を探して走り回ってるかもしれないし。僕、そろそろ行くね」
「龍く……っ……」
身体が動かない? どうして?
「龍くん、待って……!!」
「お姉さん、少しの間だけど僕と遊んでくれてありがとう。お姉さんが僕を中に入れてくれたからこそ、こんなに楽しいことが出来たんだよ」
「それって、どういう……」
「お姉さんの行動が今の状況を作り出したってこと。お姉さん、バイバイ。……次はお互い生きて会えるといいね」
「まっ……」
私が龍くんを桜ノ国に入れたから、こんな状況になった?
ねぇ、それってどういうことなの?
私が聞こうにも龍くんは私の前から姿を消した。身体は未だに言うことを聞かない。
私、このまま死ぬの? いやだ。死にたくない。
……死にたくない?
あれだけ死ぬことを望んでいた私が?
すぐ近くでパチパチと焼けるような音がする。
「まさか……い、やっ……」
燃えている屋根が私めがけて落ちてきた。
「誰か、助けて……」
私は死ぬ覚悟を決め、目を瞑った。
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