十三話 カステラ
妖が桜ノ国を荒らし、ほとんどの家が家事になった、あの日から一ヶ月が経った。
燃えた家を建て直したり、怪我人の手当て、他にもやらなくてはいけないことは山ずみだ。
だが、しかし、桜ノ国は一週間も経てば、住人は普通の生活が出来るくらい、国は以前と何も変わりのない日々を送っていた。
これも庵様のお陰なのだろうか。いくら庵様に人の上に立ち、住人を動かす力があったとしても早すぎる。
あれからすぐに朱里さんと合流し、朱里さんは言葉通り翌日には回復していた。
『朱里さん、身体の傷は大丈夫なんですか?』
『一日休んだからもう平気。緋翠ちゃん、心配かけてごめんね』
あの時は顔色も悪く今にも倒れそうだったのに一日で元気になるなんて、朱里さんの体力は凄い。
朱里さんが元気になってから数日後、私は朱里さんと手を繋いで散歩をしたりした。が、あれから朱里さんから桜の花びらが落ちてくるようなことも、私の着物にくっつくこともなかった。
あれは一体なんだったのか。そして、現在の団子屋は通常通り店を開けている。
「緋翠、起きたのか? ちょうどいいところに来たな」
「おはようございます庵様」
庵様が椅子に腰をかけて、こっちへおいでと手招きしている。
「いつも団子を買ってくれる常連客が菓子をくれてな。良かったら一緒に食わないか?」
「私もご一緒によろしいのですか?」
「もちろんだ。菓子は誰かと食べるとより一層美味くなるもんだ」
「……」
神無月家にいた頃は誰かと一緒に食事などほとんどしなかった。お母様とは私が巫女かどうかわかる前にしたきりだ。
私に何の力もないとわかると、食事はいつも残りものか粗末な物ばかりでお母様はおろか妹の卯月とすら一緒に食事などもっての外だった。
「黄色い菓子、ですか?」
見たこともない食べ物に少しの不安を覚える。貰いものだから食べれないものではないとは思うが、なかなか手が伸びない。
「カステラという和菓子だそうだ。砂糖や卵をふんだんに使っているから甘いらしいぞ」
「そんな高級なもの、私なんかがいただくわけには……」
私は首をブンブンと横に振った。少しでも疑ってしまった私を叱ってほしい。
私の住んでいた国では砂糖も卵も高級品だった。カステラという名前すら今知ったくらいだ。……私が知らなかっただけで卯月はお母様と食べていたのだろうか。
「緋翠」
「なんでふ……っ……!」
「どうだ? 美味いだろ?」
「……とても美味しいです」
見た目も柔らかそうだったが、中身もフワフワしている。味は程よい甘さに卵の味もしっかりとついている。
……ジャリ。口の中に砂糖の塊のようなものを感じた。
「下のほうはザラメといって砂糖なんだ。カステラを作っている場所は砂糖が豊富で運ぶときに腐らないよう砂糖を使っているとか。だが、このザラメもまたいい味を出しているよな」
私にカステラのことを教えながら、庵様もカステラを味わっていた。
「団子も美味いが、たまにはカステラも悪くない」
と、言いつつ、お皿に乗っているカステラはあっという間に庵様の口の中に消えていく。
「カステラ、そんなにお好きなんですね」
「カステラはいいぞ。食べると幸せな気持ちになる」
「お団子よりもですか?」
「緋翠、お前も言うようになったな。カステラは別腹だ」
「ふふっ」
「俺がお前を幸せにしてやると言ったんだ。これも幸せになる一つの方法だろ? 美味いものを一緒に食う。どうだ? 幸せを感じるか?」
「そうですね……悪くないです」
「お前も素直じゃないな。寂しくなったら、いつでも甘えていいんだぞ」
「か、考えておきます」
最近の庵様はずっと変だ。私にやたら積極的というか……。
まさか私を口説いている? そんなこと、あるわけないのに。
私が庵様の支えになると伝えたあの日からことある事に私に貢ぎものをくれる。それこそ甘いものばかり。
太ってしまったらどうしよう。庵様に嫌われてしまう。それだけは嫌なのに……。
どうして、嫌われるのが嫌と感じるのだろう?
私は庵様のことをお慕いしている。けれど、それは憧れているという気持ちで、愛情とは違う。
そもそも、私なんかが庵様のことを好きになるなんて、それこそあってはならないことだ。庵様には私なんかよりも、もっと相応しい女性がいるはずだ。
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