十八話 どうせ嘘なんでしょ?
「……せて、」
「え?」
「とっとと咲かせて」
「卯月様。今なんて……」
「この桜、アンタが咲かせてって言ってるの!」
「私には無理です。私は巫女としては最弱で……」
「最弱? そもそもアンタは力すら使えない無能でしょ?」
「それをわかってるなら、なんで……っ」
「私にはコレが桜だって信じられないの」
「えっ……?」
「どうせ御神木だって言うのも嘘なんでしょ?」
卯月ちゃんは一体なにを言っているの?
「庵様の言葉を疑うの?」
「決まってるでしょ? だって他の桜はこの季節なのに咲いてる。けど、この木は枯れてる。どうせ、ただの木なんでしょ?
あの店主は私と最初から結婚するつもりはない。だから、ありもしない作り話をして私を切り捨てるつもりなのよ。もしも本当に御神木だって言うなら、アンタが舞ってみせてよ」
「なんで私が?」
「巫女である私がわざわざこんな今にも折れそうな木のために舞を見せる必要はないって言ってんの!」
「そんな……ひどい……」
あんまりだ。あまりにも理不尽なお願いで私は驚きを隠せなかった。
本物の巫女なら、踊りを舞う。神様のために、参拝者のために、そして、自分が巫女でいるために。
それなのに卯月ちゃんはあろうことか、それを私にやらせようとしている。
「アンタが巫女だって言うなら、枯れた木に花を咲かせることくらい簡単でしょ? 桜が咲けばアンタの手柄は私のモノ。私は正式にアンタを巫女だと認めてあげる。
それで私は店主様と結婚して、アンタはお母様と国に帰る。ほら、これでみんなハッピーエンドでしょ? アハハッ。我ながら私ってばなんて天才なの~!」
「……」
自分の考えに酔いしれる卯月ちゃん。はなからそのつもりで私を御神木の前に連れて来たんだ。
「ねぇ、卯月ちゃん」
「だから様をつけろって言ってんでしょ?」
「貴方が庵様と結婚するメリットはなに? 見合い相手の言葉すら、まともに信じることが出来ないのに、そこまでして庵様に気に入られようとするのは何故なの?」
言わずにはいられなかった。殴られるとわかっていても、私の口は勝手に動いていた。
御神木はたしかに花を咲かせていない。だけど、桜であることは曲げようもない真実。
来たばかりの卯月ちゃんには、これがただの枯れた木にしか見えないかもしれない。でも、私は庵様が嘘をついているようには見えない。
桜ノ国の住人は願い事があるときには、御神木の前で手を合わせ、自身の願望が叶うように祈るのだ。
住人は今までそうして御神木を祀ってきた。
けして言葉には出さないけど、住人は信じているんだ。いつか御神木が綺麗な桜を咲かせることを。
「アンタ、店主様の正体を知らないの?」
「正体?」
「団子屋は仮の姿で本当は妖を退治するのを仕事としてやってるんでしょ? 顔も良くて強いとか、私には相応しい男じゃない。
私が誘惑したら店主様は絶対に落とせる。そして、将来は神無月家の跡取りを産むの。そしたらアンタは本当に必要なくなるわね」
「どうして、庵様が妖を退治してることを知って……」
「将来の主人になる人の正体を予め調べるのは当然でしょ?」
「なら、団子が好きだって言うのも……」
「嘘に決まってるじゃない。私は団子なんて、そんな安っぽいものは食べないわ。大体、私はそんなに甘いもの好きじゃないし」
「卯月ちゃん。あなた、庵様を騙したの!?」
「騙す? ひと聞きの悪いこと言わないでくれる? 騙してるのはあっちでしょ? この御神木は住人に祀られている。着物屋の娘から聞いたわ。でも、そんなのは真っ赤な嘘。
こんな枯れ木に祈るだなんて、着物屋の娘もバカね。……この国の住人は皆、頭がお花畑なのかしら。祈るなら神にしなさいよ」
「っ……庵様に謝って! 朱里さんにも謝ってよ! これは枯れ木なんかじゃない。本当に御神木なの! 桜ノ国の住人は皆、この木を大事にしているんだから」
「そんなに言うんだったら、御神木に桜を咲かせてみせてよ。もしアンタが桜を咲かせたら、信じてあげるわ」
「だから、それは卯月ちゃんが庵様から頼まれたことなんじゃ……」
「……そこまで言うならいいわよ。穢れ巫女のアンタなんかと違って、私は神から愛されてるの。早くに巫女の力が目覚めた私は優秀なんだから。
そこで見てなさいよ、緋翠姉さん。もし、私が桜を咲かせたら、アンタはこの国に本当に居られなくなるんだからね」
「庵様は私を追い出したりしない」
「何を根拠に言ってるの?」
「庵様は私を幸せにしてくれると言った。家族だっていってくれたの。だから私は庵様の言葉を信じる……!」
「ハッ。さっきから庵様庵様ってうるさいわね。……五日なんていらない。一瞬で終わらせてみせるんだから。
そしたら、店主様は私を好きになる。店主様の女になったらアンタが本当は穢れ巫女だってバラしてやるんだから……!!」
「っ……」
身体が動かせない。卯月ちゃんが巫女の力で私の身体の自由を奪ったんだ。
そこまでしなくても私はここを離れるつもりはない。卯月ちゃんに桜を咲かせることが出来るかはわからない。けれど私は庵様が私をこの国を追い出すことはないって、そう信じてる。
『お前は何も心配しなくていい』
その言葉を言われたとき、私の抱えていた不安はなくなった。
たとえ、卯月ちゃんと結婚したとしても、私のことを見捨てることはない。
庵様は私の味方でいてくれる。何故だかわからないか、そう思ってしまったのだ。
まだお互いの全てを知っているわけじゃない。なのに、どうしてだろう? 庵様のたった一言が、私を安心させてくれる。
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