二十話 脅し
「ここが着物屋だ。新しい着物などが欲しければ買うといい」
「店主様。私に何か買ってくださらない?」
「……」
庵様は卯月ちゃんに国を案内していた。私は少し距離を取って、二人の後ろをついていく。
こうしていると、神無月家にいた頃を思い出す。使用人同然の扱いを受けていたっけ。
「緋翠お姉ちゃん、どうして私たちから離れているの? せっかくなら緋翠お姉ちゃんも店主様とお話したらいいのに」
「これは卯月ちゃんの縁談だから、私が邪魔するのも悪いし……」
「ちゃんと自分の立場を弁えてて偉いじゃない。……穢れ巫女の緋翠姉さん」
「……」
前もこんな風に卯月ちゃんから耳元で囁かれていた。……聞きたくもない言葉。でも、私が穢れているのは紛れもない事実なんだから、受け入れるしかない。
「あれ、団子屋。戻って来てたの? 緋翠ちゃんと妹ちゃんのお母さんなら、私が相手してるけど……」
「朱里か。いや、今は国を案内しているだけだ。しばらくは緋翠たちの母の話し相手になってやってくれ」
「わかった! けど……」
「なんだ?」
「妹ちゃんにばかり構ってないで、緋翠ちゃんのほうも見てあげたら?」
「緋翠、どこか具合でも悪いのか?」
「い、いえ……私は元気です」
「朱里、お前の言ってる意味がわからないのだが」
「団子屋の鈍感~! 団子屋のバーカ!」
「おい、こら朱里!」
「ふふっ、怒られちゃいましたね」
「……そうだな」
「ねぇ、緋翠お姉ちゃん」
「な、なに? 卯月ちゃん」
「私を放っておいて、私の未来の旦那様とばかりお話しないでほしいな。そんなことをされると嫉妬してしまうわ。店主様、私を案内してくれる約束でしょう?」
「悪かった……。次に行こうか」
「っ……」
未だに庵様に触れるのを躊躇してしまう私とは違い、卯月ちゃんは庵様と気軽に手を繋ぐ。
……なにもかも卯月ちゃんに奪われる。
私は本当にこのままでいいの?
卯月ちゃんの幸せを願い、卯月ちゃんの言いなりになったままで。
「店主様。それでいつになったら店主様の手作りのお団子を食べさせてくれるんですか?」
「それもそうだな……。小腹も減ったし、一旦、団子屋に戻るとするか」
「あの、庵様」
「緋翠?」
「私、お母様とお話してきます」
「私もそれがいいと思うわ。緋翠お姉ちゃん、お母様と会うのも久しぶりだものね。積もる話もあるでしょうし、行ってきたら?」
「うん。行ってくるね、卯月ちゃん。……庵様、卯月ちゃんのことお願いします」
「……わかった」
私は卯月ちゃんに気を遣い、その場から離れた。
これで卯月ちゃんの言っていた手助けをしたかはわからない。けど、庵様と二人きりにした。……これでいいんだよね?
◇ ◇ ◇
「あら。緋翠さん、どうしたの? 卯月は一緒じゃないのかしら」
「お母様。おひとりですか」
「朱里さんは着物のお仕事があるとかで奥の部屋で作業をしているわ」
「そ、そうなんですか」
お母様と二人きり。緊張と不安で鼓動が自然と早くなる。
……朱里さんが奥の部屋に? 今日は忙しくないと言っていたのに? それに、今さっき会話したばかりだ。……何かがおかしい。
「お母様。使用人はお連れになっていないのですか? 卯月ちゃんと二人で桜ノ国に?」
「卯月と二人? そんなまさか。……私が使用人も無しで国を出るとでも?」
「っ……お母様、朱里さんは!?」
「だから奥の部屋で作業をしていると言ったでしょう? ちょっと、緋翠さ……」
「……いない」
私は朱里さんがいるであろう奥の部屋の戸を開けた。しかし、そこはもぬけの殻。
寝床や作業部屋も見てみたけれど、朱里さんはおろか、朱里さんの両親の姿さえなかった。
「もしかして、着物屋の娘を心配しているの? ゴミの分際で友人を作るなんて百年早いわ」
「お母様……どう、して?」
「安心しなさい。殺しはしていない。……これも卯月の幸せのためよ」
「桜ノ国の住人は全員が家族なの。朱里さんがいなくなったとわかったら、住人全員が黙ってない」
「それなら住人丸ごと私の配下に置くわ」
「そんなこと出来るわけ……」
「神無月家がどれだけ凄いか、貴女が知らないわけないでしょう? 神無月家の巫女の力は強いわ。ゴミ巫女の緋翠さんには使えなくとも、私にはそれが使える。……母を舐めないことね」
「っ……」
「着物屋には少しの間、別の場所に居てもらうだけよ。他の住人はこの張り紙でも貼っておけば気付かないでしょうし、声をかけることもないわ」
バンッ! と、入口に貼ったのは一枚の張り紙。
そこには「しばし作業をするので、声をかけないでください」と書かれていた。
「この事を店主様に言ったら、今すぐ貴女を国に連れ戻す」
「……っ」
「それが嫌なら大人しくしてなさい。貴女は私の使用人なんだから、いい子でいることくらい、出来るわよね?」
「……はい」
「これも卯月ちゃんが店主様に気に入られるためよ」
「お母様、聞いてもいいですか?」
「なによ」
「どうして、朱里さんに酷いことをするんですか」
「それは貴女のせいじゃない」
「私の……せい?」
「貴女が着物屋を大事な友人だというからよ。ゴミ同然の貴女が友人を作るなんて、そんなこと許されるわけないじゃない。
着物屋一家も不憫よね~。貴女みたいなゴミ巫女に関わったせいで、自らの身が危険にさらされるなんて」
「ぁ、ぁぁぁ……」
私は泣き崩れるように、その場に座り込んだ。
私のせいで、朱里さんが危険な目にあったんだ。私が朱里さんと仲良くならなければ、私が朱里さんと友人にならなければ、こんなことにはならなかった。
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